Episode:3 高み2
――シェラ
獣人の女に目線を合わせ、俺は問う。
彼女は、眉を歪め、首を傾げた。
「知らねぇか? 知識でも、経験でも構わねぇんだが」
俺がそう話すと、獣人の女は首を振った。
「わかりません」
しっかりと、そう言ったのだ。
装備は軽装。
指には高位魔術操作の為の指輪が嵌められている。
背筋はしっかりと伸びていて、安い装備じゃない。
だから、俺は声をかけた。
決して低い等級じゃなく、かなりの高等級だと思ったからだ。
「すまねぇな。一応等級を聞いてもいいか?」
俺がそう話すと、獣人の女は目をパチクリと瞬かせ、口を開いた。
「黒曜銅級です」
そう話しながら、首飾り状の等級章を服の首元から出した。
銅の円盤に、黒曜石が焼き付けられた等級章。
間違いない、嘘じゃない。
直感だが、わかった。
等級章は、銅、銀、金、黒曜銅、黒曜銀、黒曜金と等級が上がる。
彼女のは六段階あるうちの上から三番目。
決して低い等級じゃない。
それでも知らない……。
やっぱり、いないのか?
俺みたいに、あの時声をかけられた奴は、記憶が少しでも残っている奴は、いないのか?
俺は、獣人の女に軽く手を挙げ、礼を言う。
そして立ち上がり、小さな希望を探して歩き出した。
それからだ、休みながらも声をかけ、数刻が経つ。
俺は、ただ廊下の窓から外を眺めていた。
何人くらいに聞いたか、結局の所、収穫は一切なかった。
記憶を消されて世界を繰り返すんだ。
当たり前、俺みたいな奴が珍しいんだ。
あの日、あの時、アイツが俺に声をかけなかったら……。
今こんな所で必死になって情報を集めていない。
これは一つの転換点なんだ。
助けられなかった俺に舞い降り、叩きつけられた挑戦状だ。
ルインは……あの子供だけは守ってやらなきゃいけない。
それが、俺の唯一の罪滅ぼしになる気がした。
「よし、まだやるか」
俺はそう言って、外の景色から、校舎の中に視線を戻す。
しっかり観察しろ、冒険者だ、高等級の冒険者を探せ。
俺は目を巡らせ、思考を迸らせる。
直感を逃すな。
見落とすな。
そして、目を惹いた冒険者に声をかけていく。
「すまん、空が白くなる現象知らねぇか?」
「すまない、わからない」
「いや、助かる」
それからだ、何人もに同じ質問を繰り返した。
「知らない」
次だ。
「わからん、見たことある?」
「私もない」
次だ……。
「そんな現象あるのか?」
次……次。
「いや、わからん。それより、道具買わない?」
次……くっそ。
「わからないわ」
「そうか……すまんな、引き留めて」
最後に声をかけたのは、樹人の女だった。
「ちょっと待って」
俺が立ち去ろうとすると、樹人が俺を呼ぶ。
振り返り、彼女を見つめた。
「なんだ……」
「屋上。何人か情報屋が来てる。正規の手法で手に入れたものじゃない情報まで扱ってるみたいだから、表立ってはできないみたい」
俺は、その情報に目を見開く。
「情報屋」
そうか。
基本的な情報はすでに公になっている。
だから、選択肢にはなかったし、存在すら忘れていた。
そうか……そうだ。情報屋なら……。
「助かる」
俺は短くそう言って、足早に屋上を目指した。
そこにあるであろう道標を求めて。




