Episode:2 高み
僕がシェラ、ディジーと別れ、玄関を跨ぐと、後ろから声をかけられる。
振り返り、声の主を確かめた。
「ルイン、どこ行くの?」
そう話す声の正体は、青い髪を一つに編み込み、肩から垂らしている少女、エヴァだった。
「ちょっと、図書館に」
「どうして?」
エヴァはそう話し、僕を睨む。
彼女は、毎回僕を見つける。
何度繰り返しても、彼女は僕を探し、きっと見つけるのだろう。
「大事なことがあるんだ」
僕がそう話すと、エヴァの瞳が揺れた。
青く、綺麗なまつ毛。
心配性で、世話焼き。
そんなエヴァを助ける為……。
「そんなに、大事なことなの? 実技試験より?」
エヴァの言葉に、僕は拳を握る。
強く握り、そして深呼吸をした。
「あぁ、めちゃくちゃ大事だ」
僕の言葉に、エヴァは俯く。
彼女は魔術が得意だ、知らない事は無いかのように、なんでも出来てしまう。
再配置が起こる前の初めの日、エヴァは確かに言った。
私も努力をしていると……。
そんな彼女を、僕は蔑ろにしてしまった。
突き放してしまった。
まだ、謝れてもしないまま、再配置が起きてしまった。
「エヴァ、ごめん」
僕は、そう漏らしていた。
それは、実技試験を投げ出そうとしている現状に対してか……それとも、あの日言えなかった謝罪か。
「ううん、凄く、大事なんだよね?」
エヴァは首を振ったあと、まっすぐ僕を見つめて言った。
「あぁ、大事だ」
僕が答えると、エヴァは目を見開いた。
濡れた瞳が僕を見つめる、驚きと、困惑だ。
不真面目に生きてきたつもりはない。
だが、何かをするためにここまで必死になった事はなかった。
それが、もしかしたら伝わったのかもしれない。
エヴァの口元が優しく上がる。
そして、僕を見つめた。
「なら、待ってるね。ずっと」
エヴァはそう話した。
僕は目を見開く。
それは、この数十日で、初めて見た優しい笑顔だ。
可愛い、綺麗だ。
だからこそ、今の状況がひどく憎い。
目頭が熱くなり、視界が潤む。
彼女にとっては初めての日、僕にとっては数回目。
だが、初めて……待ってる。そう聞いた気がした。
「……必ず迎えに行くから。絶対」
「うん! 信じてる」
エヴァの言葉を背中に受け取り、僕は校舎から足を踏み出した。
――シェラ
校舎の中を歩く。
背が高いおかげか、廊下の端までよく見えた。
「情報を集めるとは言ったが……何からすりゃいいんだぁ?」
俺は少し首を傾げ、天井に目をやった。
角には埃が溜まり、手入れされていないのが目に入る。
人間のような小さい種族では掃除が出来ないのだろう。
俺はため息を漏らし、視線を下げる。
思考が他に吸われる、悪い癖だ。
取り敢えず、考える事は一度やめだ。
順々に声をかけてみるか。
俺はそう考え、視線を巡らせる。
狙うのは冒険者、情報を大量に持っているはずだ。
必要であれば、金か武力で聞き出せばいい。
冒険者と言っても、適当に選ぶわけじゃない。
長年、剣士として冒険者をやっていた俺だからこそ分かる、直感ってやつさ。
「おい、ちょっといいか」
俺は、目の前を歩く獣人の女に声をかける。
俺を視界に入れた瞬間、表情がこわばった。
「な、なんでしょう?」
「おいおい、そんなに怯えんな……。ちと聞きてぇ事があるんだがよ、教えてくんねぇか?」
俺の言葉に、獣人の女は首を傾げる。
小さいな。
俺たち蜥蜴人とは違い、人間ほどの身長しかない。
こんな種族も、冒険者をやっていることに少し疑問があった。
初めはなかった疑問、だがきっと、あの時から持ち始めたのだ。
「悪いな。おめぇ、空が白くなる現象を見たことあっか?」
俺は獣人の女に目線を合わせるためにしゃがみ、そう話した。




