Episode:9 冒険者4
色彩豊かな瞳が、僕を睨む。
縦に細かった瞳孔は一瞬開き、再度鋭く狭くなる。
その鋭さは、まるで刃を表しているようにも見えてしまう。
そんな瞳だった。
大きな体。
二百三十……もっとあるかもしれない。
竜の末裔と呼ばれる彼ら蜥蜴人は、その名に恥じぬ体躯をしていた。
「シェラ……」
ピリッと場に緊張が走る。
シェラは僕の制服の胸ぐらを掴み、壁に強く押し当てた。
背中に走る鈍痛と、圧迫される苦しさで息が詰まる。
僕はダランと垂れた両腕に力を入れ、シェラの右腕を掴んだ。
「なんで、俺様の名前を知ってる?」
シェラは低く、刺すように問う。
嘘は許されない、場の空気はすでにシェラが握っていた。
「ぐっ……シェラ…………!」
僕が声を漏らすと、シェラはさらに力を込めて、僕を壁に押し当てた。
「っ…………」
そんな時だ。
褐樹人のディジーが横から口を挟む。
「おいおい、アンタ、ちょっと落ち着きなよ」
「あ? テメェに関係あんのか」
ディジーと、シェラが睨み合う。
ディジーは僕とシェラを交互に見て、ため息を漏らした。
「アンタ、有名な剣士なのかい? 背負っている大曲剣は目立つし、その体躯だ。蜥蜴人ってだけで目立つのに、そんな大きな武器を担いでたんじゃ、騒がれる理由にもなるだろう?」
ディジーはそう話しながら、僕とシェラのさらに奥、具体的には廊下にいる人混みに目を向けた。
少し騒がれているからか、場を納めようとしているのか……。
確かに、ディジーは廊下の端に誘導して、僕に質問を投げかけた。
僕がシェラの名前を呼んだ時、彼女は魔力をすぐに引っ込めた。
彼女自身、目立つのを好まないのかもしれない。
「あぁ? 蜥蜴人だから、大曲剣があるから目立つ、記憶に残るってんならぁ、話は分かるが、名前を知ってるってのはぁ、ちとおかしいんじゃねぇか?」
シェラは低く呟き、目を見開きながらディジーを睨む。
その瞳は、一振りの直剣よりも遥かに鋭い。
「おかしい……おかしい……ね。そうさね、そこの少年、ルインは変なことを言うんだ。そんなお年頃なのかね? 空が白く染まる現象を知っているか……そのくせ、その現象はまだ起きた事がないときた。おかしいね、ルイン?」
ディジーがそう話した直後のことだ。
シェラの腕の力が弱まり、僕は床に足をつく。
そのまま跪き、喉に手を当て酸素を吸った。
シェラの視線はまだディジーに向いている。
何があった。なんで僕を離した。
シェラの瞳がゆっくりと僕を睨み、頭すらもこちらを向いた。
そして、牙が生え揃った口を、ゆっくりと動かした。
「空が白く染まるのを、見た事があるのか?」
「……あ、あります…」
僕は揺れる視界で、シェラを見上げる。
彼は、何かを知っているのか。
「そうか……そうか……。…………そうか」
シェラはそう呟いた。
初めは困惑の色が表情に浮かんでいたが、次の瞬間には、興奮や闘争心にも見える笑みが溢れていた。




