Episode:8 冒険者3
僕とディジーが握手をしていると、視界の端からため息が聞こえた。
僕はその方向に視線を向けると、鍛人がつまらなさそうに頬杖をつきながら僕とディジーを睨む。
「客じゃないならどっか行ってくれ」
ため息混じりに鍛人はそう話した。
鍛人の目は僕とディジーを行き来し、眉を歪めた。
「ほれ、どっか行け」
まるで虫でも払うかの如く、鍛人は手をシッシと振る。
その光景を見て、ディジーは少し眉を歪めた。
「すまないね」
そう言って、ディジーは立ち上がり、先に歩き出した。
「ほら、こっちだ、少年……。話を聞かせておくれよ」
ディジーは肩から僕を覗き、歩幅を合わせながら先を歩く。
そして、廊下の端、窓際に背を預けた。
「で、えっと……」
「ルインです」
「ルイン。その現象は、いつ見たんだい?」
ディジーは腕を組みながら、僕に問いを投げた。
それにどう答えるべきか……。
僕が返答に悩んでいると、ディジーは首を傾げた。
「話せないのかい?」
「違います。なんて言ったらいいのか……えっと、まだ起きてないんです」
僕の返答に、ディジーは眉を歪めた。
「なんだって?」
ディジーはそう話した。
当たり前だ。
先程ディジーにした問いは、見たことあるか……だ。
その質問の後に、その現象はまだ起きていない、なんて、おかしな話なのは間違いない。
だが、空が白く染まり、再配置が行われるのは六日後の日付が変わる時。
僕は何度も見ているが、世界から見れば、未来の話、まだ起きていないのだ。
「つまり、未来に起きると?」
ディジーはそう話し、笑い出す。
「何言ってんだいアンタ、まだ起きてないことを、見たことあるか、なんて変な問いだね!」
「で、ですよね」
僕はディジーの顔を見ながら苦笑する。
だが、彼女の瞳は笑っていなかった。
「褐樹人の知識を試したのかい? そんなわかりやすい嘘が通じると? 馬鹿にしてるのかい?」
ディジーの声が低くなり、圧が増す。
褐樹人は自身が持つ知識に絶対的な自信がある。
だからこそ他者を遠ざけ、差別的で、排他的に生きてきた。
ディジーの体から魔力が少しだけ溢れる。
一気に放出しないのは、手練れの証だ。
直後、背後から怒声が響いた。
僕は振り返り、ディジーの魔力が引っ込む。
なんだ……なんだ……。
この時間は……。
「また盗品を売ってるのかい!?」
そんな声が一瞬耳に入り、記憶が呼び覚まされる。
そうだ、獣人と褐樹人の言い争い!
僕はディジーに視線を向けると、彼女は首を傾げた。
「なんだい」
ディジーはそう漏らす。
争っていたのは、てっきりディジーだと思っていた。
違った、ディジーは関係のない褐樹人……この後は、黒い鱗を持つ蜥蜴人が姿を現すはずだ……。
数秒経ち、場が静まった時、僕は声を張る。
「シェラ!」
この世界では会ったことはない。
だからこそ、声を出した。
戦うことばかりを求めている彼が、名前を呼ばれたら確認しないわけがない。
それが知らない奴なら、尚更確かめたくなるはずだ。
「シェラ! 僕はここだ!」
僕がそう叫ぶと、人混みの中から、黒い鱗が覗く。
警戒心駄々漏れ、重圧は廊下全体に響く。
「あ? あんちゃん、なんでお前ぇ、俺様の名前知ってんだ?」
シェラは僕を睨みながら、ゆっくりと歩いてくる。
色彩豊かな瞳は異常なまでに鋭く、爬虫類特有の二股に分かれた舌は、興奮を表すかの如く口先から踊るように顔を出した。




