Episode:7 冒険者2
手を伸ばし、褐樹人の手を掴む。
僕に手を掴まれた褐樹人は、怪訝そうな顔で振り返り、僕に視線を落とした。
腰まである銀髪の長髪が揺れ、切長の瞳が僕をのぞく。
深淵まで見通しそうなほど透き通る紫の瞳、漆黒の外套の隙間からは、褐色の肌が艶かしく顔を覗かせ、豊満な胸元が揺れる。
身長は人間より大きく、蜥蜴人より小さい。
百八十程度だろうか。
彼女は、僕を見下ろし……。
いや、見下ろすというより、睨んでいるに近い表情だった。
「……なんだい」
「あ、いや」
咄嗟に手を掴んでしまった。
女性だったのか……。
首から足まで覆う、漆黒の外套を纏っているから気が付かなかった。
露出は少なく、足も、腕も衣服から出ていない。
谷間が少し見えるくらいの薄く黒い布を纏う彼女は、外套を翻しながら体をこちらに向けた。
「なんか用かい?」
翻した外套の内側には、無数の道具が散見される。
魔術を扱う機構を搭載した巻物、指輪や杖などの魔具。
そして、一際目を引いたのは、左腕を乗せていた青白く光の剣だった。
「……魔剣――」
僕がそう呟くと、彼女は外套を引き、魔剣を隠す。
「なんか用かい?用がないならアタシは行くけど」
動物の尻尾のように結いた銀髪を揺らしながら、彼女はため息を漏らす。
「あ、いや……」
僕は声が出なかった。
褐樹人が持つ魅了にも近い美貌、それに見惚れていたのもあるだろう。
だが、それ以外にも、魔具を多量に保持しているからか、異常にして異様な魔力が彼女からは溢れていた。
こんなやつがいたのか。
なぜ気づかなかったのか。
今まで、廊下にこんな魔力が漂っていたことはなかったはずなのだ。
それに、シェラが気が付かないわけがない。
僕は、去ろうとする彼女の背中に声をかける。
それは、自分が思っているよりも大きく、廊下に響いた。
周囲の目が僕に向き、すぐに興味を失ったように目を逸らす。
だが、褐樹人の瞳だけは僕を見つめていた。
「空……空が白く染まる現象を知っていますか?」
褐樹人はそれを聞いて、首を振る。
「すまないね。それは、見たことがない。かなりの期間冒険者をしているけど、ただの一度も見たことがないよ」
「そ、そうですか」
僕はそう呟いて、視線を落とす。
褐樹人はそんな僕を見て近づいてきた。
しゃがみ込み、視線を合わせる。
先ほどまでの鋭く、値踏みするような瞳とは、明らかに違っていた。
「少年、君は見たことがあるのかい?」
褐樹人の彼女は、僕の瞳を覗き込むように近づいて、そう話してきた。
透き通るような紫の瞳、透き通っているのに、その奥には底知れない闇が見えているような、吸い込まれるような瞳に、僕は喉を鳴らす。
「……何度か」
僕がそう答えると、彼女は目を見開いた。
「……へぇ、魔力の粒子はあったのかい?」
「いや、焦っていたから、わからないんです」
僕がそう話すと、彼女はニヤリと笑う。
「少年といれば、それ、見れる?」
「はい、確実に」
そう話すと、褐樹人は目を輝かせた。
「いいね。知らない知識を得られるのは、思っても見ない収穫だ。もう知り尽くしたと思っていたよ」
彼女はそう言って、僕に右手を差し出す。
そして、口を開いた。
「アタシの名前は、ディジー・ミリアム。ディジーって呼んどくれ」
そう話した褐樹人の彼女、ディジーの右手を、僕は握った。




