Episode:6 冒険者
しばらくして、人混みの中からエヴァが現れた。
両手には、持ちきれないほどの食べ物、近くの屋台で買ったのだろう。
今思えば、学校に遅刻しそうと慌てている人間の行動ではない。
「にゃにしふぇるの?」
「いや、エヴァを待ってたんだよ」
僕がそう話すと、エヴァはゴクンッと喉を鳴らし、口の中の物を胃に落とした。
「何言ってるかよくわかったね」
「まぁね、行こうか」
僕はそう言って、エヴァより先に歩く。
後ろから小走りで、でも何も落とさないようにバランスをとりながら、エヴァはついてきた。
「先に試験あるでしょ? 僕はまだだから、待機するよ」
エヴァには適当にそう話し、歩き出した。
だが、待機などするわけがない、確かな足運びで向かったのは、黒い鱗を持つ蜥蜴人、シェラと初めて会ったあの廊下だった。
「おう、ガキンチョ!」
廊下に入ると、鍛人の男が声をかけてきた。
この人物は、かなり前から露店を開いていたらしい。
「こんにちは」
僕がそう話すと、鍛人はポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。
眉をあげた後、歯を見せて笑った。
「もうそんなか、早いな」
鍛人はそう言った。
「ガキンチョ、お前は魔術師か?」
鍛人の言葉に、僕は少し考える。
それは、魔術師と言われるほど、魔術の扱いに長けてはいないからだ。
「どう……ですかね」
僕はそう言って、頬を人差し指で掻く。
「なんだ、言いにくいことでもあんのか? 魔術は精神が命だ、自信のない今じゃ、魔力がブレるぞ」
鍛人の言葉を聞きながら、僕は廊下をすれ違う人を見つめ、鍛人に視線を戻す。
これだけ多種多様な種族がいるなら、あの現象を一人でも見た事がある人がいるかもしれない。
僕はそう考え、手始めに鍛人に聞くことにした。
しゃがみ込み、鍛人に目線を合わせる。
「おじさん、ちょっといい?」
僕の言葉に、鍛人は長い髭を撫でながら不満そうに呟く。
「まだおじさんって歳じゃねぇが、なんだガキンチョ」
眉を歪めながら話す鍛人を見て、僕も眉を歪める。
白い髪、白い髭、手は鍛造の影響か黒く染まり、指先には硬くなった皮膚が白く盛り出ている。
おじさんじゃないなら、なんだろう。
「夜、空がゆっくり白く染まる現象って見たことありますか?」
僕の言葉に、鍛人はすぐに首を振った。
「いんや、五十年はあちこち練り歩いて過ごしてるが、一度も見たこたぁねぇな」
鍛人はそう言った。
五十年……おじさんじゃないか。
人と比べると長命だから、まだ子供……みたいな話だろうか。
「そっか、ありがとう」
僕はそう礼をして、周りを見渡す。
廊下に溢れかえるのは多種多様の種族、等級章が見える者もいる……。
冒険者が、魔術師が溢れているんだ。
なら、シェラが現れるまでは情報集めだ。
僕はため息を漏らし足を進め、目の前を歩く褐樹人に手を伸ばした。




