Episode:3 魔術
エヴァと別れ、老婆が去ったあと、僕は図書館の扉を開けた。
自然現象は前回の再配置で調べている。
今は、魔術の本を読み漁っていた記憶がある。
「すいません……。魔術に関する本を全て、類似した物は除いてください」
僕は受付嬢に話すと、受付嬢は満面の笑みを向け、端末を操作する。
図書館内の本が鳥のように飛び交い、塔を築いた。
机に積まれた本を一瞥し、僕はため息を漏らす。
そうだ、言い忘れた。
「すいません、僕の身長ではあの高さを読むのは難しいので、裏で確保をお願いしたいです」
そう話すと、受付嬢は再度端末を操作する。
僕は頭を下げ、本の積まれた机に向かい、席に座った。
受付嬢に視線を向けると、先ほどまでの笑顔は失ったのか、心底つまらなそうに端末を操作し、ため息を漏らしていた。
直後、僕の視線に気づき、慌てて笑顔を作ったが……。
お姉さん、もう遅いです。
僕はそう思いながら、本の塔に手を伸ばした。
先にやるのは、前回の再配置で読んだ物とそうではない物を分けることだった。
「これは……読んだ。これも、あとこれもだな。これは……よ……んだな」
小さく、自分に言い聞かせるように呟きながら、分けていく。
一刻がたったあたりで、分け終わり、椅子の背もたれに体重を預ける。
すでに疲れが溜まっているような、そんな感覚だ。
まだ何もしていないのに……。
僕は体を無理やり起こし、本に手を伸ばす。
取り入れろ……じゃないと打破できない。
本を開き、めくり、連なる字に目を凝らした。
ありとあらゆる魔術。
あの現象は、おそらく攻撃魔術ではないはずだ、だとしたら何か。
どの属性から派生しているのか、それを知る必要がある。
本を取り、めくる。
何回も同じ動作を繰り返して、情報を取り込んでいく。
召喚、幻術、鑑定、探知。
それぞれの魔術の特性を見ても、答えには至らなかった。
僕は再度背もたれに体重を預け、思考を巡らせる。
詰み……か?
情報がない、これだけの書物に目を通しても推測さえもできない現状に、少しばかりの焦りを覚えていた。
もし、もしだ。
今ある書物に何かしらの答えや、それを推測出来るものがない場合、どうしたらいいのか……。
まだ、読みきっていないから、答えを出すのは軽率だろうか。
僕は受付嬢の方に視線を移し、帳台裏に積んであるであろう本の山を頭の中に思い浮かべる。
「いや、次だ」
僕は思考を投げ、本を手に取ると、青い髪が視界の端で揺れた。
「ルイン、やっほ」
そう言いながら僕の前に姿を現したのは、エヴァだった。
「試験は終わったの?」
「うん! 完璧」
エヴァはそう言いながら親指を立てた。
直後、積まれた本に目を移し、眉を歪ませた。
「魔術? 魔術に関して調べてるの?」
エヴァは目を瞬かせながらそう話す。
今まで、魔術に興味を示さなかった幼馴染が、突然魔術について記された本を大量に読み漁っているのだ、驚くのは無理もない。
「まぁね」
僕はそう話し、本に視線を移す。
「へぇ、意外」
そう話すエヴァに、僕は視線を向けた。
この再配置後の世界では、彼女は知らない。
「なぁ、エヴァ」
「ん? なに?」
僕は彼女に声をかける。
「この図書館にある本全てに、まだ載っていない魔術があるとしたら、誰に聞けばいいと思う?」
僕の問いに、エヴァは目を見開いた後、唸りながらも真剣に考えた。
「一番は、発動者かな」
「その発動者がわからないとしたら?」
僕の問いに、エヴァは考える。
青い髪がさらりと肩から落ち、綺麗な瞳が揺れる。
「冒険者……かな」
「理由は?」
「冒険者は転々とするから、情報についてかなり詳しいと思う。知らない魔術の話もどこかで聞いているかも、独自の魔術なら、隠したい魔術師もいるだろうし」
エヴァはそう話した。
確かに、一理ある推論ではあった。
冒険者……。
僕が知っている冒険者はただ一人、黒い鱗を持つ蜥蜴人、シェラだ。




