表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第三章:異常事態

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/81

Episode:20 再配置

 記憶だけじゃなく、剣がなくなるのはおかしい。

 僕はそれに気づき、ニヤリと笑った。

 その不敵な笑みを見て、横にいる少女、エヴァは若干身を引いたが、そんなことは気にしなかった。


 小さな気づきだが、気にしていなかった初歩的な物に気がつけたのはかなり大きい。


「ルインー帰ろうよー」


 エヴァが横で本を読みながらそう話した。

 魔術書。

 ありとあらゆる魔術のことが書いてある本だ。

 魔術を得意とするエヴァからすると、知識の宝庫だろう。


「いや、僕はまだ帰れない。先に行ってもいいよ。村についたら、僕の母親に図書館にいるから帰らないと伝えて欲しい」


 僕のその言葉を聞いて、エヴァは目を見開いた。


「泊まって、休まずに本を読むつもり!?」


 その声は館内に大きく響く。

 僕はエヴァの声に耳を塞ぎ、ため息を漏らす。


「すごく大事なことなんだ。だから、帰れない」


 僕がそう話すと、エヴァは少し考えた後、深いため息を漏らして僕を睨んだ。


「おばさんも心配するから、長い間帰らないのはダメだからね。私も学校ついでに様子見にくるから」


「わかった、ありがとう」


 僕が言った礼に、エヴァは目を瞬かせる。


「え、お礼言えるの?」


「僕はそんな腐ってない」


 僕はそう話したが、エヴァはすでに聞いていなかった。

 礼を言われた事実が彼女を舞い上がらせ、周りのことなど気にしていないようだ。


「取り敢えず、よろしく」


「うん、わかった!」


 僕の言葉に元気よく返事をして、エヴァは出ていく。

 その背中を見送り、僕は視線を本に戻した。


 空が暗くなり、数刻が過ぎる。

 気がつけば眠りについていて、軽食を摂りに外に出ては、戻ってきて本を開く。

 

 朝になればエヴァが様子を見に来て、少し話をしてから学校に行くのを見送った。

 僕が学校に行かないのを心配はしていたが、強く止めることはしない、すごく大事、と言った言葉が効いているのだろうか。


 そうして、二日が経った夜。

 おそらく、夜の十二刻(じゅうにこく)くらいになった時、図書館の扉が開き、受付嬢とは別の誰かが本を持って入ってきた。

 そうして、カウンターにいる受付嬢と話す。


「先輩、新しい本持ってきましたよぉー。探すの大変で、なかなか骨が折れましたよ」


「お疲れ様、ゆっくり休んでね」


 受付嬢と話すのは、どうやら後輩らしい。

 よく見れば、服装は同じものを着ていた。

 胸から腹部にかけた六つのボタン。

 掛け合わせるように前開きの、身体のラインがしっかり出る服だった。


「絵本って、どこの段でしたっけ?」


「そろそろ覚えてよー」


 先輩と後輩の話を聞きながら、僕は視線を本に落とす。


 新たな本は、今でも入るのか。

 いや、これからも増え続けるのだろう。


 それから何日も本をめくり続けて七日目の朝を迎えた。

 明日が王都の祭り。

 おそらく……いや、確実に来ないことはわかっている。


 最後の日くらいは、家に帰ろう。

 そう思い立ち、朝のうちに王都を出て、昼には家に着いた。

 玄関を開けると、いつも通りの光景が広がり、母親はエヴァから情報をもらっていたからか、あまり気にした素振りはなかった。


「母さん、今日の夕飯は何?」


「んー? 何にしようか」


 僕の質問に対しても、いつも通りの反応。

 変わった様子は、特にない。

 いつも通りの夜を迎え、夕飯を食べ、自室に戻る。


 時刻は十一刻(じゅういちこく)と半。

 あの眠気が来るまでもう少しだ。


 僕は机の上から小さなペーパーナイフを取り出す。

 普段は手紙の開封にしか使わないが、今日は初めて別の使い方をする。

 半刻を待ち、地平線が白く染まる。


「来た」


 この刻が。

 僕は白く染まる空を見つめながら深呼吸をして、ペーパーナイフで親指を傷つけた。

 痛みと共に赤い液体がジワリと広がり、床に垂れる。

 力加減を間違えたか、想定より深く傷ついてしまった。


 それを白い布団の上に搾り垂らす。

 血は落ちにくい、明日になって万が一傷が塞がっていても、汚れは落とせない。


 僕はベッドにはいり、血を枕や布団に吸わせる。

 無くならない物の証として……。


 頭上から闇が取り除かれる瞬間、目眩と共に眠気に襲われる。

 そのまま、僕は意識を手放した。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして……。


「ルイン! 起きなさい!」


 母親の声でゆっくりと目を覚ます。

 僕は重い瞼をあげ、ナイフで切ったはずの指を見た。


「傷はない……」


 次にベッドや枕に視線を落とす。


「血も、一滴もない」


 また、戻ってきたのか。

 ため息と共に、僕の仮説が正しかったことに興奮した。


「……再配置か」


 僕しかいない狭い部屋で、小さく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ