Episode:17 知識と手がかり
僕は、椅子に座り本を読み漁る。
高く積み上げられた本は、受付嬢がそばの机まで移動してくれた。
これだけの本を運ぶのは困難だ、小さな僕の体じゃ、重みに耐えられないだろう。
ペラペラと、紙をめくる音だけが頭の中に響く。
自然現象が絵に起こされ、わかりやすく解説されているものは、視界に入った途端に違うと判断ができるからありがたい。
僕は、机の上に置いた本を広げ、めくり、字を指でなぞるように追いながら、違う、と小さく口を動かす。
見つからない。
違う、違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う。
頭の中に、その文字が、言葉が繰り返し繰り返し浮かび上がった。
数十冊に目を通したところで、僕は体重を背もたれに預け、天を仰ぐように本が飛ぶ空を見上げた。
「わからない……」
そう呟いた時、衣擦れの音と共に青い髪、青い瞳が僕の顔に影ができるように覗き込んだ。
「ルインが図書館なんて、珍しいね」
視界に入ってきたエヴァの顔に目を細め、眉を動かす。
「なにしてんの?」
「見ればわかるだろ。本を読んでる」
僕はエヴァの頭に手を置き、押し退けてから体を起こす。
エヴァは不服そうに唇を尖らせ、机に置いてある本の塔を見つめて目を見開いた。
「こんなに沢山……? 勉強熱心になったの? いつから?」
エヴァの質問攻めに、僕はため息を漏らして彼女を睨んだ。
僕が必死になっている理由が、彼女との約束を果たすためなど、世界中を探してもわかっているのは僕しかいない。
「ごめんごめん。そんな睨まないでよ。にしても……すごい本の量。自然……現象?」
僕が目を通している本を興味深そうに覗き込み、首を傾げる。
「天気について知りたいの?」
エヴァの問いに、僕は少し考えた。
天気……あの現象が天気、天候による物かも怪しいのだ。
「いや、天気……とは違うかな」
僕がそう答えると、エヴァは首を傾げた。
「なら、なにを探してるの?」
エヴァの問いに、僕は少し考えた。
なんで説明するべきか、そもそも説明が必要か。
少し考え、僕は口を開いた。
「空が、白く染まる現象について調べてる」
僕が話した言葉に、エヴァは首を傾げた。
「白く染まる……どんなふうに?」
エヴァの問いに、僕は何かを書くように、手を動かしながら話す。
「まるで、黒を白で塗りつぶすみたいに、ブワァって広がってく現象」
僕は筆を動かすみたいにしながら、エヴァに説明するも、彼女は首を振った。
「知らない。聞いたこともないよ」
「だよね。かなり読んだけど、類似してる現象は見当たらない」
僕はそう言いながら唇を尖らせ、少しばかり血が上った頭をゆっくりと冷やした。
「自然じゃない可能性はないの?」
エヴァの言葉に、僕は彼女を見つめ、眉を歪める。
「魔術とかってこと?」
僕の言葉に、エヴァが小さく頷く。
「可能性は低いかな。世界そのものを包めるくらい強力な魔術なら、魔力の粒子が残るはずだ」
僕はそう話しながら、空が白く染まった時のことを思い出す。
魔力の粒子はなかったはずだ。
いくら魔術の扱いが苦手だと言っても、粒子の流れは感じる。
「だよね」
エヴァは苦笑しながらも、うーんと唸った。
直後、彼女は思い出したように目を見開く。
「実技試験、行かなきゃ!」
そう、この七日間の初日は実技試験だ。
もう、何回繰り返したか。
「ルインも、早く!」
足踏みをしながら青い髪を揺らし、エヴァは声を張って僕を呼ぶ。
その声に、僕はゆっくり首を振った。
「僕はいいよ。やることがある」
その言葉に、エヴァの足踏みが止まる。
僕は......どんな顔をしていたのだろうか。
怒り、声を荒げるかと思ったが、拍子抜けしてしまうほど、エヴァは優しい表情で僕を見つめた。
「……そっか……。わかった。私は行くね?」
少し寂しそうに答えたエヴァ。
その言葉に僕はなにも言わずに頷き、小さくなる彼女の背中を見送った。
まだ、終われない。
まだ諦めきれない。
まだ……。
僕は机に体を向け、静かに本を手に取った。




