Episode:16 知識の山
僕は少し……いや、かなり早めに家を出て、王都にある図書館に向かった。
図書館の前で立ち、大きな建物を見上げる。
「……でかいな」
僕は気づかぬうちにそう漏らしていた。
王都の中でもかなりの大きさを誇る建物……。
目印にはならないが、会話の中で大きな建物と言えば候補に入るくらいには大きい。
それでも、僕たちが通う学校と比べると、小さく見えた。
「初めて来たかもな」
そもそも用はないのだから来る理由もない。
初めて来たのは当たり前だろう。
中に入ると、玄関前の受付嬢が口に手を当てあくびをしていた。
が……僕を見てすぐにあくびを封じ込め、笑顔を作る。
「ようこそ、数多の本が集まる場所へ」
そう話す受付嬢は、顔が引きつっていた。
あくびを見られたかもしれないという羞恥心か、焦りか……僕にわかるはずもなかった。
「すいません、自然現象についての本はありませんか?」
「自然現象ですか? 少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は変わった端末に目を向け、目を見開いた。
僕は、受付嬢が何かを見つけるまで待とうとその場に立つ。
眠い……出そうになるあくびを押さえるため、目を開き、背伸びをする。
背伸びに合わせるように、視線が上に向いた瞬間、視界に飛び込んできたのは、異常なまでの本の壁だった。
「……何だ、これ」
見上げた視界に広がっていたのは、円形で、塔のように高く伸びた空間と、壁に埋め込まれているかのように並べられた本の数。
それでは飽き足らず、魔術で浮いた本棚や、本が無数に漂っていた。
「……外からはこんな大きくは見えなかった……」
そうだ。
この図書館は、外からではこんなに大きくはなかったはずだ。
学校よりも小さいと、僕自身がしっかりと認識した。
中は、次元が違うのか……?
本の塔を眺めていると、受付嬢が声をかけてきた。
「お待たせしました」
「あ、あぁ」
僕はその声にうまく反応できず、気の抜けた声を漏らしてしまった。
「初めて来た方は、皆さま同じ反応をされます。私も、初めはそうでした。ここには数十万冊に及ぶ本が並んでいます。正確な数字は、わかっていません。だからこそ、どんな本でも、ここにあると自負しております」
そう言いながら、受付嬢が端末を操作すると、本が一点に集まるように飛んでくる。
まるで鳥の様だ。
「今集めたのは百二十冊になります」
カウンターに積み上げられていく本を見ながら、僕は眉を歪めた。
「そんなもんしかないんですね」
「正確にはもっとありますが、中身が類似している書物もありますので、勝手ながら絞らせていただきました。それに、自然現象の大半は説明がつくため、大体数冊で済むことの方が多いです。人は、異常な事は気になりますが、当たり前に流れる日常には目を向けないものです」
受付嬢はそう言って積みあがった本を指さした。
「では、ごゆっくり」
その声に、高く積み上げられた本を見上げ、僕はため息を漏らす。
これ、全部見んのかよ。
そうして、長期に渡る読書が始まった。




