Episode:15 新たな朝
目が覚める。
それは何回も繰り返した朝ではなく、初めての朝だった。
まだ空は明るくなっていない、白みだす空を見ながら僕はベッドから起き上がる。
「……八日目……?」
僕は見たことない景色に眉を歪め、首を傾げる。
上がる心拍と共に、僕は階段を下りた。
八日目だろうか……。
あれほど待ち望んだ八日目が、何もせずに訪れたのか?
そんなはずはない、そんなことあってはならない。
あれほど待ち望んだというのに、今の僕は、その現実を否定していた。
なぜか……。
対して頑張ってもいないのに与えられた報酬に納得できていないのか、やっとできた覚悟を裏切られたような気分になったのか、自身の感情でさえも定かではなかった。
階段を下り、廊下にたどり着く。
すでにリビングからは光が漏れていた。
「おはよう」
顔を出し、椅子に座っている赤髪の女性を見つめる。
そこにいたのは紛れもない母親だった。
「あれ、ルイン……? 今日はずいぶんと早起きだね」
「なんか目が覚めてさ」
僕を見ながら話す母親の手には一冊の本が握られている。
「何見てるの?」
「ん?あぁ……かなり前にお父さんが買ってきた本だよ。あの人、読む時間なんてないのに、こんなもんはたくさん集めるからね」
そう言いながら母は閉じた本を撫でる。
「……そっか。なんで死んだみたいに話すの?」
「え?そっちの方が盛り上がるかと思って」
母親の言葉に、僕はため息を漏らしながらキッチンに向かった。
「母さん、今日って王都の祭り?」
八日目になったと、僕はそう確信していた。
だから、何も疑わずに聞いたんだ。
「何言ってるの、祭りは七日後でしょ」
「……だよね」
僕はそう言いながらため息を漏らした。
もちろん、繰り返す日常にはうんざりしている。
でも、繰り返したことに関して、少しの安心も混じっていた。
「ルインはこれからどうするの、二度寝?」
そう話す母親に、僕は少し考える。
やることは変わらない、覚悟は決まったんだ。
まずは状況の把握。
世界は繰り返している。
わかっている情報は、六日後の日付が変わる時間に、世界は何かに包まれること。
それに包まれたら最後、七日前に戻っていること。
……これだけか……。
「確か、王都に日夜問わずに開いている図書館があったよね」
母親にそう話すと、母親は何かを思い出したように話し始めた。
「あぁーその大きい図書館ね。あそこはね、大きくて本探すのも難しいから、行くのやめちゃった」
母親はそう話した。
歳だろうか。
少し面倒があると、ぱったりとやめてしまう。
「そこには、自然現象とかの本はある?」
「なんでもあるよ?自然現象、魔術教本、魔物図鑑から誰かが書いた調査書とかもね。誰が興味あるんだろうねぇ」
そう言いながら、母親はまた本を開いて読み始めた。
視線が文字を追いかけている。
「なら、僕は図書館に行くよ」
「はいはい、まだ暗いから、気を付けなよ」
「わかってるよ。もう少し経ったら、エヴァが来ると思うから、図書館に行ってるって教えて」
その言葉に、母親は顔を上げた。
「珍しいね、ルインがエヴァちゃんを気にするなんて……」
「まぁね、なんか変わったのかも」
僕はそう言いながら玄関で靴を履く。
「朝食は?」
「あっちで食べるからいいや」
僕はそう言って扉を開け、家を飛び出した。




