Episode:10 馴染む感触
ヒラヒラと手を振りながら歩くシェラを追いかけ、まだ記憶に新しい場所に行く。
それは、鍛人のところだった。
鍛人は僕を見つけると、髭をさすりながらこちらを睨む。
「おう、ガキンチョ!」
僕に気がついた鍛人が、右手を上げながら僕を呼ぶ。
鍛人のその行動を見て、シェラは僕に視線を向けた。
「知り合いか?」
「知り合い……なんですかね?」
僕は首を傾げながら呟いた。
数刻前に廊下で行われた、獣人と褐樹人の諍いを止めたのは、他でもないシェラのはずだ。
だが、彼は覚えていなかった。
「覚えてないんですか?」
「あれだろ? 獣人と褐樹人が喧嘩してた廊下だろ? ここ、あんなオッサンいたか?」
シェラの言葉に、僕はため息を漏らす。
心配したが、ただ記憶力の問題らしい。
僕に発生している異変が原因ではないとわかり、少し安心し、安堵の息を漏らす。
「いえ、覚えていないのなら構いません」
僕がそう話すと、シェラは鼻を鳴らしながら鍛人に視線を移した。
「武器を売ってんのか……ルイン、剣は持ってるのか?」
「そんな物騒なもの、持ってるわけないじゃないですか」
そう話すと、シェラは少し怪訝そうな顔で僕を見つめた。
「いや、でも、さっき剣術を……あれ?」
シェラは何かぶつぶつと言いながら腕を組む。
剣術を教えて欲しいと話した僕が、剣を持っていないと言う現実に頭を抱えているようだ。
シェラは首を傾げ、ため息を漏らした後、鍛人を見てニヤリと笑った。
「こい、俺様が買ってやる」
そう言いながらシェラは僕の返事も待たずにズカズカと鍛人の方へ歩き出した。
「おう、さっきの蜥蜴人か」
僕は小走りでシェラと鍛人に駆け寄ると、鍛人がシェラにそう話してるのを聞いた。
「さっき……ルインの言ってた事は本当か」
シェラは小さく呟いて、鍛人に愛想笑いをする。
シェラが呟いた言葉に、僕は眉を顰めた。
覚えていないのはそちらでしょうに、なぜ僕が間違ってるみたいな反応をされたのか。
「で、黒い鱗の蜥蜴人がなんか用かい?ワシの武器は一級品だが、お前さんが背中に携えてる大曲剣と比べると、足元にも及ばないさ」
鍛人はそう言いながら、シェラが背中に携えている二本の大曲剣を睨んだ。
「ちげぇよ、コイツの剣を探してる」
シェラはため息混じりにそう呟き、僕に視線を送った。
その視線に釣られるように、鍛人もこちらを見つめ、視線が集中する。
その視線に僕は首を傾げる。
「……何か?」
僕のその言葉に、鍛人はため息を漏らした。
「あのガキンチョに剣が使えると?世界は魔術で溢れてる……今更、ど素人の剣が役に立つと、本気で思ってんのか?」
鍛人はシェラを見つめてそう話した。
その言葉に、シェラは僕を見ながら口を開く。
「やって見なきゃわからねぇだろ……それにな、何も戦うだけが剣の使い方じゃねぇだろ」
そう言いながらシェラは身を屈ませ、剣に目を光らせる。
「これがいい、この中で一番いい剣だ」
シェラはそう話し、一本の剣を指さした。
そのまま剣を買い取り、適当な鞘を選んで、刃を鞘に納めた後、僕に投げた。
「やるよ」
「……ありがとうございます」
シェラから受け取った剣は、初めて持つはずなのに、なぜか妙に手になじむ気がした。




