Episode:8 置いていくな
長い付き合いになる。
そう話したシェラの顔を、僕は見れなかった。
「もう一度……」
僕の呟きに、シェラは首を傾げた。
「もう一度、自己紹介から始めませんか」
「もう一度って……初対面だろ?あぁ、違うかさっき軽くしたもんな」
シェラはそう話して口角を上げた。
「僕の名前はルインです」
「俺様はシェラ。まぁ、よろしくな」
そして、僕とシェラは、二度目の自己紹介を終わらせた。
「もう、行きますか?」
僕はシェラの顔を見上げてゆっくりと話した。
その言葉に、シェラは鱗の生えた顎をさすり、口を開く。
「そうだな。強いやつがいるんじゃねぇかって、なんとなくここにきただけだからな。確かに強いやつはいるが、基準値より強いってだけで、飛び抜けて能力の高いやつはいねぇ……。どうすっかな」
シェラは僕から校舎に視線を移し、そう話した。
彼の言葉には、戦闘に対する喜びと、楽しさが混じっている。
強い者と戦うのは、そんなにいいことだろうか。
これから何をしようか、どこに行こうか考えているシェラを、僕は見上げる。
長い付き合いになる。
彼は、以前もそう言っていた、そして今は忘れてしまっている。
きっと、これからも会うたびに名乗り、シェラは同じことを話す。
「なんつー顔してんだ。ルイン」
シェラはそう話し、僕の顔を見る。
校舎に向いていた視線は、気がついたらこちらに向いていた。
「強いもの……。そんなに大事ですか?」
僕のその言葉に、シェラは目を大きく見開き、少しだけ寂しそうな顔をする。
そして、そのまま口を開いた。
「あぁ、大事だ。強くならなきゃ、誰かを救うことはできない」
そう話すシェラは、優しく、そして儚く笑った。
岩人形を一刀両断し、等級章を二つ持ち歩く人物とは思えないほど、僕の目には小さく映った。
「そう……ですか」
僕がそう話すと、シェラは優しく笑う。
「何があったかわかんねぇけど、そんな顔してたら、大事なものを見落とすぞ」
シェラはそう言ってしゃがみ込み、僕の目線に高さを合わせる。
それでも、彼の方が少しばかり大きかった。
「試験頑張れ」
シェラはそう言って、僕の肩に手を置いて立ち上がった。
彼は行こうとしている。
次に待つ何かを目指し、僕の前から姿を消そうとしている。
次、約束もなしに会えるかなんてわからない。
前回は、剣術の訓練を名目に繋ぎ止めたが、それも振り出しに戻ってしまった。
優しく笑って、踵をかえして立ち去ろうとするシェラの背中に、僕は無意識に言葉を投げていた。
「置いていかないでください」
僕は無意識に出たその言葉に驚きつつも口を塞いだ。
だが、シェラはすでに振り返って僕を見つめていた。
「……どうした」
空気か、気持ちを察したのか、シェラはそう呟く。
「あ、いや……」
「何かあったのか?」
僕はシェラからの問い詰めに、言葉を濁す。
何を言えばいいかわからない。
「……わかりません」
「……?」
僕の答えに、シェラは首を傾げた。
「何がわかんねぇんだ?」
「何も……わからないんです」
シェラの問いに、僕はそう答えた。
事実……紛れもない現実を……
祭りの日にたどり着けない。
七日後には、またここにいると……そこまでは言えなかった。
説明できないのもそうだが、言ってしまえば彼を巻き込むことになってしまう。
直感が、言葉を紡ぐことを阻止した。
「……そうか」
シェラはため息を漏らし空を見上げる。
快晴の空。
昼時の今は、太陽が直上にあり、目を向けると眩しさに瞼が閉じる。
「一緒にいてやる」
静かな空間に響いたのは、強く、そして柔らかいその言葉だった。
シェラはゆっくりと空から僕に視線を移し、小さく笑う。
その体格、鋭い目つき、成人の人間ほどある大曲剣を担ぐ彼には似合わない、そんな優しさが溢れていた。




