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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第三章:異常事態

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Episode:8 置いていくな

 長い付き合いになる。

 そう話したシェラの顔を、僕は見れなかった。


「もう一度……」


 僕の呟きに、シェラは首を傾げた。


「もう一度、自己紹介から始めませんか」


「もう一度って……初対面だろ?あぁ、違うかさっき軽くしたもんな」


 シェラはそう話して口角を上げた。


「僕の名前はルインです」


「俺様はシェラ。まぁ、よろしくな」


 そして、僕とシェラは、二度目の自己紹介を終わらせた。


「もう、行きますか?」


 僕はシェラの顔を見上げてゆっくりと話した。

 その言葉に、シェラは鱗の生えた顎をさすり、口を開く。


「そうだな。強いやつがいるんじゃねぇかって、なんとなくここにきただけだからな。確かに強いやつはいるが、基準値より強いってだけで、飛び抜けて能力の高いやつはいねぇ……。どうすっかな」


 シェラは僕から校舎に視線を移し、そう話した。

 彼の言葉には、戦闘に対する喜びと、楽しさが混じっている。

 強い者と戦うのは、そんなにいいことだろうか。


 これから何をしようか、どこに行こうか考えているシェラを、僕は見上げる。

 

 長い付き合いになる。

 彼は、以前もそう言っていた、そして今は忘れてしまっている。

 きっと、これからも会うたびに名乗り、シェラは同じことを話す。


「なんつー顔してんだ。ルイン」


 シェラはそう話し、僕の顔を見る。

 校舎に向いていた視線は、気がついたらこちらに向いていた。


「強いもの……。そんなに大事ですか?」


 僕のその言葉に、シェラは目を大きく見開き、少しだけ寂しそうな顔をする。

 そして、そのまま口を開いた。


「あぁ、大事だ。強くならなきゃ、誰かを救うことはできない」


 そう話すシェラは、優しく、そして儚く笑った。

 岩人形を一刀両断し、等級章を二つ持ち歩く人物とは思えないほど、僕の目には小さく映った。


「そう……ですか」


 僕がそう話すと、シェラは優しく笑う。


「何があったかわかんねぇけど、そんな顔してたら、大事なものを見落とすぞ」


 シェラはそう言ってしゃがみ込み、僕の目線に高さを合わせる。

 それでも、彼の方が少しばかり大きかった。


「試験頑張れ」


 シェラはそう言って、僕の肩に手を置いて立ち上がった。


 彼は行こうとしている。

 次に待つ何かを目指し、僕の前から姿を消そうとしている。

 次、約束もなしに会えるかなんてわからない。

 前回は、剣術の訓練を名目に繋ぎ止めたが、それも振り出しに戻ってしまった。


 優しく笑って、踵をかえして立ち去ろうとするシェラの背中に、僕は無意識に言葉を投げていた。


「置いていかないでください」


 僕は無意識に出たその言葉に驚きつつも口を塞いだ。

 だが、シェラはすでに振り返って僕を見つめていた。


「……どうした」


 空気か、気持ちを察したのか、シェラはそう呟く。


「あ、いや……」


「何かあったのか?」


 僕はシェラからの問い詰めに、言葉を濁す。

 何を言えばいいかわからない。


「……わかりません」


「……?」


 僕の答えに、シェラは首を傾げた。

 

「何がわかんねぇんだ?」


「何も……わからないんです」


 シェラの問いに、僕はそう答えた。

 事実……紛れもない現実を……


 祭りの日にたどり着けない。

 七日後には、またここにいると……そこまでは言えなかった。

 説明できないのもそうだが、言ってしまえば彼を巻き込むことになってしまう。

 直感が、言葉を紡ぐことを阻止した。


「……そうか」


 シェラはため息を漏らし空を見上げる。

 快晴の空。

 昼時の今は、太陽が直上にあり、目を向けると眩しさに瞼が閉じる。


「一緒にいてやる」


 静かな空間に響いたのは、強く、そして柔らかいその言葉だった。

 シェラはゆっくりと空から僕に視線を移し、小さく笑う。


 その体格、鋭い目つき、成人の人間ほどある大曲剣を担ぐ彼には似合わない、そんな優しさが溢れていた。

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