Episode:7 等級章
顔を歪めたシェラを見て、僕は首を傾げる。
次の瞬間には、シェラは生徒に優しく笑いかけ、礼を言って踵を返し、歩き出した。
僕はシェラのことが気になり、付いていくように歩き出す。
そして、しばらく歩いた時、シェラは足を止めて口を開いた。
「なんか用か? あんちゃん」
シェラはそう言って、顔を少し傾け、左肩から鋭い瞳を覗かせた。
「……あなたは、黒曜金級ですか?」
僕のその問いに、シェラは黙り込む。
「知ってどうする?」
「どうもしません。ただ、友の言葉を信じたいだけです」
僕の言葉に、シェラは体をこちらに向け、首を傾げた。
「友……なんの話だ」
シェラの声は鋭く、警戒が全身から溢れていた。
やっぱり、覚えていないのか……。
記憶が消されてる……
いや、なら試験をもう一度やるのは妙だな。
人智では理解できない何かが、もしかしたら干渉しているのかもしれない。
気休め程度の……根拠も確証もない曖昧な考えだが、今の僕は、そんなものにでも縋らないと、前に進めない状況にいた。
「あなたは、黒曜銀級のはずだ。なんで、等級章が二つあるんですか……? それとも、僕が知らないだけで、等級章は二つ以上の所持が許されているんですか?」
僕のその問いに、シェラは顔を歪め、ため息を漏らす。
「名前も知らない子供に、教える義理はねぇよ」
シェラが漏らしたその言葉。
聞き逃さなかった僕は、胸を張ってはっきりと答えた。
「ルインです。僕の名前はルイン……。あなたはシェラ……ですよね?」
僕がそう話すと、シェラは驚いたように目を見開いた。
僕しか映していない瞳。
鮮やかなその瞳は、何か小さな希望を見つけたかのようにも見えた。
「あんちゃん……なんで俺の名前を知ってる?」
「…………やっぱり」
シェラの言葉に、僕は小さく呟いた。
やっぱり覚えていないのか……。
たった小さな希望さえも、打ち砕かれた。
魔力を褒め、剣を友の証として渡し、僕に剣術を教えた蜥蜴人は、もうここにはいない。
今目の前に立つ蜥蜴人は、僕のことを知らない。
「たまたま、偶然。名前を聞いたんです。かなり上位の等級章だ。名前が知れ渡っていてもおかしくはないでしょう?」
僕が話したその言葉に、シェラは頷いてあっさりと肯定した。
同時に、彼はやはり覚えていないのだと実感してしまった。
「強い人は見つかりましたか?」
「いいや、いねぇな。あくまで生徒。上限値はたかが知れてる」
そう言いながら、シェラは僕を見つめた。
「もし、つえぇ奴を見かけたら、俺様に教えてくれ。ルイン……お前とは長い付き合いになりそうだ。俺様の直感がそう言ってる」
シェラはそう話しながらニヤリと笑い、牙を見せた。
純粋な感情のその笑顔は、僕の心をかき乱す。
記憶のない蜥蜴人と、記憶のある僕の叶わない約束。
それを聞いている僕は、世界に取り残されたような気がした。




