Episode:4 誰だお前
廊下を歩く。
すでに試験開始の鐘は鳴った。
そして、目的の場所が近づくにつれ、見覚えのある景色が視界に広がった。
それは……。
「おう、ガキンチョ! 見ていくか!」
僕に声をかけたのは、狭い廊下で武具を展開して商売をする一人の鍛人だった。
「すいません、お金はないんです」
僕がそう話すと、鍛人は歯を見せて笑う。
「カカッ! 見るだけで金はとらねぇよ!」
鍛人はそう話しながら膝を叩く。
「冒険者には必須な武具だ。一生の付き合いになるかもしれねぇからな、ガキンチョも、選ぶときは慎重に……だ」
「そうですね」
鍛人のその言葉に、僕は頷いて答えた。
装備……身を守るうえでは大切だが、シェラは革の鎧に身を包んでいた……。
動き、回避特化の軽装だったのか?
僕がそんなことを考えていると、廊下で行き交う人混みから怒鳴り声が響く。
「獣人はまた盗品を扱ってるのかい!?」
「扱ってねぇ! お前ら褐樹人だって、他者から略奪した過去の遺物を用いて発展した種族だろうが!」
その怒鳴り声を聞いて、僕と鍛人はほぼ同時にため息を漏らした。
同時にでたその行動に、鍛人は僕を見て、苦笑いをする。
それに続くように、僕は愛想笑いを浮かべた。
「はぁ……また褐樹人だ」
「また褐樹人ですね」
鍛人の言葉にそう返すと、鍛人は怒号が響く場所に視線を向けて話し始める。
「プライドが高い連中は好きじゃねぇ」
「僕もです」
僕はそう話しながら、そろそろ来るであろう出来事に身を構える。
直後、耳に重い足音が突き刺さる。
「来た……」
僕は小さく呟き、正体を確かめる。
それは、全身に黒い鱗が生え、爬虫類種特有の色彩豊かな瞳を動かし、二股に分かれた舌を出した蜥蜴人……シェラだった。
シェラは一瞬だけ僕に視線を向け、素通りする。
彼の目的は僕ではなく、諍いの鎮静化。
ニヤリと笑ったシェラは、視線を怒号がする方に向け、舌なめずりをする。
「面白そうなことやってんじゃねかぁ……」
シェラはそう話しながら足音を鳴らし、人混みの中に割って入っていく。
体の大きい彼は、人混みの中でも常に見えていて、見失うことはない。
シェラは何かを話した後、ため息を漏らしてこちらに帰ってきた。
「っち……つまんねぇの」
僕の前をそう言いながら通過するシェラの前に、僕は立ちはだかって顔を見つめる。
シェラは首を傾げ、僕を睨んだ。
「なんだ?」
「僕たち、どこかで会いませんでしたか?」
そう話すと、シェラは少し考えた後に、小さく首を振った。
「知らねぇな。誰だお前」
シェラはハッキリとそう話す。
僕はその言葉に、歯を食いしばり、深呼吸をした。
「そう……ですか……」
直後、爆発音が大気を揺らした。
「魔術失敗したぞ!」
「岩人形だ! 先生呼んで!」
他の生徒が叫んだその声に、シェラは鼻をピクピクと動かしてニヤニヤと笑う。
その姿に、少し懐かしさも感じた。
「あっちの方が面白そうだぁ」
シェラは鋭い牙を見せ、ニヤリと歩き出す。
僕はその背中を見つめながら、拳を握る。
やっぱり覚えていない……。
母親と、エヴァ……鍛人も同じ反応だった。
僕が過ごした数日間は、もしかしたら無くなったことになっているのかもしれない……。
「シェラ……」
小さくなるシェラの背中を見ながら、僕は唇をかみしめた。




