Episode:3 認識
老婆の声に首をかしげる。
「何が申し訳ないんですか?」
僕は高鳴る心臓を押さえつけようと、胸に手をあて服を握りながら問いかける。
老婆はそんな僕を見て、小さく首を振った。
「辛い思いをさせてしまって申し訳ないねぇ」
老婆はそう言って、僕から顔をそらした。
何か……何か知っているのか?
僕は老婆に手を伸ばそうとする。
そこで、よく知っている声が背後から響いた。
「ルイン!!」
僕は振り返り、正体を確かめる。
視界に映ったのはよく知る人物、エヴァだった。
「エヴァ、戻ってきたのか……」
僕は小さく声を漏らし、こちらに手を振るエヴァを見つめる。
「学校遅れちゃうよ!!」
エヴァは少し離れた場所から僕に手を振り、何度も僕を呼んだ。
思い出したかのように正面を見ると、老婆はもういなかった。
僕はため息を漏らし、人混みに体をねじ込んでエヴァの元に向かう。
「戻ってきたんだ」
「全然追いかけてこないからね」
なぜ僕が追いかけなくてはいけないのか……。
「先に行っててよかったのに」
僕がそう話すと、エヴァは不機嫌そうに頬を膨らました。
「心配して来てあげたのに……」
「頼んでないよ。行こ」
僕はエヴァにそう言って、先に歩き出す。
校舎に入ると、相変わらず人であふれかえっている。
試験と祭り……このイベントで人が多く来ているのだ。
土足で上がり込み、自分の教室を目指すために歩き出すと、エヴァが立ち止まる。
「私、すぐに」
「試験だろ? 知ってる」
エヴァが話し始めた言葉を切るように、僕は食い気味に話す。
その言葉に、エヴァは首を傾げた。
「言ったっけ?」
「言われたかも」
言われたかも……
そんなのは嘘だ、知っているだけ。
それに、エヴァのセリフ、初めて聞いたかもしれない。
咄嗟に出た言葉が、辻褄の合う返答だったことに、僕自身驚いていた。
「行ってきな」
僕がそう話すと、エヴァは頷いて廊下を走っていく。
その背中を見つめ、僕はため息を漏らした。
姿が消えたのを確認して、僕も歩き出す。
その時には、僕の中に一つの目標が出来上がっていた。
人が溢れる廊下を進み、小さな隙間を縫うようにかき分ける。
「シェラ……」
僕がつぶやいたのは、たった一人の蜥蜴人の名前だった。
僕に訓練を施し、仲間と呼んでくれた友……彼に会えば、何かが変わると思った。
それは浅はかな期待と、小さな希望でもある。
彼に会わなくては……。
人をかき分けながら、進み、彼と初めて会った廊下を目指す。




