Episode:17 繰り返しとやり直し
翌日の夜……。
空が闇に包まれたころにシェラは姿を現した。
「よろしくお願いします」
僕はシェラの瞳を見つめながらそう呟いた。
シェラは爬虫類特有の瞳をギラつかせ、僕を見つめる。
「あぁ、しっかりと教えてやる」
シェラは確かにそう言って、昨夜と同じようにランタンに火を灯した。
「姿勢、筋力。これが出来てりゃ基本的には問題ない」
「型などは覚えなくていいんですか?」
僕の問いに、シェラはため息を漏らした。
「いらない。理由はわかるか?」
「わかりません……」
僕はその問いに答えられず、目を伏せる。
基本的なことだろうか?
僕がそんなことを考えていると、シェラは口を開いて話し始めた。
「理由は簡単だ……流派で扱う型なんてのは、対人用だ。冒険者が相対するのは人じゃなく、魔物、野生だ。覚えたところで、役には立たない」
シェラが低く唱えたその思考に、僕はすぐに納得した。
確かにそうだ。
役に立つわけがない。
人よりも力が強く、人より躊躇がない奴らに、人のやり方をしても意味がない。
「なるほど……」
僕はそう呟いて、剣を構えた。
昨夜の疲労が蓄積し、切先がブレるが、シェラの指導は止まらない。
「しっかり姿勢を保て、冒険者は一日で家に帰れるとは限らない、弱っているから回復するまで待ってくださいなってないぞ。腕と腹筋に力を入れろ、身体から鍛え、慣らせ」
ランタンの光が揺れ、影が重なり、また離れる。
視覚的に切先がブレるのを確認し、力を入れ直す。その繰り返し。
どれくらいやったか、疲労は常に蓄積して、回復などしない。
そのまま翌日を迎え、学校に行き、訓練をする。
シェラは毎日欠かさず姿を現し、僕に剣術の指導をした。
そして六日目の訓練終わり……。
「明日は、休みでお願いします」
「……理由は?」
僕の要望に、シェラは首を傾げ、問いかけてきた。
「エヴァと、王都の祭りに行くんです」
「エヴァ……あの娘か、なら仕方ない。明日は中止だ。でも、剣は握れよ」
そう話したシェラは優しく、少し寂しそうにも見えた。
「……シェラも……」
僕は言おうとして言葉を止めた、シェラは僕を見つめ、怪訝そうな顔で首を傾げた。
「シェラも、行きませんか。きっと、いろんな種族がいます。地方の料理も振る舞われるかも……。だから……」
僕がそう話すと、シェラは笑いながら首を振った。
「いや、いい。俺様は一人でいくさ。邪魔はできないからな」
シェラはそう言ってランタンの火を消していく。
「大事にしろよ、友人も、仲間も。裏切られたと思っても最後は許して協力してやれ、いなくなってからじゃ遅い」
その言葉と同時に、最後のランタンの明かりが消えた。
あたりが闇に包まれ、シェラの黒い体は闇に溶ける。
境界も曖昧になる中で、シェラの声が響いた。
「明日頑張れよ」
「ありがとうございます」
その日はそれで解散。
僕は家に帰り、重い足取りのままベッドに寝転がり、服も変えずに眠りについた。
朝の光が部屋を照らし、眩しさに顔をしかめる。
「ルイン! 早く起きなさい!」
母親の大きな声で目を覚まし、ベッドから飛び起きた。
訓練が終わった後とは思えないほど身体が軽く。
朝の光が気持ちいい。
準備をして、早めに出なくては……。
階段を駆け下り、母親の姿を見つける。
「おはよう、今日はエヴァと祭り行くから」
そう話すと、母親は振り返り僕を見て話を始める。
「祭りって? 何かあったっけ?」
「あれだよ、王都の祭り」
僕の返事を聞いて、母親は更に首を傾げた。
「それは七日後でしょ」
母親のその言葉に、僕は顔が引き攣る。
また、夢を見ていたのか。
違う、訓練は現実だったはずだ。
じゃあ、今の身体の軽さは?
僕は止まらぬ思考と共に、自身の手を見下ろす。
「何が……どうなって……」
呼吸が荒くなるのを感じながら、僕は歯を食いしばった。




