Episode:15 剣術訓練
一度自宅に入り、階段を上って自室から剣を一本取り、玄関に向かう。
靴に履き替えている途中で、母親の声が背後から響いた。
「どこか行くの?」
「ちょっと剣振ってくる。近くだし大丈夫だよ」
僕はそう話しながら、靴を履いて立ち上がった。
「剣ねぇ……魔術はやめたの?」
「向いてないんじゃないかな、魔術は……」
少し考えてからそう話すと、母親は赤い瞳で僕を見つめて、小さく頷いた。
「そっか、頑張りなさいね」
「うん、ありがとう」
母親の言葉に頷き、僕は玄関を開ける。
外に出て少し歩くと、シェラがランタンに火をつけ、いくつか地面に設置をしていた。
「……何をしているんですか?」
「暗いと切っ先のブレや体の動きが見えないだろ。俺は夜目が利くからともかく、人間であるルインは話が変わる。影を確認することで、ブレも視覚的に自覚できる」
そう話しながらシェラはランタンに火をつけて地面に置いていく。
金属が土の上に置かれる音をただ聞きながら、僕は彼を見つめた。
「さて、始めるか」
そう言いながらシェラは少しだけ体を伸ばし、円形になるように置かれたランタンの中心から外に出た。
「まずは真ん中に行け」
シェラは僕に指をさし、円形の中に行くように指示を出す。
僕はその指示に従いランタンを跨いで円の中心に入る。
「鞘から剣を抜け」
僕は頷き、鞘から剣を引き抜く。
シェラはそれを見て、頷いた。
「鞘はこっちに」
シェラの言葉で鞘を彼に投げ、僕は深呼吸をする。
「じゃあぁ始めるぞ」
「準備運動とかはしなくていいんですか?」
僕の問いにシェラは首を小さく振る。
それは少し呆れているようにも見え、ため息交じりに口を開く。
「敵が出るのは基本的に突然だ。準備運動は確かに必要だが、魔術を中心に扱うなら、基本的には問題ない」
シェラがそう話すと、僕は首を傾げた。
あれ、魔術が使えないことは言っていなかっただろうか。
シェラは僕を見て首をかしげる。
「僕は魔術は使えません……というか、苦手なんです」
その言葉に、シェラは目を見開いた。
「冗談だろ? 校庭に漂ってた魔術の匂いは厚く、深かった……重厚で、密度のある匂いだったぞ……」
腕を組みながらシェラは思い出すかのように唸る。
少し考えた後、ため息を漏らして話し始めた。
「いや、魔術が使えないと仮定しよう。原因はわからねぇからな……。だとしたら、なおさら準備運動はしない、安心しろ、初めから怪我をするような訓練はしない」
そう言って、シェラは僕を睨む。
「まずは握れ、握って、手になじませろ」
シェラが話すその言葉に僕はただ頷き、剣を握る。
剣を握った手のひらから伝わる鉄の冷たさ、重量感、ランタンの光に当てられた輝く切っ先……。
そんなことを考えるていると、次第に剣を握っている感覚が鋭くなり、現実感が増していく。
「わかったか、ルイン……。お前が今握ってるのは、そういう代物だ。魔術のように実感がなく扱えるもじゃない。でも、やるんだろ?」
「……お願いします」
僕の言葉に、シェラはニヤリと笑った。
「よし、まずは適当に振れ」
「技とか、姿勢などはないんですか?」
僕の言葉に、シェラは首を振り、僕に視線を向けて口を開く。
「ペンの持ち方を知らない奴に、字の書き方を教えるのか?」
その言葉を聞いた瞬間、妙に納得がいった。
極端な例ではあるが、わかりやすい。
「まずは慣れること、それが最優先。でも、ただ持つだけじゃ意味はない。適当に振れ、見といてやる」
シェラはそう話して、近くの土の上に座り込んだ。
剣術の指導を始めようとしている彼の表情は、昨日よりも険しかった。




