Episode:12 一日の終わり
空がゆっくりと黒く染まっていく頃、試験終了を告げる鐘が校内に響き渡る。
その音を聞いたシェラは、耳を澄ませるかのように天井に目をやる。
「これが終了の合図か?」
シェラが漏らしたその言葉に、僕とエヴァは同時に頷いた。
「はい」
僕がそう答えると、シェラはゆっくりと天井から僕に視線を移す。
「もう帰っていいのか? それとも、教室か何かでまだ少し何かするのか?」
シェラはそう話しながら、僕とエヴァを交互に見た。
基本的に、実技試験は全体が終われば帰ってよいと言われている。
なら、なぜ残らなくてはいけないのか……特に気にしたことはないし、気にしたところで意味もないため、誰も知らない。
「もう帰っていいはずです」
「じゃあ、もう帰ろうぜぇ」
僕の言葉にシェラはそう話して、先に歩き出す。
鐘が鳴った後は用がないのか、人が溢れかえっていた廊下は、普通に歩ける程度にまで減っていた。
僕とエヴァは、シェラを追いかけるように歩き出す。
玄関を出て、校門から出る頃には、空の黒はより深くなる。
遠い空はまだ赤いのに、頭上は黒く、星が輝いていた。
「この空を見て、まだ一刻以上歩こうと思うルインとエヴァがすげぇよ」
「流石に慣れましたよ。最初は嫌でしたけど」
ため息を漏らしながら話したシェラの言葉に、僕はそう返す。
石畳の街中を抜け、門をくぐる。
「お、ルイン、エヴァ、今から帰りか、気をつけろよ」
門番の男がそう話した。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。おじさん」
僕とエヴァはほぼ同時に、頭を下げ、そのまま歩き出す。
「蜥蜴人? 知り合いか、ルイン?」
「はい、今日知り合って。家まで護衛してくれるとの事で……」
僕がそう話すと、すりガラス越しに門番のシルエットが動く。
おそらく、視線を蜥蜴人に移したのだろう。
こちらからはやっとシルエットが見えるくらいだが、向こうからはハッキリとこっちの表情も視認できるとの事だ……。
なんらかの魔術を駆使した特殊ガラスか……。
「昨日の今日で護衛……ねぇ?」
疑いの声が門番の男から漏れる。
彼のこの場は、僕、そしてエヴァを守るためとは分かっているが、知り合いに疑いが向くのはなんとも気分が悪かった。
「おじ……」
僕が説明のため口を開こうとすると、シェラはそれを制止し、首にかけてある鎖に手をかけた。
「大丈夫」
シェラはそう話して、ジャラジャラとネックレス状の何かを取り出して門番に見せた。
「冒険者……しかも黒曜銀級か……疑って悪かった。ルインとエヴァを頼む」
「任せろ」
門番の態度がひっくり返るように、疑いが晴れて信頼の言葉を投げかける。
シェラは深く頷いて、服の中に等級章を隠す。
門から街道に出て、空を見ながら歩く。
「星が綺麗だね」
「いつも見てるじゃん」
エヴァの呟きに答える僕。
そんな他愛のない平和な会話をしている僕たちの後ろでは、シェラはが周囲に警戒をしながらついてきていた。
「シェラ、警戒しすぎです。少しは気を抜いてください」
「何もないに越したこたぁねぇんだよ。いいから歩け」
僕の言葉に、シェラはため息を漏らして視線を闇に向ける。
街道から遥か離れた場所には森林区画が見える。
視界には移るが、実際に歩くとかなりの数刻はかる距離だ。
そんなところまで警戒しているシェラは、冒険者だと実感させると同時に、異常な気もした。
他愛のない会話をしながらエヴァを自宅に送り、何もなかったと安堵した。
エヴァに手を振り、僕の家まで歩く。
街灯などはなく、家が並ぶ灯りだけが唯一の目印となる。
「さっきのすごかったですね」
「……あぁ?」
僕の言葉に、シェラが首を傾げた。
「さっきの、等級章です。冒険者は信用があるんですね」
「あぁ……冒険者ってのは依頼者ありきの仕事だからな、等級が高いってのは、それだけ人に寄り添い、求められた依頼をこなしてるって事だ」
シェラは先で光る村を見つめる。
誰かが住んでいるから光がある……
「俺様たち冒険者は、人の生活を守る事が仕事だ。それ以上はない……もっとも、俺様はそれすら……」
そう言ったシェラを見つめて、僕は首をかしげる。
「最後、なんて言いましたか?」
シェラにそう話すと、彼は誤魔化すかのように僕から顔をそらした。
何も言っていなかったのだろうか、何かを言おうとして諦めたのかは、わからない。
そんなことをしているうちに、僕は自宅の前に着く。
「着きました。ありがとうございます」
玄関の前で僕はシェラに視線を合わせ、そう話す。
その言葉に、シェラは頷いた。
「剣術の件だが、明日の夜から始めよう。学校終わりでも俺は加減しないぞ」
シェラは僕の目をしっかりと見ながらそう話した。
「はい、わかりました」
そう返事をして、僕はシェラに頭を下げる。
「ありがとうございました、お気をつけて」
「あぁ、おやすみ」
シェラはそう話して歩き出す。
僕はその背中が見えなくなってから、玄関を開けて家に入った。




