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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第二章:あの日から

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Episode:12 一日の終わり

 空がゆっくりと黒く染まっていく頃、試験終了を告げる鐘が校内に響き渡る。

 その音を聞いたシェラは、耳を澄ませるかのように天井に目をやる。


「これが終了の合図か?」


 シェラが漏らしたその言葉に、僕とエヴァは同時に頷いた。


「はい」


 僕がそう答えると、シェラはゆっくりと天井から僕に視線を移す。


「もう帰っていいのか? それとも、教室か何かでまだ少し何かするのか?」


 シェラはそう話しながら、僕とエヴァを交互に見た。

 基本的に、実技試験は全体が終われば帰ってよいと言われている。

 なら、なぜ残らなくてはいけないのか……特に気にしたことはないし、気にしたところで意味もないため、誰も知らない。


「もう帰っていいはずです」


「じゃあ、もう帰ろうぜぇ」


 僕の言葉にシェラはそう話して、先に歩き出す。

 鐘が鳴った後は用がないのか、人が溢れかえっていた廊下は、普通に歩ける程度にまで減っていた。


 僕とエヴァは、シェラを追いかけるように歩き出す。


 玄関を出て、校門から出る頃には、空の黒はより深くなる。

 遠い空はまだ赤いのに、頭上は黒く、星が輝いていた。


「この空を見て、まだ一刻(ひとこく)以上歩こうと思うルインとエヴァがすげぇよ」


「流石に慣れましたよ。最初は嫌でしたけど」


 ため息を漏らしながら話したシェラの言葉に、僕はそう返す。

 石畳の街中を抜け、門をくぐる。


「お、ルイン、エヴァ、今から帰りか、気をつけろよ」


 門番の男がそう話した。


「ありがとうございます」


「ありがとうございます。おじさん」


 僕とエヴァはほぼ同時に、頭を下げ、そのまま歩き出す。


蜥蜴人(リザードマン)? 知り合いか、ルイン?」


「はい、今日知り合って。家まで護衛してくれるとの事で……」


 僕がそう話すと、すりガラス越しに門番のシルエットが動く。

 おそらく、視線を蜥蜴人に移したのだろう。


 こちらからはやっとシルエットが見えるくらいだが、向こうからはハッキリとこっちの表情も視認できるとの事だ……。

 なんらかの魔術を駆使した特殊ガラスか……。


「昨日の今日で護衛……ねぇ?」


 疑いの声が門番の男から漏れる。

 彼のこの場は、僕、そしてエヴァを守るためとは分かっているが、知り合いに疑いが向くのはなんとも気分が悪かった。


「おじ……」


 僕が説明のため口を開こうとすると、シェラはそれを制止し、首にかけてある鎖に手をかけた。


「大丈夫」


 シェラはそう話して、ジャラジャラとネックレス状の何かを取り出して門番に見せた。


「冒険者……しかも黒曜銀(こくようぎん)級か……疑って悪かった。ルインとエヴァを頼む」


「任せろ」


 門番の態度がひっくり返るように、疑いが晴れて信頼の言葉を投げかける。

 

 シェラは深く頷いて、服の中に等級章を隠す。


 門から街道に出て、空を見ながら歩く。


「星が綺麗だね」


「いつも見てるじゃん」


 エヴァの呟きに答える僕。

 そんな他愛のない平和な会話をしている僕たちの後ろでは、シェラはが周囲に警戒をしながらついてきていた。


「シェラ、警戒しすぎです。少しは気を抜いてください」


「何もないに越したこたぁねぇんだよ。いいから歩け」


 僕の言葉に、シェラはため息を漏らして視線を闇に向ける。

 街道から遥か離れた場所には森林区画が見える。


 視界には移るが、実際に歩くとかなりの数刻はかる距離だ。

 そんなところまで警戒しているシェラは、冒険者だと実感させると同時に、異常な気もした。


 他愛のない会話をしながらエヴァを自宅に送り、何もなかったと安堵した。


 エヴァに手を振り、僕の家まで歩く。

 街灯などはなく、家が並ぶ灯りだけが唯一の目印となる。


「さっきのすごかったですね」


「……あぁ?」


 僕の言葉に、シェラが首を傾げた。


「さっきの、等級章です。冒険者は信用があるんですね」


「あぁ……冒険者ってのは依頼者ありきの仕事だからな、等級が高いってのは、それだけ人に寄り添い、求められた依頼をこなしてるって事だ」


 シェラは先で光る村を見つめる。

 誰かが住んでいるから光がある……


「俺様たち冒険者は、人の生活を守る事が仕事だ。それ以上はない……もっとも、俺様はそれすら……」


 そう言ったシェラを見つめて、僕は首をかしげる。


「最後、なんて言いましたか?」


 シェラにそう話すと、彼は誤魔化すかのように僕から顔をそらした。


 何も言っていなかったのだろうか、何かを言おうとして諦めたのかは、わからない。


 そんなことをしているうちに、僕は自宅の前に着く。


「着きました。ありがとうございます」


 玄関の前で僕はシェラに視線を合わせ、そう話す。

 その言葉に、シェラは頷いた。


「剣術の件だが、明日の夜から始めよう。学校終わりでも俺は加減しないぞ」


 シェラは僕の目をしっかりと見ながらそう話した。

 

「はい、わかりました」


 そう返事をして、僕はシェラに頭を下げる。


「ありがとうございました、お気をつけて」


「あぁ、おやすみ」


 シェラはそう話して歩き出す。

 僕はその背中が見えなくなってから、玄関を開けて家に入った。

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