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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第二章:あの日から

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Episode:10 あの日の夕陽

 あれから気まずい雰囲気のまま、廊下を歩く。

 シェラは何も話さず、僕の後ろをただついてくるばかりだった。


「まだ、実技試験終わりませんね」


「……そうだな」


 僕の言葉に、シェラは力無く答える。

 何かを考えているような、落ち込んでいるようにも見える。

 鍛人(ドワーフ)に等級を暴露されたのがそこまで嫌だったのか、はたまた別の理由があるのかは僕にはわからない。


 だから、聞くことにした。


 少し傾いた夕陽が差し込む廊下。

 まだ試験が残っている生徒と、多種多様な種族が溢れかえっている。

 その真ん中で僕は立ち止まり、振り返った。


「シェラさん」


 僕のその呼びかけに、シェラは少しばかり苦い顔をする。

 距離が離れたように感じたのだろうか。

 僕は左手に握る鞘に、さらに力を込める。


「……シェラで良い」


 シェラは僕から視線を逸らし、窓の外を見ながらそう呟いた。

 廊下側の窓からは校庭ではなく、王都の街並みが見える。

 もうすぐで夜が訪れると言うのに、まだ人の波が蠢いている。


「では、シェラ……最高等級と言うのは本当ですか?」


 僕のそう話すと、シェラは僕に視線を戻し、ため息を漏らしたあとに呟く。


「……いや……」


 言い淀むシェラに、僕は続ける。


「隠したかった……んですか?」


 僕がそう問いかけると、シェラは小さく首を振り、ため息を漏らす。

 何かを言い淀み、悩んでいる様子だった。


「じゃあ、なんで……」


「話せば長くなる」


 シェラは少しの苛立ちと、自身に対する哀れみを込めたような声色で、そう吐き出した。


「話したくないと……」


「複雑な事情があるんだ」


 シェラは眉を歪めながらそう呟いて、窓の外、街の先を見つめる。

 どこか遠い場所にある何かを、求めているようにも見えた。


「……そうですか……。じゃあ、話せるようになったら、お願いします」


 僕のその言葉に、シェラは視線を僕に素早く戻す。

 まるで驚いたような表情をしたシェラを見て、僕は首を傾げた。


「どうかしましたか?」


「……聞かないのか?」


 シェラの問いに、僕は息を吐き、肩をすくめる。

 そして、彼同様窓の外を見た。


「仲間になったばかりですし、話せること、そうでないことがあります。だから、今は大丈夫です。話せる時が来たら、お願いします」


 そう話すと、シェラの声が震える。

 泣いているわけではない……。

 おそらく、自身が情けなくて仕方がない。

 事情があるとは言え、()()にさえ話せない自分が……。


「すまん」


 絞り出したように話すシェラは、体格こそ大きいが、小さく見えた。


「一つ聞きたいんですが、これから腕を磨いたり、冒険をするつもりなら、僕は冒険者になるのが良いんでしょうか?」


 シェラは僕の問いに、少し考え唸る。


「いや、世界を渡り歩くだけって名目なら、わざわざ冒険者になる必要はねぇよ。でも、金の入手手段、関所でのやり取りとかは、冒険者、かつ等級が上であることは得だ。冒険者は重宝されるし、等級は身分証にもなるからな」


 シェラはそう話し、僕を見つめる。


「冒険者になりたいのか?」


「考え中です」


 シェラの問いに、僕は曖昧に答えた。

 その答えが面白かったのか、シェラは優しく笑う。


「なんだそれ。まぁ、今のルインじゃ弱すぎてすぐ死ぬな」


 優しさを込めた棘。

 言っていることは酷いが、その声色には溢れんばかりの優しさが込められていた。


「なら、シェラが僕に剣術を教えてください」


 そう話すと、シェラは目を見開く。


「本気か?」


「本気です」


 僕がまっすぐ見つめると、シェラは腕を組み少し考える。

 時々漏れる唸り声が、真剣に考えていると知らせてくれる。


「俺様も冒険者だ。毎日ずっと、は見れない。だから、一日二刻(ふたこく)ずつなら」


「なら、それで」


 僕はそう言って握手を求める。

 その手に、シェラは視線を移す。

 そして、笑った。


「あぁ、任せろ」


 夕陽が差し込む廊下。

 まだ人が溢れかえる廊下の真ん中で、僕の手を包み込んだのは、黒い鱗の生えた蜥蜴人(リザードマン)の手だった。

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