Episode:10 あの日の夕陽
あれから気まずい雰囲気のまま、廊下を歩く。
シェラは何も話さず、僕の後ろをただついてくるばかりだった。
「まだ、実技試験終わりませんね」
「……そうだな」
僕の言葉に、シェラは力無く答える。
何かを考えているような、落ち込んでいるようにも見える。
鍛人に等級を暴露されたのがそこまで嫌だったのか、はたまた別の理由があるのかは僕にはわからない。
だから、聞くことにした。
少し傾いた夕陽が差し込む廊下。
まだ試験が残っている生徒と、多種多様な種族が溢れかえっている。
その真ん中で僕は立ち止まり、振り返った。
「シェラさん」
僕のその呼びかけに、シェラは少しばかり苦い顔をする。
距離が離れたように感じたのだろうか。
僕は左手に握る鞘に、さらに力を込める。
「……シェラで良い」
シェラは僕から視線を逸らし、窓の外を見ながらそう呟いた。
廊下側の窓からは校庭ではなく、王都の街並みが見える。
もうすぐで夜が訪れると言うのに、まだ人の波が蠢いている。
「では、シェラ……最高等級と言うのは本当ですか?」
僕のそう話すと、シェラは僕に視線を戻し、ため息を漏らしたあとに呟く。
「……いや……」
言い淀むシェラに、僕は続ける。
「隠したかった……んですか?」
僕がそう問いかけると、シェラは小さく首を振り、ため息を漏らす。
何かを言い淀み、悩んでいる様子だった。
「じゃあ、なんで……」
「話せば長くなる」
シェラは少しの苛立ちと、自身に対する哀れみを込めたような声色で、そう吐き出した。
「話したくないと……」
「複雑な事情があるんだ」
シェラは眉を歪めながらそう呟いて、窓の外、街の先を見つめる。
どこか遠い場所にある何かを、求めているようにも見えた。
「……そうですか……。じゃあ、話せるようになったら、お願いします」
僕のその言葉に、シェラは視線を僕に素早く戻す。
まるで驚いたような表情をしたシェラを見て、僕は首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「……聞かないのか?」
シェラの問いに、僕は息を吐き、肩をすくめる。
そして、彼同様窓の外を見た。
「仲間になったばかりですし、話せること、そうでないことがあります。だから、今は大丈夫です。話せる時が来たら、お願いします」
そう話すと、シェラの声が震える。
泣いているわけではない……。
おそらく、自身が情けなくて仕方がない。
事情があるとは言え、仲間にさえ話せない自分が……。
「すまん」
絞り出したように話すシェラは、体格こそ大きいが、小さく見えた。
「一つ聞きたいんですが、これから腕を磨いたり、冒険をするつもりなら、僕は冒険者になるのが良いんでしょうか?」
シェラは僕の問いに、少し考え唸る。
「いや、世界を渡り歩くだけって名目なら、わざわざ冒険者になる必要はねぇよ。でも、金の入手手段、関所でのやり取りとかは、冒険者、かつ等級が上であることは得だ。冒険者は重宝されるし、等級は身分証にもなるからな」
シェラはそう話し、僕を見つめる。
「冒険者になりたいのか?」
「考え中です」
シェラの問いに、僕は曖昧に答えた。
その答えが面白かったのか、シェラは優しく笑う。
「なんだそれ。まぁ、今のルインじゃ弱すぎてすぐ死ぬな」
優しさを込めた棘。
言っていることは酷いが、その声色には溢れんばかりの優しさが込められていた。
「なら、シェラが僕に剣術を教えてください」
そう話すと、シェラは目を見開く。
「本気か?」
「本気です」
僕がまっすぐ見つめると、シェラは腕を組み少し考える。
時々漏れる唸り声が、真剣に考えていると知らせてくれる。
「俺様も冒険者だ。毎日ずっと、は見れない。だから、一日二刻ずつなら」
「なら、それで」
僕はそう言って握手を求める。
その手に、シェラは視線を移す。
そして、笑った。
「あぁ、任せろ」
夕陽が差し込む廊下。
まだ人が溢れかえる廊下の真ん中で、僕の手を包み込んだのは、黒い鱗の生えた蜥蜴人の手だった。




