Episode:9 強き者
僕は剣を左手に持ち変え、ゆっくりと深呼吸をする。
「さて、ルイン。これからどうすんだ?」
シェラのその声に、僕は首を傾げた。
まるで真似でもするかのように、シェラも首を傾げ色彩豊かな瞳の瞳孔が狭くなる。
「いや、もう何もすることねぇんだろ? まだ全員の試験は終わってねぇだろうし、正式な手順ってのも待たなきゃいけねぇんだろ?」
シェラのその言葉に、僕は「あぁ」と声を漏らす。
忘れていた……。
正式な手順を踏まなくては、引き抜きや推薦ができない。
シェラはそれを待っていたんだ。
直後、鍛人が口を開く。
「あ? あれか? 弟子とか、生徒にしたいとか、そう言った話か?」
鍛人が話した言葉に、僕は視線を鍛人に移して頷いた。
「はい」
「なんだ、お前さんたち、まだ浅い仲だったんだな。武器を贈るなんてするから、てっきり仲間か何かだと思った」
鍛人が言ったその言葉に、僕はシェラを見つめる。
「……仲間」
「なるほど、仲間ってんなら、正式な手順とやらはいらないのか?」
シェラは鍛人に視線を移し、問いを投げる。
鍛人はそれを聞いて、髭をさすりながら頷いた。
「仲間ってのはな、心でなるもんなんだよ。契約や誓約じゃねぇ、人情って奴だ。そんなもんに、手順なんかあるわけがねぇ」
そう話した鍛人の言葉に、シェラは頷きながら笑う。
まるで何かいいことを思いついたような不適な笑みを浮かべた。
「ルイン、俺様は仲間だ。だから、正式な手順を踏まなくてもいいと思うんだ」
シェラは僕に視線を移してそう話した。
その顔は真剣で、ふざけているようには見えない。
それでも、僕は聞いてみることにした。
「本心は?」
僕の言葉に、シェラは深呼吸をし、腰に手を当て胸を張る。
そして、堂々と口にした。
「めんどい!」
そのハッキリとした言葉に、僕は逆に清々しく感じた。
悪気はない純粋な気持ちだからだろうか。
それと同時に、この人なら、シェラなら信じても悪い気はしないと、直感がそう言った気がした。
「はは、まぁ、じゃあ、仲間ってことで」
僕がそう話すと、シェラは笑い、頷く。
満足そうに笑うシェラの顔は、刺すような眼差しではなく、優しく包み込むような眼差しだった。
シェラという人物が、どんな人間…………いや、蜥蜴人かはわからない。
でも、僕は自身の直感を信じてみることにした。
「よろしく頼むな」
「はい、お願いします」
僕のその言葉に、シェラは頷いた。
「シェラさん……。シェラは、普段は何を?」
「俺様かぁ?あー……冒険者だ」
シェラの言葉を聞いた僕は、妙に納得した。
蜥蜴人は元々筋肉質な身体付きをしていると聞いたことはあるが、それにしてもシェラは筋骨隆々の体格に見えた。
大きな曲剣を携え、それを振るうとなれば生半可な努力ではないのだろう。
「えっと……等級を聞いてもいいですか?」
僕がそう話すと、シェラは僕から視線を逸らす。
「いや、まぁ……そんな大したことねぇよ」
そう話すシェラは、僕から目を逸らすが、隣に座っていた鍛人が口を開く。
「嘘つけ蜥蜴人」
そう言って鍛人は蜥蜴人の首を指差す。
そして、鍛人はニヤリと笑って口を開いた。
「その首に見えてる金属製の黒鎖、鱗と同化してるからわかりづらかったが、お前さん、最高等級だろ」
鍛人のその言葉を聞いて、蜥蜴人はため息を漏らした。
最高等級……。
もしかしたらシェラは、隠したかったのかもしれない。




