Episode:8 友好の証
ため息を漏らす鍛人を見つめ、シェラはニヤリと笑った後、口を開いた。
「素材が分かったら、真っ先にオッサンに知らせてやるよ」
鍛人は目を輝かせシェラを見つめるが、恥ずかしかったのか、すぐに仏頂面に戻して咳ばらいをした。
「頼むぜ、蜥蜴人」
「任せろ。鍛人」
シェラと鍛人は互いに何かを理解したのか、笑い合いながら見つめ合っている。
「……なんだこれ」
僕はその光景をただ見つめながら、小さく声を漏らした。
直後、シェラは僕に視線を移し、すぐに鍛人を見て、口を開いた。
「オッサン、この直剣をこいつに、金は俺様が払う」
シェラはそう話し先程褒めた剣を指差す。
鍛人はシェラの言葉に目を見開き、僕を見た。
「蜥蜴人、お前さん本気か? 魔術が浸透した世界で、剣を買うなんて……。武器を作ってるワシが言うことじゃあないが、お勧めは出来ねぇ」
「いいんだよ。魔術が中心だからこそ警戒されねぇし、甘く見られる。それに、ただの剣にだって魔術を込めりゃ粗悪品から一転、最高級の武器になる。オッサン、アンタは鍛造の技術は鍛人の中でもかなり上位だろ? 打てんじゃねぇのか、魔力が込められた武器を」
その言葉に、鍛人の目付きが変わる。
「魔力……魔剣のことか……。ありゃ、ちょっとやそっとでどうこうできる代物じゃねぇ。だがまぁ……そうだな。普通の武器の需要はもうねぇ、魔剣の鍛造も視野に入れて動くか……」
そう呟きながら考える鍛人を見て、シェラはニヤリと笑う。
「で、オッサン、この剣はいくらだ」
シェラの言葉に、鍛人は剣を見つめる。
そして、何かを決心したのか頷いて僕とシェラを見つめた。
「それはくれてやる。金はいらん。鞘も適当なものを持っていってくれ」
「いや……だが」
鍛人の言葉に、シェラ戸惑ったように見えた。
初めて見せた戸惑いを、僕は少し微笑みながら見つめる。
態度も、口も悪いが、おそらく悪い人ではないと、そう実感した。
「良質な骨の武器、新たな選択肢。ワシに価値のあるものを見せ、見つけ出してくれたからの。その礼とでも思ってくれ」
鍛人はそう話し、優しく微笑んだ。
仏頂面の先程までとは違い、どこか満足したような、そんな表情をしていた。
「そうか……ならありがたくいただくぜ」
シェラはそう話し、剣を拾い上げ、近くにあった箱の中から適当な鞘を選び刀身を納める。
それを、僕に差し出してきた。
「友好の証ってわけじゃないが、鍛人のオッサンと、俺様から」
差し出された剣に僕は目を向ける。
剣……
ゆっくりと手を伸ばし、受け取る。
両手に金属の重みが感じられ、少し前に姿勢が傾く。
「……重い」
知らなかった。
剣がこんなに重いことを。
見た目以上にはるかに重く、命の奪い合いに扱うには酷く鋭い。
「大事に使ってやれ」
シェラは僕の目を見てハッキリそう言った。
「…………はい」
僕の返事に、シェラは優しく微笑む。
その表情には、どこか寂しさのような物が含まれている感じがした。
「ガキンチョ、蜥蜴人」
鍛人の声が耳を刺し、僕とシェラは視線を移す。
「なんだ」
「死ぬなよ」
鍛人がポツリと呟いたその言葉は何よりも重く、何よりも心がこもっていた。
「ありがとうございます」
「おう」
鍛人の言葉に、僕とシェラはそう答える。
その答えに満足したのか、鍛人はガハハと大きく口を開け笑う。
廊下に響く笑い声を聞きながら、手に握る剣を握り直す。
その剣は、はるかに重い。




