Episode:4 知っている一日4
蜥蜴人は僕を見おろし、にやりと笑う。
「なんだあんちゃん? 俺様に何か用か」
低い声が耳に刺さり、全身の筋肉が硬直する。
怖い……圧倒的な力の差に、全身が恐怖を感じていた。
「僕と、どこかで合いませんでしたか……?」
僕の問いに、蜥蜴人は顎をさすり、少し考えるように瞼を閉じる。
「ねぇなぁ……まったく記憶にねぇ。わりぃな」
「…………そうですか……人違いかもしれません」
そう話すと、蜥蜴人は軽く頷いて、怒号の響く方に顔を向ける。
「面白そうなことやってんじゃねぇかぁ……」
牙を見せながらそう呟き、蜥蜴人は人混みの中をかき分けて進んでいく。
恵まれた体格を持つ蜥蜴人は、数十人の中でも、位置がわかるほど、身長が高く、それだけで威圧感があった。
そして、彼が立ち止まった瞬間に、喧騒が止まる。
廊下が一瞬にして静まり、ギャラリーまでもが口を閉じた。
「……夢と同じ……」
僕がそう呟くと、話を終えた蜥蜴人が戻ってきた。
「っち……つまんねぇの」
僕の目で立ち止まった蜥蜴人は、舌打ちをしながら僕を見おろす。
「強い奴知らねぇか? 俺様が負けるくらいつえぇ奴。ヤベェ奴」
「……知らない」
その声に、蜥蜴人は肩をわかりやすく落とし、ため息を漏らした。
「そうかぁ……知らねぇか……もし見つけたら、教えてくれ。あんちゃんとは長い付き合いになりそうだ。俺様の直感がそう言ってる」
「……わかった」
僕がそう返事をしたと同時に、爆発音が大気を揺らし、校舎が揺れた。
「魔術失敗したぞ!!」
「岩人形だ! 先生呼んで!」
他の生徒が叫んだその声に、蜥蜴人は鼻先を動かしてニヤリと笑う。
「あっちの方が面白そうだぁ」
まるで悪人のように牙をむいて笑う蜥蜴人は、足早に歩き始め、そのまま姿を消した。
一緒だ。
すべてが……。
予知夢ってこんなに当たる物なのだろうか……。
何が起きているんだ。
廊下を見つめ、予知夢と同じことが起こっている現象に喉を鳴らす。
僕はいまだに、何が起きているかわからず、ただただ混乱するばかりだった。
「おい、ガキンチョ」
蜥蜴人が消えた廊下の先を見つめる僕に、鍛人が声をかける。
「……はい?」
僕は廊下の先から鍛人に視線を移し、ただまっすぐ見つめる。
「お前さん、今日実技試験なんだろ?時間は大丈夫なのか?」
鍛人の男は長い髭をさすりながらそう話した。
僕は時間を気にせずに、ただ今の異常を眺めていた。
予知夢、まったく同じ光景、言葉、違和感は。
それらの要素は、僕の心を揺さぶるのには十分すぎた。
「おじさん、今は何時?」
僕は少しおびえていた。
きっとそれは声にも出ていた気がする。
僕の質問に、鍛人の男はポケットから懐中時計を取り出し、ため息を漏らしながら答えた。
「今は……えっと」
そう話す鍛人の口元を僕は眺めながら、ほぼ同時に話すように、小声で記憶を漏らした。
「一刻と半だな」
「一刻と半……」
同時に話した僕を見て、鍛人は眉を歪めて僕を睨む。
「時間を知ってたのか?」
「……知りませんよ」
僕がそう答えると、鍛人はため息を漏らして僕から目をそらす。
「客じゃないなら用はねぇ……失せな」
鍛人は気を悪くしたのか、そう吐き捨てた。
「すいませんでした」
僕は鍛人に軽く頭を下げて歩き出す。
とりあえず……実技試験に……。
歩き出した僕の手は、緊張とは違う何かで震えていた。




