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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第二章:あの日から

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Episode:3 知っている一日3

 鏡に映る僕の表情をみて、言葉を失う。

 そこに映っていたのは、おおよそ平常とは思えない少年の姿だったからだ。


「何をそんなに焦っているの?」


 エヴァはそう言いながら、鏡の向こうから僕の顔を覗く。


「……あ、いや……」


 歯切れの悪い僕の言葉に彼女は戸惑いながらも、鏡をポケットに押し込み、持っている食べ物を僕に渡してきた。


「食べる?何があったかわからないけど、落ち着くかもよ」


「いや……」


 何の気なしに渡された食べ物を見つめ、少し考える。

 落ち着くだろうか......今の一瞬だけでも、忘れられるだろうか……。

 僕はそんなことを考えながら、拒否しようとした手を引っ込め、それを受け取った。


「ありがとう……」


 礼を言って受け取った物を見つめる。

 受け取ったはいいが、食べる気にはならなかった。


「後で食べるよ」


「温かいうちに食べた方がおいしいよ」


 僕の言葉にエヴァはそう返答した。

 それはそうなのだが……僕は苦笑いでしか返せなかった。


「じゃ、学校行こうか!!」


 エヴァがそう話して、歩き出す。

 その背中を眺め、深呼吸をした後に僕も歩き出した。


 学校の門を潜り、玄関に入る。

 土足のまま校内に入った。

 依然心臓は激しく脈打ち、焦りを僕に伝えようとしている。


「人…….多いな」


 校内にはすでに人間、樹人(エルフ)褐樹人(ダークエルフ)蜥蜴人(リザードマン)獣人(アニマ)鍛人(ドワーフ)など、多種多様な種族が行き交っていた。


 予知夢と同じように、廊下の端から端まで、人で溢れかえっている。

 

「実技試験の影響か……別の問題が……」


 予知夢の中の僕は何も疑わずに受け入れていた……実際、祭りと試験が重なれば、人が一気に増えるのだが、こんなに増えることもない気がする。

 

 確証のない理論に任せることが、今の僕にできる最大限の抵抗のようにも感じた。


 僕は速足で教室に向かい、椅子に座る。

 少しだけ仮眠しよう……今はこの状況から目を背けたい。


 目を閉じた直後、実技試験の開始を知らせる金属音が校内に響き渡った。


 それと同時に、予知夢で出会った黒い蜥蜴人の事が頭をよぎる。

 伏せていた顔を上げ、窓の外を見つめる。


「……いるのか? もしかして」


 僕は椅子から立ち上がり、廊下に出た。

 そして、あの蜥蜴人と出会った場所まで歩いていく。

 エヴァは実技試験中だ。

 気にしなくていい……だから……。


 直後、声が響く。


「おう、ガキンチョ! 見ていくか!」


 狭い廊下で鎧を売る鍛人……。

 廊下の三分の一を塞ぎ、商売をしている。


 このオッサン……。予知夢でもいたよな?

 記憶が掘り起こされるように、徐々に鮮明になっていくのを感じながら鍛人の顔を見る。


「なんだい、ワシの顔に何かついとるかの?」


「いや……僕たち、前にどこかでお会いしましたか?」


 僕の言葉に、鍛人は首を傾げ、長い髭をさする。


「いんや、顧客の顔は覚えちょる。お前さんは初対面じゃな」


「です……よね、人違いでした」


 僕の返答に、鍛人はため息を漏らし、売られている武具に視線を移す。


「なんか買って…….」


 鍛人が何かを話そうとした直後だった。

 人混みの中から声が響く。


「獣人はまた盗品を扱っているのかい!?」


「扱ってねぇ! お前ら褐樹人だって、他者から略奪した過去の遺物を用いて発展した種族だろうが!」


 怒鳴り声が廊下に響き、鍛人は武具からそちらに視線を映してため息を漏らした。


「また褐樹人か……」


「また……褐樹人.……」


 夢の中で聞いた言葉に、僕は繰り返し言葉に出していた。

 違和感、既視感、すべてが混ざったような感覚……気味の悪い感覚に、心臓が脈打つ。


 直後、重い足音が僕の耳に入る。

 来た……。


 僕はあたりを見渡し、目的の者を探す。

 そして、見つけた。


「黒い鱗の……蜥蜴人」


 僕の言葉に、蜥蜴人はこちらを睨む。

 喧騒が絶えない廊下……蜥蜴人特有の、色彩豊かな瞳は、確かに僕を見つめていた。

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