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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第九章:境界線

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Episode:13 一線

 シェラは尋問を続け、シェラの後ろでディジーはただ眺める。

 事の顛末を聞くためか、シェラが得た情報をディジーが繋ぎ合わせるためか。

 僕は家屋の壁に身体を預けながらため息を漏らすティリアを見つめた。


「シェラ、ディジー、ここはお任せしていいですか? ティリアの元に行きます」


 僕がそう話すと、シェラとディジーは僕を見つめた後、ティリアに視線を向ける。

 そして、ディジーはゆっくりと口を開いた。


「ルイン? ちょっとこっち、いいかい。シェラ、少し任せるよ」


 ディジーは、シェラとティリアから少し離れ、僕を呼ぶ。

 

「わかった、任せとけ」


 シェラは男の胸ぐらを掴み、そう話す。

 僕はその返事を聞いて、小さくなっていくディジーの背中を追った。


「どうしましたか」


「アンタに、ティリアを救えるのかい」


 ディジーは家屋に背を預け、腕を組みながらそう話した。


「――はい?」


 突如言われたその言葉に、僕は眉を歪める。


「ティリアを救えるのかいって話してるんだ」


「それはどういう――」


 僕が質問の意図を理解していないと気がつくと、ディジーは頭を掻いた。

 長く綺麗な銀髪の髪が揺れる。


「ティリアは今、かなり危うい状況にいる。母親を助けたい気持ちが先走って、暴走状態だ。仲間ってのは支え合っていくもの。そこに対しては大いに同意するが、支え合うってのはつまり、理解し合うって事だ」


 ディジーはそう話しながら、僕と、僕の遥か後ろで休んでいるティリアを見つめる。


「そんなことはわかっています」


「なら、なぜティリアは暴走していると思うんだい?」


「え、それは、母親を助けたい……」


 ディジーの質問に、僕が答えると、全てを話す前にディジーはため息を漏らして首を振った。


「違う」


 ディジーはそう話して、僕を睨んだ。


「――何が」


「信頼だ。ティリアが今、真に求めているのは、母親じゃない。情報じゃない。背中を預け、共に戦える者、アタシたちからティリアに、ティリアからアタシたちに対する、信頼の一個だけなんだよ」


 ディジーはそう話す。

 僕は眉を歪め、ティリアに視線を移す。


「信頼……」


「あぁ。さっきの、暴走。ティリアは、アタシたちを信じていない、冒険者としても、仲間としても……だからこそ、シェラが尋問中に首を突っ込んで、短剣なんか使って見せたんだよ。ティリアは、ティリア自身を信じてはいるが、アタシたちのことは眼中にない」


 ディジーはそう話しながらため息を深く漏らした。


「仲間を救いたいなら、仲間を信じて、仲間に信じられる存在になるんだ、それが一歩だよ」


 ディジーはそう話して、家屋から背中を離す。

 そしてシェラの元へ歩き出した。


「いい結果を期待しているよ」


 ディジーはそう言って、右手をヒラヒラと振りながら去っていく。


「吐いたかい?」


「いんや、かなりしぶといわ。もう殺して、探しにきた仲間から情報聞き出すか?」


 ディジーの言葉に、シェラは疲れたように話した。

 何やら物騒な話を耳にしたが、気にせずにティリアの元に向かう。


 ティリアは、家屋の壁に背を預け、ただ俯いていた。


「大丈夫ですか?」


 僕のその声に、ティリアはゆっくりと顔をあげる。

 その瞳は、自責と焦りが募っていた。


「ごめんニャ」


「いや、いいですよ、焦りますよね」


 僕のその言葉に、ティリアは目を見開く。


「怒らないのかニャ……?」


「んー、怒るというか……。大切な人を失う気持ちは、僕にもわかります」


 そう答える僕を見ながら、ティリアは鼻で笑う。


「まだ若いのにかニャ」


「はい、まだ若いのに……。です、横、いいですか?」


 僕の言葉に、ティリアはゆっくりと頷いた。

 それを見て、僕はティリアの右側に立つ。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「再配置は、仲間の死をたくさん見ます。あそこで尋問しているシェラとディジーの死体を、何回も見てます。その度に、他にはどんな手段があるのか、突破するために足りないものは何かを考えるんです。再配置の原因がなくなり、それを突き止めるまでは、これを繰り返すと思います」


 僕の話に、ティリアは目を見開き、僕を見て、顔を俯かせた。


「ははは……つらいニェ」


 ティリアは力無くそう呟く。

 僕はそんな姿を見ながら、息を漏らした。


「ですね。だから、助けます」


 僕がそう話すとティリアはゆっくりと顔を上げ、僕の顔を見つめた。


「全然吐かないけど……」


「ティリアがやった傷口炙るかい?」


 尋問をしているシェラとディジーはかなり手を焼いているようだった。


「あんな感じですが、シェラは最初から僕を信じてくれてました。命を賭けることに躊躇がなく。初めて死んだ時も、僕を助けようとして、巻き添えになりました」


 僕は過去の、不死隊(スタッパー)との戦いを話す。

 その話を、ティリアは真剣に聞いていた。


「ディジーも、初めは疑いつつも、子供を助けるのは義務だと、そう言ってここまで来てくれました。彼女もまた、僕を庇って死んだことがあります。ここにいる人は、誰かのために死ねる者達です」


 そう話すと、ティリアはシェラとディジーに視線を移し、真剣な眼差しを向けた。


「だから、今回だけで構いません。僕たちを、信じてくれませんか?」


 僕はティリアを見つめ、そう話す。

 ティリアは僕を見つめ、喉を鳴らした。

 

「わかったニャ」


 そう話したティリアの目には、危うい揺れはない。


「魔具出すかい?」


「魔具? 甘い、魔剣でいいんじゃね?」


 シェラとディジーの声が聞こえ、僕は視線を向ける。

 彼らの話した内容に、男は顔を青ざめ、首を振る。

 魔剣の能力を知っているからこその反応。

 バルドの仲間なのは明らかだ。


「行きますか?」


「ニャ」


 僕とティリアは、ため息を漏らしながら、シェラとディジーに向かい、歩き始めた。

 一線を越えかけた彼女は今、僕の隣を確かに歩き始めた。

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