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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第九章:境界線

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Episode:12 決意

 路地裏を抜け、ただ歩く。

 ティリアは僕達に、ついてきて。ただそう言って歩いていく。

 その足取りに迷いはなく、目指す場所は明確になっていた。


「なぁ、どこいくんだ」


「いいから、ついてきてほしいニャ」


 シェラがそう話しても、ティリアはただ同じ回答をするばかり。

 どこを目指しているかなど、僕達には一切言わずにただ歩く。


 いずれ、綺麗な街並みから、暗い雰囲気の街並みに変化する。

 一目で理解した。

 それほど、顕著に違いが出ていた。


「地下街……」


 僕は小さく呟いた。

 横を歩くシェラは目を動かし、よく観察する。

 そして、ため息を漏らしながら口を開いた。


「――っつう事は、貧困地区か」


 そう話すシェラは舌打ちをして、視線をまっすぐ向ける。

 左右にある悲劇の連鎖を視界に入れないように、それだけが、今僕達ができる精一杯だった。


「で、なんでこんな場所に来たんだい」


 ディジーは涼しげな顔を変えないまま、ティリアに質問を投げかける。

 ディジーだけは、周りの景色から目を逸らさない。

 興味があるのか、知識として取り入れるためかは定かではないが、しっかり見るのは、役に立つと思ったのだろう。


「奴隷は、どこにいると思うニャ?」


 ティリアは、一言そう呟いた。

 その答えに、僕達はすぐに納得した。

 貧困地区の人間は、生き延びるために一番安定するのは、奴隷になる事だ。

 異常な奴に拾われる可能性を捨て去れば、比較的安全に生活ができるだろう。

 盗みを犯し、後ろ指を刺されながら、危険と隣り合わせで毎日生きるよりかは現実的だ。


「でも、そう簡単に情報が手に入るかね」


 ディジーはため息を漏らしてそう呟やくと、歩きながらティリアは僕達を見つめる。

 その瞳には、期待などなく、ただ冷たい闇が広がっているように見えた。


略奪者(ハーラッシュ)が奴隷を雇う事はしばしばあるニャ。仕事の手伝い、玩具、肉壁……。今回、シェラとティーちゃんとやり合って、仲間の数が減ったニャ。なら、高額な報酬をぶら下げて仲間を増やそうとするはず、すでに声がかかっている奴らもいるはずニャ」


 ティリアは淡々と、軽く話してみせた。

 何も気にしていない、そんな様子だ。

 だが、瞳の奥には隠しきれない怒りが渦巻く。

 僕はティリアから視線を外し、ただ前を見る。

 ティリアの顔は見れなかった。

 楽しそうに話す冒険者の見ては行けない一面を見てしまった気がしたからだ。


「――なぁ、仕事を探してねぇか?」


 貧困地区を歩いていると、そんな声が響いた。

 石畳だった上層とは違い、砂だけが地区に溢れる。

 街灯などなく、完全に吐き捨てられた場所。

 ゴミの溜まり場。

 その中に、異常なまでに身なりが整った男が、手足の細い住人に声をかけていた。


「――いた」


 ティリアはそう呟いた。

 直後、風が吹く。

 いや、吹いてはいない。

 ティリアの声に合わせ、シェラが走り出した衝撃だった。


「……シェラ?」


 僕は訳がわからないまま、無意識のうちに彼の名前を呼ぶ。

 視界に映る彼は、身なりの整った男を捕まえ、上に乗って殴りつけていた。


「――はぁ……」


 ディジーがため息を漏らした後、小走りでシェラに近づいていく。


「オメェら、どこから湧いて出てんだ。マジで」


 シェラは、男の胸ぐらを掴み、そう話す。

 殺気立っている。

 奴隷を雇ってまで、他者を殺し金品を奪う連中に、心底嫌気が差しているのだろう。


「なんなんだ、お前ら」


 男は困惑した表情で僕達を見つめる。

 僕はその男を見つめ、口を開く。


「えっと……坊主の、召喚魔術師を知っていますか?」


 僕の言葉に、男はあからさまに目を泳がせた後、首を小さく振った。


「し、知らない」


「吐いた方がオメェの身のためだぜ」


 首を振った男に、シェラはグイッと顔を近づけて話す。


「そいつ、どこにいる?」


 シェラの質問に、男はシェラから目を逸らした。

 直後、ティリアはシェラの腰に携えられた採取用の小さな短剣を勝手に抜き、男の左肩に突き刺した。


「――っぐ!」


「話さないなら、このまま捻るニャ」


 男は歯を食いしばり、額には汗が滲んだ。

 それでも、男は首を振る。

 男の左肩から鮮血が溢れ、地面に滴る。


「そうかニャ。仲間を売らない……立派だニャ」


 ティリアはそう話した直後、突き刺した短剣を握り直し、一回転捻った。

 傷口が無理やり開かれ、鮮血がさらに多く流れでる。


「――っぐあぁぁぁぁ」


 痛みにうめく男を見つめ、ティリアは短剣を捻り、捻じ込む。


「話せば、楽ニャ」


「黙れ、馬鹿野郎」


「なら、切り落とすニャ」


 虚勢を張る男の左肩から短剣を抜き、ティリアは短剣を高く掲げる。

 振り下ろして、左腕そのものを切り落とすつもりだ。

 そして、躊躇なく振り下ろした。


「ティリア!」


 僕の声に、ティリアの手が止まる。

 ティリアの横にいるシェラも、右手を彼女に伸ばしていた。


「やりすぎです」


 僕がそう話すと、ティリアが僕を睨む。

 その瞳には闇しか映っていない。


「コイツから情報を吐き出させるのが、今回の目的だろ、必要以上に痛めつける必要はない」


 シェラはティリアを睨みながらそう話す。

 初めに殴り始めたのはシェラだったが、彼は彼なりに線引きをしているのだろう。

 命を奪う選択を手軽に選んでしまうティリアに、多少の怒りを向ける。


「なら、早く聞くニャ」


「あっち行ってろ」


 シェラの言葉に、ティリアはため息を漏らして短剣を置く。

 シェラはため息を漏らしながら短剣を拾い上げ、腰に戻した。

 ゆっくりと立ち上がったティリアは、俯きながら離れていく。

 離れていく背中、その手は震えていて、焦りと怒りを表しているようだった。

 ティリアは顔を上げ、僕とディジーの顔を見ると少し肩をすくめ、力無く笑って見せる。


 僕は何も言わず、シェラと男を視界に収めた。

 ため息を漏らし、周りを見て、ティリアの顔を見つめる。

 その瞳には、覚悟と小さな葛藤が渦巻く。

 母親を助けたい、その気持ちが先走り、危ない橋を渡ろうとしている仲間を、僕はただ見つめ、小さく舌打ちをした。

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