Episode:11 理由
細い路地に入り、壁に体重を預けながらため息を漏らす。
シェラは、鮮やかな瞳を動かし、俯いたままのティリアを睨んだ。
「説明しろよ」
シェラは息を整え、ティリアにそう話した。
流石は近接職。
体力の回復が早いのか、それとも多いのか。
「ティリア、説明を」
僕はティリアを見つめ、そう話す。
ディジーは路地の入り口を見つめ、常に衛兵を警戒していた。
「説明も何も、あれは、母親ニャ」
ティリアは眉を歪めてそう話した。
桃色の尻尾が左右にゆっくりと揺れる。
耳は折れ曲がり、長いまつ毛が瞬きを繰り返す。
「母親って確証はねぇだろ……」
シェラはそう話す。
そう、確証はない。
ティリアの話が本当だとしても、僕たちからしたら骨格もわからないほどの外套を身に纏った人物をティリアの母親と断定するのは危険すぎる。
指先どころか、毛の一本も見えなかった。
声が聞こえて初めて性別がわかったくらいだ。
シェラはため息を漏らし、ディジーを見つめ、ティリアに視線を戻す。
シェラは落ち着かず、頭を掻き、ため息を繰り返し、口を開いた。
「ティリア、オメェの言うことに確証が持てない。別に意地悪がしてぇんじゃねぇんだよ。でもな、オメェ一人の確信だけで、根拠のない特定で、俺様はルインと、ディジー、オメェを危険に晒すわけには行かねぇんだ。ルインの判断が、さっきは異様に遅かった。なら、この場所、またはあの展開は初めてだって推測ができる」
シェラはそう話しながら、僕を見つめた。
どうする。
そんな顔だ。
この一行を率いる僕に、シェラは選択を迫っている。
「確証はない……ですもんね」
僕はそう小さく呟く。
気持ちを優先するなら、仲間であるティリアの言葉を信じ、助けてあげたい。
だが、冷静になった今、確証がなく、納得できる根拠すらないティリアの言葉を、信じ動く危険性が脳に染み渡る。
ティリアは僕に視線を向けながら、尻尾をゆっくり揺らす。
葛藤。
仲間を危険に晒した責任、母親を助けたいと先走りそうな気持ち、それらが混ざり合い、顔には葛藤が滲み出る。
「ティリアは、どうしたいですか?」
僕がそう話すと、ティリアは目を見開いた。
桃色の瞳が輝き、潤む。
その表情はわかりやすく、聞かなくても何を言い出すかは理解できた。
「お母様を、助けたいニャ」
ティリアははっきりと言って見せた。
母親を助けたい。
生きていたのだ。
攫われ、殺されたと思っていたか。
ティリアの話通り、奴隷として他国に売られ続ける生活を強いられていたかは定かではない。
その言葉を聞いて、僕は考え込む。
初めからわかっていた。
答えは一つしかない。
僕は目を閉じ、深呼吸をする。
「どうすんだ、ルイン」
シェラがそう話す。
直後、軽い靴の音と共に、ディジーの声が響いた。
「助けるのは構わない……。でもね、雇われているって可能性もある。主の命令で仕事をしているのか、自分の意思で、アンタの母親が略奪者に加担してる事も頭に入れておかなきゃならないよ」
見張りを終え、追手がないと感じたディジーは、いつしか戻ってきていた。
話すことに違和感はない。
むしろ正しいことを言っている。
冷たくも感じるが、冒険者の世界はそういう物なのだろう。
「それでも、ティーちゃんは……」
そう話しながら、肩を震わせるティリア。
その光景を見て、シェラとディジーはため息を漏らし、優しく笑った。
「やっと会えたんだニャ。もう、逃げたくないニャ」
ティリアはそう話しながら僕達を見つめる。
その眼差しには覚悟が宿る。
その表情に、シェラは口を開いた。
「もし、オメェの母親が完全に悪人なら、俺様はその場で斬るぞ」
シェラはそう話しながらティリアを睨む。
その表情にはすでに殺意が滲んでいて、忠告でもあった。
「もし、そこでもオメェが母親を守るなんか甘ぇこと考えてるなら……ルインとディジー、他の奴らを守るために、ティリア……オメェごと殺すからな」
シェラのその言葉に、場が静まり返る。
それは彼にとっての覚悟と、仲間を守るための手段であり、敵味方を分ける境界線だった。
彼は強い、仲間だった者を斬る能力と、覚悟がある。
「――わかったニャ」
シェラの言葉に、ティリアは意外とあっさり承諾した。
だが、その表情には、信念と覚悟が渦巻く。
お互い、譲れない物のために、仲間を屠る覚悟を決めた。
「何から始める? 逃がしちまったからな、探すところからだ」
シェラは腕を組みながらそう話す。
逃げられた。
探す術がない。
「ティーちゃんに任せてほしいニャ」
ティリアはそう言って腰に手を当てる。
その表情は、過去を悔やむ女のものではない。
一度無くしたと思った物を取り戻すために戦う、冒険者の表情だった。




