Episode:9 乱闘
足音が響き、シェラとティリアが一歩前に出る。
酒場の明かりが艶やかに、黒い鱗を照らし、桃色の毛が揺れた。
「やるぜぇぇ!」
シェラは大曲剣を持つ両腕を広げ、ドタドタと足音を響かせながら走り出した。
「やってやるニャ」
ティリアは一言小さく呟き、短剣を抜く。
赤黒い刀身が顔を見せ、戦闘を行う人間を見つめた。
ディスピルの毒と腐敗の魔剣。
ティリアの持つ短剣は魔剣だった。
ディスピルと言う魔物の素材から製錬された赤黒い刀身は、小さな傷から死を導く。
ティリアは走り出し、乱闘の中、人との間を縫うように走り出した。
僕の視界には、坊主で、筋肉が発達した略奪者が立つ。
彼は僕と、ディジーを交互に見つめ不適な笑みを浮かべた。
「召喚魔術師……武器に特化……魔剣士ってところかい」
ディジーは歯を食いしばり、坊主の略奪者の顔を伺う。
両腕に集められた魔力の粒子は、ゆっくりと形を成して二本の直剣を生成する。
キンッ
直後だった。
僕の背後にいたディジーの声が、酒場内に大きく響く。
――ヴェルーデ。
ディジーの詠唱が響いた直後、木造の床を蹴る音と共に、坊主の略奪者が走り出した。
驚異的な瞬発力。
初めからひどく距離が空いていた訳ではないが、それでも、彼は一瞬にして僕を攻撃範囲に収めた。
「――っな!」
両側から迫る銀色の刃。
高さは首元に固定され、なんとしてでも捻じ切る自信があるのだろう。
身体の大きさに似合わない速度、その速度に合わせた剣捌き。
これが、この略奪者の戦い方だった。
僕は、瞬間的に姿勢を低くする。
しゃがみ、的をずらした。
頭上を二本の直剣が通り過ぎ、風を切る音が耳を掠める。
僕の視界は、それでも男を捉えていた。
男は両手を振り上げ、叩き切るように振り下ろす。
ピッタリと合わさった刀身、先ほどより範囲が狭く、回避は容易だと思われた。
振り下ろされた直後、床にも、いや僕に到達する前に直剣が砕け、魔力の粒子が鮮やかに散らばる。
そして、一瞬にして一点に集中し、大槌を形成した。
「――おらぁぁぁぁぁ!!」
「エルナ・フィルト!!」
振り下ろされた大槌を回避するため、僕は左腕を広げ、左側の何もない壁に向け、風魔術を行使する。
放たれる瞬間に発せられる圧が、身体を逆方向に押し流した。
飛んだ身体は狙い通り大槌を回避し、身体は床を転がる。
ガリガリと床に爪を立て、立ち上がり、自身が立っていた場所を見つめると、すでに大槌で粉々に砕かれていた。
「よっしゃ! もらい!」
背後から声が響き、僕は視線を少しだけ背後に向け、標的を捉える。
捉えたのは剣士。
それも、戦い慣れていない素人に見えた。
右手には直剣、その右腕を大きく掲げ、大振りな攻撃。
僕は、姿勢を低く、左に数本歩き、剣士の脇腹に拳を打ち込み、顔の近くに右手を向ける。
「トラクト・フィルト」
僕は、小さく詠唱した。
瞬間的に右手のひらに拳ほどの石が生成され、射出後、剣士の顎先を叩いて意識を奪った。
坊主の略奪者は、僕の戦い方を見て、目を瞬かせる。
直後、ニヤリと笑った。
「おいおい、その戦闘力、危機を察知する直感力、格闘と織り交ぜ魔術を扱う対応力。そんなに持って、冒険者ですらねぇって、マジかよ」
略奪者は僕を見てそう話した。
僕は略奪者を睨み、近くの卓にあった瓶に入ったままの水を飲み干し、首を傾げた。
「――っあぁぁ。大マジです」
僕は瓶を略奪者に向かって投げつける。
彼は、持ち前の身体能力でそれを回避した。
だが、それこそが僕の狙いでもあった。
――ジータ・エルキス。
ディジーの詠唱が終わる。
直後、酒場の屋根を破壊しながら、雷鳴が轟き二百以上の体長を持つ金色の騎士が三体姿を現した。
捻れた角は竜を彷彿とさせ、鎧に埋め込まれた宝石は地位を体現する。
「今回は、最初から使わせてもらうよ!」
ディジーがそう話した瞬間、短剣を持つ金騎士が姿を消す。
圧倒的な速度、これが金騎士の一番の能力と言っても過言ではない。
金色の雷光が略奪者達の間を縫いながら、体を切り裂いていく。
残りの二体は……。
「やれ!」
ディジーの合図と共に、大槌を持つ金騎士が走り出した。
坊主の略奪者は大槌から一瞬にして二本の直剣に切り替える。
金騎士は大槌を床に擦りつけながらの突進。
そして、近づいて身体を捻った。
床を抉りながら大槌が舞い、遠心力が乗っかる。
横からの叩きつけ……誰もがそう考えた。
坊主の略奪者は直剣を左手半身に密着させ、直撃を免れようとする。
足先はすでに浮いていて、身体を飛ばすことで衝撃を逃すことだけに集中していた。
そして、金騎士の大槌が振るわれると思った直後、金騎士は再度身体を捻り、大槌の頭はさらに床を、地面を抉った。
直後に轟音が響き、建物が軋む。
下からのかち上げ。
最初からその技を出すつもりだったのか、途中で切り替えたのかは不明だが、それは確実に命中したと、そう考えていた。
「――っっぐ!!」
坊主の略奪者は宙を舞う。
直剣は大槌のかち上げを防ぎ、身体が真っ直ぐ上に飛んでいた。
防いだのだ。あの一瞬を。
雷鳴が轟き、三体目が一瞬にして動く。
雷光は一瞬にして坊主の略奪者と同じ高さに登り、顕現する。
大槍を構え、穿つ体制。
いつでも貫けた。
ブォンッ
風を切る。
いや、風よりもっと大きい、空間から両断するような音が響き、大槍が放たれた。
金色の光が瞬き、直後に轟音が響く。
坊主の略奪者は槍に押され、床に到達、土煙と埃が混じった煙幕を上げながら、酒場の壁を破壊した。
「なんだ……?」
「誰が衛兵呼べ!」
酒場の壊れた壁から、外の声が耳に入る。
金騎士二体による猛攻。
あれを防ぎ切れるわけがない。
僕は、そう感じていた。
ディジーは外套から、バルドが持っていた魔剣を取り出す。
セル・ゴロンの強振の双斧。
静まり返った酒場、瓦礫を踏み、ディジーは壊れた壁から外に出た。
僕もすぐに追いかけ、外に出る。
そこには、金騎士の槍を受け止め、それでもなお立っている坊主の略奪者がいた。
無傷とは行かないが、まだ余力はあるように見える。
「――ダメか」
「――っち」
ディジーの言葉と、僕の舌打ちが交差する。
同時に発せられたそれに、ディジーと目が合った。
「やれるかい、ルイン」
「もちろんです」
ディジーの言葉に僕は頷き、深呼吸をする。
直後、二人の横に雷光が落ちた。
「アタシ達には騎士がいる。好きに暴れな。荒い部分は、その子が護ってくれるよ」
ディジーはそう呟いた。
僕は、横にいる金騎士を見上げる。
そして、坊主の略奪者に視線を向け、睨んだ。
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鬼子です!
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