Episode:8 直感
酒場の扉を開け、中に入る。
団欒とした声が響き、肉の焼ける音と、胡椒の香りが体を撫でた。
直後、酒場中の視線が僕たちに刺さり、静寂をもたらした。
「おい、見ろよ」
誰かがそう漏らす。
やはり、人間と異種族の一行は珍しいようだ。
「蜥蜴人だ、デケェな」
「後ろにいる褐樹人と、獣人も上玉じゃん」
そう話す声が響いた。
「全員敵に見えてきたニャ」
ティリアが小さく呟いた。
僕たち以外には、聞こえていない。
シェラは視線を巡らせ、バルドの仲間らしき人物を探す。
だが、その鋭い目つきは、次第に動かなくなり、眉間に皺が寄った。
「どうですか?」
僕がそう呟くと、シェラは小さく首を振る。
「それらしいのは、いねぇな。つか、全員怪しい」
シェラは舌打ちをして、そう呟く。
「取り敢えず飯食うぞ。座らないまま、ただ見渡すんじゃ怪し過ぎる」
シェラはそう話して、ゆっくりと歩き出した。
一番奥の空いた卓に座り、周りを見る。
以前とは座る場所が違うが、ここからの方がよく見える。
「なぁ」
直後、男の声が響いた。
だが、前回の男ではない。
絡んできた男は、まだ来ていないのか、この刻にはいなかった。
「なんですか?」
「いや、そこの、褐樹人の姉ちゃんに用がある」
僕の言葉に、坊主の男は首を振り、腕を組みながらディジーを顎でしゃくってみせた。
両腕は筋肉が発達している。
武器は大きな武器、大剣、大槌……どちらにしても、強力な物にはなる。
だが、丸腰に見えるのはなぜ……。
「アタシに用? 何かあるのかい?」
ディジーはそう答えた。
その言葉に、男は腕を解き、卓に両手を乗せ体重をかける。
「アンタ、変わった魔力してんだな」
男はそう話す。
目つきが変わり、ディジーの体を舐めるように見ていた。
「魔術師か?」
男の声に、ディジーはため息を漏らして男を睨む。
「教える義理はないよ。しつこいね」
ディジーの発したその言葉に、男の表情が一瞬だけ歪んだ。
「いいじゃねぇか。教えてくれれば消えるからよ」
男はそう話す。
シェラは男を睨み、腕を組む。
そして、ため息を漏らしていた……。
だが、そんなことは気にせずに、男は粘っていた。
「頼むよぉ」
何度目かの懇願。
両手を合わせ、神に願いを乞うように手を擦り合わせていた。
「はぁ……。なら、教えたら消えとくれよ」
「あぁ! 約束だ!」
そう話した男。
口元が弛み、笑みが溢れていたが……。
どこか違和感のある笑顔で、純粋な喜びとは少し違って見えた。
だが、これに気がついているのは僕だけで、シェラやティリアは憤りを隠そうと、ため息を漏らす。
「アタシは……。――召喚魔術師だ」
「――召喚魔術師! そうか、そうか! なら……」
ディジーの返答に、男は両腕を広げ天井を見つめる。
歓喜。
それが、最初に受けた印象だった。
そして、男はゆっくりと視線を下げ、僕たちを見つめる。
「俺も、召喚魔術師なんだ」
直後、男が広げた両腕に魔力粒子が集まり始める。
「――シェラ!」
僕の声に、シェラは卓を蹴り上げた。
縦に回転しながら卓は飛ぶ、僕はそれに身を隠すように回り、静かに唱えた。
「――エルナ・フィルト」
圧縮された空気が手のひらから放たれ、卓と共に男を押し戻す。
だが、数歩押し戻しただけで、卓は弾かれた。
「――っち!」
僕は舌打ちをこぼし、男を睨む。
「召喚に特化した魔術師ってのは珍しいよな? 褐樹人、俺も召喚に特化してんだ。まぁ、エルキスの召喚は出来ねぇから、武器を作り出す召喚魔術師だけどな」
男がそう言った直後、他の卓に座っていた者達も立ち上がる。
木杯を床に叩きつけ、椅子を蹴り飛ばし、殺気を放って僕たちを睨んだ。
それを確認した後、シェラは一歩前に出て、背中から大曲剣を二本、ゆっくりと抜く。
「なぁーるほどねぇ? 全員怪しいって俺様の勘は間違っちゃいないわけだぁ? 酒場にいる奴ら全員敵……もしかして、酒場そのものがオメェらの基地だったりしてなぁ?」
シェラはニヤリと笑いながら話す。
彼の問いかけに答えるものはいない。
それこそが、シェラの疑問を正しいとする答えとなる。
「ゴミが」
シェラが一言呟くと、金属が擦れる音と共に、略奪者達が武器を抜く。
そして……。
「皆殺しにしろ!」
その合図と共に、無数の足音が響き、建物が揺れた。




