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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第九章:境界線

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Episode:8 直感

 酒場の扉を開け、中に入る。

 団欒とした声が響き、肉の焼ける音と、胡椒の香りが体を撫でた。

 直後、酒場中の視線が僕たちに刺さり、静寂をもたらした。


「おい、見ろよ」


 誰かがそう漏らす。

 やはり、人間と異種族の一行は珍しいようだ。


蜥蜴人(リザードマン)だ、デケェな」


「後ろにいる褐樹人(ダークエルフ)と、獣人(アニマ)も上玉じゃん」


 そう話す声が響いた。


「全員敵に見えてきたニャ」


 ティリアが小さく呟いた。

 僕たち以外には、聞こえていない。

 シェラは視線を巡らせ、バルドの仲間らしき人物を探す。

 だが、その鋭い目つきは、次第に動かなくなり、眉間に皺が寄った。


「どうですか?」


 僕がそう呟くと、シェラは小さく首を振る。


「それらしいのは、いねぇな。つか、全員怪しい」


 シェラは舌打ちをして、そう呟く。


「取り敢えず飯食うぞ。座らないまま、ただ見渡すんじゃ怪し過ぎる」


 シェラはそう話して、ゆっくりと歩き出した。

 一番奥の空いた卓に座り、周りを見る。

 以前とは座る場所が違うが、ここからの方がよく見える。


「なぁ」


 直後、男の声が響いた。

 だが、前回の男ではない。

 絡んできた男は、まだ来ていないのか、この刻にはいなかった。


「なんですか?」


「いや、そこの、褐樹人の姉ちゃんに用がある」


 僕の言葉に、坊主の男は首を振り、腕を組みながらディジーを顎でしゃくってみせた。

 

 両腕は筋肉が発達している。

 武器は大きな武器、大剣、大槌……どちらにしても、強力な物にはなる。

 だが、丸腰に見えるのはなぜ……。


「アタシに用? 何かあるのかい?」


 ディジーはそう答えた。

 その言葉に、男は腕を解き、卓に両手を乗せ体重をかける。


「アンタ、変わった魔力してんだな」


 男はそう話す。

 目つきが変わり、ディジーの体を舐めるように見ていた。


「魔術師か?」


 男の声に、ディジーはため息を漏らして男を睨む。


「教える義理はないよ。しつこいね」


 ディジーの発したその言葉に、男の表情が一瞬だけ歪んだ。


「いいじゃねぇか。教えてくれれば消えるからよ」


 男はそう話す。

 シェラは男を睨み、腕を組む。

 そして、ため息を漏らしていた……。

 だが、そんなことは気にせずに、男は粘っていた。


「頼むよぉ」


 何度目かの懇願。

 両手を合わせ、神に願いを乞うように手を擦り合わせていた。


「はぁ……。なら、教えたら消えとくれよ」


「あぁ! 約束だ!」


 そう話した男。

 口元が弛み、笑みが溢れていたが……。

 どこか違和感のある笑顔で、純粋な喜びとは少し違って見えた。

 だが、これに気がついているのは僕だけで、シェラやティリアは憤りを隠そうと、ため息を漏らす。


「アタシは……。――召喚魔術師だ」


「――召喚魔術師! そうか、そうか! なら……」


 ディジーの返答に、男は両腕を広げ天井を見つめる。

 歓喜。

 それが、最初に受けた印象だった。


 そして、男はゆっくりと視線を下げ、僕たちを見つめる。


「俺も、召喚魔術師なんだ」


 直後、男が広げた両腕に魔力粒子が集まり始める。


「――シェラ!」


 僕の声に、シェラは卓を蹴り上げた。

 縦に回転しながら卓は飛ぶ、僕はそれに身を隠すように回り、静かに唱えた。


「――エルナ(風よ)フィルト(射出せよ)


 圧縮された空気が手のひらから放たれ、卓と共に男を押し戻す。

 だが、数歩押し戻しただけで、卓は弾かれた。


「――っち!」


 僕は舌打ちをこぼし、男を睨む。


「召喚に特化した魔術師ってのは珍しいよな? 褐樹人、俺も召喚に特化してんだ。まぁ、エルキス(騎士共)の召喚は出来ねぇから、武器を作り出す召喚魔術師だけどな」


 男がそう言った直後、他の卓に座っていた者達も立ち上がる。

 木杯を床に叩きつけ、椅子を蹴り飛ばし、殺気を放って僕たちを睨んだ。

 それを確認した後、シェラは一歩前に出て、背中から大曲剣を二本、ゆっくりと抜く。


「なぁーるほどねぇ? 全員怪しいって俺様の勘は間違っちゃいないわけだぁ? 酒場にいる奴ら全員敵……もしかして、酒場そのものがオメェらの基地だったりしてなぁ?」


 シェラはニヤリと笑いながら話す。

 彼の問いかけに答えるものはいない。

 それこそが、シェラの疑問を正しいとする答えとなる。


「ゴミが」


 シェラが一言呟くと、金属が擦れる音と共に、略奪者(ハーラッシュ)達が武器を抜く。

 そして……。


「皆殺しにしろ!」


 その合図と共に、無数の足音が響き、建物が揺れた。

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