Episode:6 あの場所へ
王都に着き、エヴァを見つめる。
「ルイン?」
「エヴァ、早く行こう。用を思い出した」
僕はそう言って、エヴァの手を取って歩き出す。
「――え」
エヴァは少し照れた様子で後をついてきた。
彼女にとっては初めてだろう。
だが、僕にとっては、何回か繰り返した内の一回になっていた。
「まだ、ルインの出番には早くない?」
エヴァは抵抗しないながらも、そう話す。
握った手に力が入り、戸惑いを伝えた。
「僕が用事あるんだ」
「な、なるほど」
僕の答えに、エヴァは曖昧に返事にをする。
その声は震え、事態を理解するために頭を使っているように見える。
土足のまま校舎にはいり、エヴァと別れる。
「また後でね」
「僕を見つけられなかったら、そのまま帰っていいから。僕の親には心配しないでって伝えておいてくれると助かるな」
「えー、なにそれー」
エヴァは眉を歪め、そう話す。
僕が言ったことを、なんでそんなことを。と、そう言いたげな顔で僕を見つめるが、それ以上は言わなかった。
小さく手を振り、それぞれの道に歩き出す。
僕は、三日目を目指した。
階段を上がり、廊下の隅に向かう。
壁に体重を預け、深呼吸した。
「ふぅー」
息を吐くと同時に、全身から魔力を溢れさせる。
シェラが、ディジーが気がつけば良い。
だが、これにも一つの確信がある。
アーガスを守れなかったシェラは、次こそはと強者を探している。
初めてシェラと会った時、彼は僕の魔力は臭く重いと話した。
誘われないはずがない。
「ここかぁ?」
シェラは視界の端、近くの通路から体を出した。
「――え?」
予想外。
いつもなら、喧嘩の仲裁をしているシェラに声をかけていたが、魔力で誘い出した場合、想定していない動きをシェラがするのは、考えればわかることだった。
爬虫類特有の色彩豊かな瞳が僕を睨み、瞳孔が刃のように鋭く細くなる。
「オメェ、匂うなぁ」
シェラの顔が眼前に迫り、鼻息が顔にかかる。
そんなシェラに僕はため息を漏らし、合言葉を話した。
「エリクト」
僕の発したその言葉に、シェラは身を引き、眉を歪める。
「名前は?」
「ルインです。なんか、話には聞いていましたが、本当に魔力の匂いに誘われるんですね」
僕がそう話すと、シェラは僕を睨み、ゆっくりと口を開いた。
「気づいてねぇのか? オメェの魔力は、普通のとはチゲェ。長年熟成、発酵させたような、体に重くのしかかる歪な匂いだ。そこまで眠らせた魔力は、魔術は、さぞ強力なんだろうな」
シェラはそう言ってニヤリと笑った。
そう話す彼をみて、僕は少しだけ肩の力が抜けた。
「そうですね」
「じゃあ、行くか」
「あ、ちょっと待って」
そう言って、僕はディジーとティリアのことを話した。
そうして、迎えた二日目。
魔術都市ニフニルにて……。
「酒場だろ? なら食事に毒?」
「遅効性の毒ならあり得るが……眠ったまま死ねる毒は現状存在しないよ」
シェラが話した言葉に、ディジーが答えた。
銀髪の髪が揺れ動き、紫色の瞳が僕を見つめる。
「ティリアはどう思いますか?」
僕はティリアに視線を移し、ゆっくりと問いかける。
「ニャッ……。万が一、ディジーの話す毒があったとしても、獣人の鼻は騙せないニャ。また別の方法じゃニャいかニャ」
ティリアはそう言って、僕から視線を外す。
その瞳はあらゆる家屋を見つめ、ため息を漏らした。
「どうしました?」
桃色の髪が揺れ、耳がパタパタと動く。
桃色の瞳は些細な物でも見逃さないと、瞳孔を開き情報を集めていた。
「いニャ……どこのお家も侵入しやすそうニャ」
そう話した時、場の空気が少しだけ重くなる。
「でも、木造の宿は木が軋んでいました。流石に気づきますよ」
「魔術で音を消していても気づけるのかニャ?」
僕の言葉に、ティリアはそう話した。
確かに、魔術が関与しているならひっくり返る推論だ。
僕はディジーに視線を送る。
その視線に気がついたディジーは、小さくうなづいていた。
音を消す魔術は存在する。
斥候に、消音の魔術。
だとしたら、敵は一人じゃない……?
僕は、周囲に目を向けながら、深呼吸をした。




