Episode:4 おはよう
腹ごしらえを済ませ、椅子から腰を上げる。
「はぁ……食った食った」
シェラはそう話し、腹をさすった。
その姿を見ながら、ディジーは木杯を傾けた。
「もう食ったのかい? せわしない男だね」
そう話し、ディジーは僕を見つめた。
「食ったら行くよ、そこの蜥蜴人は、もう待てないみたいだしね」
ディジーのそんな言葉を聞きながら、僕は最後の肉を口に押し込んだ。
「いきまふぉう」
そう言って、僕は木杯に入った水を飲みほした。
扉を開け、外に出ると、空は赤くなっていた。
そんなに刻が進んだとは思えなかったが……。
「宿を探すよ。このくらいの刻なら、まだすぐに見つかるはずだよ」
そう言って、ディジーは先に歩き出す。
「黒曜金級は、歩き出すのが早いニャ」
そう言いながら僕の隣に立ったティリアは、酒場を出た後も、骨付き肉にかぶりついていた。
「宿に着く前に食べ終えてくださいね?」
「頑張るニャ……」
そう言って、肉をかみ切る。
僕はため息を漏らし、シェラとディジーの後を追った。
しばらく歩いて、ディジーが立ち止まる。
「どうしました?」
「いや、明日の買い出しをまだしてなかったね」
「あー……」
ディジーの言葉に、僕は声を漏らした。
すっかり忘れていたのだ。
「どうしますか?」
僕はそう話すと、ディジーは少し考え、ため息を漏らした。
「シェラ、ティリア、宿を探しておいてもらえるかい? アタシとルインで、明日の準備をするさね」
ディジーがそう話すと、シェラとティリアは頷いた。
「……女と子供で大丈夫か? 食糧とか買い込むと、かなり重ぇだろ」
シェラはそう言って、僕とディジーを交互に見る。
「逆で行こうぜ、俺様とティリアで買い出しに行く。ディジーとルインで宿を探してくれや……。黒曜金級の方が、宿代の交渉とかうまく行くだろ、オメェは理知的だしな」
シェラはそう話し、すでにティリアの服を掴み、引きずって歩いていた。
「……。乱暴だけど、根は優しい男だね」
そう言って、ディジーは歩き出した。
数歩進んだ後、振り向き、僕を見つめる。
「ルイン、早く行くよ」
「あ、はい」
ディジーに呼ばれ、僕は走り出す。
横に並んで歩けば、彼女は自然と歩幅を合わせてくれた。
「休息は大事だ。昨日は野営だったし、今日くらいはゆっくり休みたいものだよ」
ディジーはそう話しながら、視線を巡らせる。
話しながらも、意識は宿探しに向いているらしい。
「どんな宿がいいんですか?」
「見た目でおおよそわかるけど……アタシは直感を信じるよ」
僕の質問にそう答えたディジー、そんな答えを出したディジーを、僕は見つめた。
「意外ですね。ディジーは直感は信じないのだと、そう思っていました」
「まさか、常に考えていたら疲れちゃうだろう? 安全なとこにいる間くらいは、頭を使わずにゆっくりしたいよ」
ディジーは笑いながらそう話した。
しばらくすれば、宿を見つけ、ディジーは受付を済ませる。
「いい宿を見つけたんじゃないかい?」
そう話しながら、ディジーは頷いていた。
木造で、よくある宿。
階段を登るたびに軋むが、不思議と安心できる。
「シェラ達を迎えに行こうか」
そう言って、僕たちは都市の中心にある広場を目指した。
しばらくすると、広場の中心にある噴水前にたどり着く。
そこには、すでにシェラとティリアが荷物を持って立っていた。
ティリアは舌を出し、疲労が全面に出ている。
「根性ねぇな」
シェラはそう言いながら、ティリアごと荷物を持ち上げた。
そして、こちらに気がつく。
「お、来たな。いいとこ見つかったか?」
そう話すシェラに、僕は頷いた。
「なら行こうぜ、眠いわ。ありゃ、ティリアどこ行った」
シェラはそう話しながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
抱えたティリアの存在を、忘れているらしい。
存在を忘れられたティリアは、冷ややかな目でシェラを見上げ、ため息を漏らす。
「抱えてますよ」
「お? あぁ、忘れてた」
かなりお疲れ気味だ。
シェラに少し笑い、僕たちは歩き出した。
しばらくして、宿の扉を開ける。
そして予約した部屋に向かった。
「男はそっち、女はこっち」
ディジーがそう話しながら、部屋の扉を開ける。
シェラはティリアを投げ、解放した。
「じゃあ、また明日。自由時間だな」
シェラはそう言って部屋に入り、目についたベッドに寝転がった。
部屋は広く、ベッドも大きい。
天井も、ベッドも、二百二十以上あるシェラの身長より大きかった。
「異種族が入っても余裕のある宿は中々ねぇからな。いい場所見つけたな、ルイン」
そう言った直後、シェラはすでに眠りに落ちていた。
刻は早いが、寝てもいい頃合いだ。
僕は電気を消し、ベッドに移動する。
直後、何かを蹴った。
「……シェラの尻尾……。流石に収まりきらなかったのかな」
僕はそう言って尻尾を跨ぎ、ベッドに寝転がる。
体が疲れていたのか、すぐに眠気が訪れ、僕は目を瞑った。
そして、翌日。
「ルイン! 起きなさい!」
母親の声で目を覚まし、体を起こす。
知ってる日差し、知っている声、知っている場所。
僕は、自身の手を見て、震えを止める。
ベッドから降りて、鏡を見つめ、顔を触る。
そして……。
「――いつ死んだ……?」
三日の朝は、訪れなかった。




