Episode:3 内と外
門をくぐると、明るい街並みが僕らを歓迎した。
街灯は全て宙に浮き、色とりどりの光を発する。
赤、青、紫、黄色。
その鮮やかな光が街を彩っていた。
「……すごいですね。外からじゃわからなかった」
「多分、認識阻害魔術だね。あまり見ないし、かなり希少な魔術だ。それがあれば、どれだけバカでかい兵器を所有していようが、壁の外からは確認ができない。さっきも言ったように、使う人間はかなり少ない。アタシも見たことがないしね……。そんなものに対策できる奴なんかいないさね」
僕の言葉に、ディジーは空を見上げながら話した。
認識阻害、多種多様な街灯。
ディジーはその一つ一つを目に焼き付け、知識を蓄えようとしているようにも見えた。
「にしても、マジでデカい都市だな。ちと小さく見えたのも、魔術か?」
シェラは首を回し、街並みを睨みながら話す。
彼だけが、初めて訪れたこの都市に対しても、警戒心を出していた。
「認識阻害とはまた別。認識反転魔術。思い込みを、反転させたのさ」
ディジーがそう話すと、シェラはため息を漏らす。
「どう違う?」
「詳細を話してもわからないだろう? だから、簡単に説明するさね。認識阻害は、そこにある物を誤認させる。これは物体が必要さね、リンゴを、バナナにして見せるのが、認識阻害。認識反転魔術は、実体を必要としない、そこにある物が消え、ない物が現れる魔術さ」
「だが、都市が小さく見えたのは、反転魔術だろぉ? 実体がある以上、阻害じゃないのか?」
「いや、大きく見えていた外郭を消して、小さく見せたのさ。反転。それに、反転魔術は、実体があっても作用するのさ」
ディジーが得意気にそう話すと、シェラは頭を抱え、眉間を掻く。
どうやら、理解できていないらしい。
「難しいな」
「だろう?」
シェラとディジーはそう話しながら、店を物色していた。
「取り敢えず、もうメシ食うか?」
シェラは振り向いて、僕とティリアに問う。
「だね……。夜になると、冒険者で酒場が溢れかえる。どこも満杯とは行かないだろうが、それでもかなり待つと思うよ」
ディジーはそう話して、酒場を探し始める。
そんな姿を見ながら、僕はただ後ろを歩いていた。
しばらく経つと、シェラとディジーが何かを指差した。
視線を向けると、そこは酒場で、シェラとディジーはこちらに視線を向ける。
「ここでいいんじゃないかい? 食べて、それから明日の準備をしよう」
ディジーはそう話し、僕たちの答えは待たずに扉を開けた。
カランッ
そんな音が鳴り、扉が開く。
木杯がぶつかり合う音と共に、ワイワイと楽し気な声が飛び込んできた。
「よっしゃぁ! 今日は奢りだぁぁぁぁ!」
椅子に足を乗せ、両手剣を背負った男が声高らかに宣言をする。
そして、木杯の中を空にし、勢いよく卓に置いた。
直後、彼はこちらを見て眉を歪める。
「ほー……。蜥蜴人に、褐樹人……人間のガキに、獣人か、変わった組み合わせだな」
男は僕たちを値踏みするように見つめた。
直後だ、酒場にいる誰かが、声を上げる。
「多種多様な種族が揃って、人間のガキを囲ってやがる。ガキは愛玩用か……?」
その言葉に、周囲は嘲笑した。
嫌な雰囲気、社会に生きる物なら、必ず味わう気持ちの悪い雰囲気が場を包む。
だが、僕たちを値踏みするように見つめた男だけは、眉を歪め唸っていた。
「違う、違うなぁ」
男はそう話し、ニヤリと笑って僕に視線を合わせる。
「お前だろ、ガキ。この組み合わせを操ってるのは……中心は、お前だ」
そう言って、男は僕を指差した。
直後だ、シェラは一歩前に出て、男の肩を叩く。
そして、一言小さく呟いた。
「あぁ、正しい解答だ。だから、コイツに指一本でも触れるなら、殺すぜぇ?」
シェラの放ったその言葉に、場は静まり返る。
「――コイツら!」
「やめとけ!」
酒場の中に、怒号が響く。
誰の声かは分からなかった。
「この人数に喧嘩を売るんだ。並の冒険者じゃねぇ……」
誰かの発したその言葉に、シェラ、ディジー、ティリアは等級章を取り出す。
それを見た直後、嘘のように場が収まり、先ほどまでの空気を取り戻した。
だが、恐怖で鎮めた場は、どことなくぎこちなく、気まずい。
シェラは歩き出し、空いている卓の椅子に腰を下ろす。
「さ、飯だ」
シェラはそう話して、品書きに目を通した。
周りの人間の大半は、冒険者だろう。
こちらを見て、何か小さく耳打ちをする姿も見える。
居心地の悪い空間。
僕はそんな状況を噛み締めながら、ため息を漏らした。




