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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第九章:境界線

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Episode:2 魔術都市2

 木々が眼前に迫る。


「さぁ、ルイン、どうする!?」


 シェラが楽しそうにニヤリと笑った。

 木にあたれば枝が体に刺さるかもしれない。

 眼球に刺されば失明は必至。

 切り落として、落ちる空間を作る!


 僕は真下の木に、手のひらを向ける。

 炎の魔術は使えない!

 

エルナ(風よ)フィルト(射出せよ)!」


 手のひらから風魔術を何発か打ち出し、枝を切り落とす。

 空間は出来るが、次は落下の衝撃を緩和。

 風は、落下速度を考えると、受け止め切れるだけの魔力量で放つのは難しい。

 土魔術で地面を上げる?

 無理だ、大して変わらない。

 地面に打ち付けられるのが早くなるだけ……。


 なら!

 衝撃の吸収……!


ウィトル(水よ)ディーゼ(停滞せよ)


 そう詠唱すると、直後地面に水が現れ、水位が徐々に上がる。

 仮説通りではあったが、魔術は不思議なもので、離れた場所にも水を召喚するこの魔術に、理解は追いつかない。


「水か! でも、この速度で落ちると、水面に当たりゃ、地面と同じ硬さだぜぇ?」


 そう話しながら、ニヤリと笑うシェラを睨み、迫る水面に目を向ける。

 なら、一瞬だけでも速度が落ちればいい。

 下から吹き上げる風を想像……。


エルナ(風よ)ディーゼ(停滞せよ)


 詠唱の直後、下から風が押し寄せる。

 身体を開き、受ける面を増やせば、確かに落下速度は減少した。

 

 ボチャッ


 水に落ち音と共に、一瞬だけ呼吸が止まる。


「ゴホッ……あぁーイッテェ」


 シェラはそう話しながらゆっくりと立ち上がる。

 ディジーは綺麗に着地して、ティリアは頭を振りながら水滴を飛ばしていた。


「風魔術で空間を作り、落下速度を落とすための膜を生成、最後に水のベッドを作り、身体を受け止める。……か。なかなかいい回し方だったんじゃないかい?」


 濡れた服をしぼりながら、僕は歯を食いしばる。


「魔術の密度は雑ですが……」


「今のルインは、それが限界なんだね」


 僕の話にディジーが答えながら、綺麗な布巾を手渡す。


「ん?」


「鼻血……魔術の連発で負荷がかかってるんだ。後半は集中力もなく、意地で魔術を行使していたように見えた。そうすれば注ぎ込む魔力量にも振り幅が出る……調整が肝だな」


 そう話すディジーから綺麗な布巾を受け取り、鼻血を拭く。

 綺麗な模様の一部が赤く染まり、ため息を漏らす。


「さぁ、行くぞぉ」


 バシャっと音を立てて、シェラは先を歩く。

 次第に水位がなくなり、魔力の粒が宙を漂い始めてから、僕は動き出した。


 そして…………


「デカいな」


 シェラは眼前に聳え立つ壁を見上げてつぶやいた。


「魔術都市ニフニルは、外界からの攻撃に耐えうるため、大きな壁を建てた……。とは話に聞いていたが、実際に見るのはアタシも初めてだ」


 ディジーもそう呟きながら、シェラと同じように壁を見上げる。


「ティーちゃんは壁に興味ないから先に手続き済ませるニャ。ルイン、一緒にいくニャ」


「あ、はい!」


 ティリアがため息を漏らし、呆れたように歩き出す後ろを、小走りでついていく。


「はい、止まれ」


 大きな門の前まで行くと、外套を着た二人の魔術師が声をかけてきた。

 右手には身長ほどの杖を持ち、首から覗く等級章は黒曜銅級だった。


「ニフニルに何の用だ」


「明日まで宿を借りたい、それだけニャ」


 ティリアがそう話すと、門番の彼らは僕に顔を向けた。

 外套から繋がった頭巾のせいで表情は見えないが、警戒心は滲み出ていた。

 僕はただ頷く。


「とりあえず、不審なものがないか確認する」


 門番のその声に、ティリアはため息を漏らして手を上げた。

 そしてゆっくりと身体を回す。


「触れたりはしないんですか?」


「透視魔術。装備を透過し、見る」


 僕の問いに、門番の一人はそう答えた。


「……略奪者(ハーラッシュ)か?」


 ティリアを透視した門番の声が低くなる。

 

「等級章が多いようだが?」


 低い声のまま、敵対心は一切隠さずに門番が話した。

 直後だった。


「その子たちは信頼していいよ」


 そう話しながら、ディジーとシェラが等級章を首元から出しながら門番の前まで歩く。


「黒曜銀級と……黒曜金級……」


 呟く門番に、ティリアも自身の等級章を見せる。


「黒曜銀級……。そっちの青年は?」


「仲間だが、冒険者じゃないんだ。アタシの等級章に免じて、通してはくれないかい?」


 ディジーはそう話しながら、ニヤリと笑う。

 その言葉に、門番の二人は顔を見合わせてため息を漏らした。


「問題は起こすなよ」


 門番の言葉の直後、門が開く。

 

「あんがとさん」


「助かるよ」


「いくニャー」


 シェラ、ディジー、ティリアが適当に門番に礼を言って通る。

 僕はシェラの背中を追い、途中で足が止まった。


「どうした」


 門番が僕を見つめ、声をかける。

 その言葉に僕は振り返った。


「ありがとうございます」


 僕は頭を下げ、礼を言ったあと、踵を返して門をくぐった。

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