Episode:2 魔術都市2
木々が眼前に迫る。
「さぁ、ルイン、どうする!?」
シェラが楽しそうにニヤリと笑った。
木にあたれば枝が体に刺さるかもしれない。
眼球に刺されば失明は必至。
切り落として、落ちる空間を作る!
僕は真下の木に、手のひらを向ける。
炎の魔術は使えない!
「エルナ・フィルト!」
手のひらから風魔術を何発か打ち出し、枝を切り落とす。
空間は出来るが、次は落下の衝撃を緩和。
風は、落下速度を考えると、受け止め切れるだけの魔力量で放つのは難しい。
土魔術で地面を上げる?
無理だ、大して変わらない。
地面に打ち付けられるのが早くなるだけ……。
なら!
衝撃の吸収……!
「ウィトル・ディーゼ」
そう詠唱すると、直後地面に水が現れ、水位が徐々に上がる。
仮説通りではあったが、魔術は不思議なもので、離れた場所にも水を召喚するこの魔術に、理解は追いつかない。
「水か! でも、この速度で落ちると、水面に当たりゃ、地面と同じ硬さだぜぇ?」
そう話しながら、ニヤリと笑うシェラを睨み、迫る水面に目を向ける。
なら、一瞬だけでも速度が落ちればいい。
下から吹き上げる風を想像……。
「エルナ・ディーゼ」
詠唱の直後、下から風が押し寄せる。
身体を開き、受ける面を増やせば、確かに落下速度は減少した。
ボチャッ
水に落ち音と共に、一瞬だけ呼吸が止まる。
「ゴホッ……あぁーイッテェ」
シェラはそう話しながらゆっくりと立ち上がる。
ディジーは綺麗に着地して、ティリアは頭を振りながら水滴を飛ばしていた。
「風魔術で空間を作り、落下速度を落とすための膜を生成、最後に水のベッドを作り、身体を受け止める。……か。なかなかいい回し方だったんじゃないかい?」
濡れた服をしぼりながら、僕は歯を食いしばる。
「魔術の密度は雑ですが……」
「今のルインは、それが限界なんだね」
僕の話にディジーが答えながら、綺麗な布巾を手渡す。
「ん?」
「鼻血……魔術の連発で負荷がかかってるんだ。後半は集中力もなく、意地で魔術を行使していたように見えた。そうすれば注ぎ込む魔力量にも振り幅が出る……調整が肝だな」
そう話すディジーから綺麗な布巾を受け取り、鼻血を拭く。
綺麗な模様の一部が赤く染まり、ため息を漏らす。
「さぁ、行くぞぉ」
バシャっと音を立てて、シェラは先を歩く。
次第に水位がなくなり、魔力の粒が宙を漂い始めてから、僕は動き出した。
そして…………
「デカいな」
シェラは眼前に聳え立つ壁を見上げてつぶやいた。
「魔術都市ニフニルは、外界からの攻撃に耐えうるため、大きな壁を建てた……。とは話に聞いていたが、実際に見るのはアタシも初めてだ」
ディジーもそう呟きながら、シェラと同じように壁を見上げる。
「ティーちゃんは壁に興味ないから先に手続き済ませるニャ。ルイン、一緒にいくニャ」
「あ、はい!」
ティリアがため息を漏らし、呆れたように歩き出す後ろを、小走りでついていく。
「はい、止まれ」
大きな門の前まで行くと、外套を着た二人の魔術師が声をかけてきた。
右手には身長ほどの杖を持ち、首から覗く等級章は黒曜銅級だった。
「ニフニルに何の用だ」
「明日まで宿を借りたい、それだけニャ」
ティリアがそう話すと、門番の彼らは僕に顔を向けた。
外套から繋がった頭巾のせいで表情は見えないが、警戒心は滲み出ていた。
僕はただ頷く。
「とりあえず、不審なものがないか確認する」
門番のその声に、ティリアはため息を漏らして手を上げた。
そしてゆっくりと身体を回す。
「触れたりはしないんですか?」
「透視魔術。装備を透過し、見る」
僕の問いに、門番の一人はそう答えた。
「……略奪者か?」
ティリアを透視した門番の声が低くなる。
「等級章が多いようだが?」
低い声のまま、敵対心は一切隠さずに門番が話した。
直後だった。
「その子たちは信頼していいよ」
そう話しながら、ディジーとシェラが等級章を首元から出しながら門番の前まで歩く。
「黒曜銀級と……黒曜金級……」
呟く門番に、ティリアも自身の等級章を見せる。
「黒曜銀級……。そっちの青年は?」
「仲間だが、冒険者じゃないんだ。アタシの等級章に免じて、通してはくれないかい?」
ディジーはそう話しながら、ニヤリと笑う。
その言葉に、門番の二人は顔を見合わせてため息を漏らした。
「問題は起こすなよ」
門番の言葉の直後、門が開く。
「あんがとさん」
「助かるよ」
「いくニャー」
シェラ、ディジー、ティリアが適当に門番に礼を言って通る。
僕はシェラの背中を追い、途中で足が止まった。
「どうした」
門番が僕を見つめ、声をかける。
その言葉に僕は振り返った。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げ、礼を言ったあと、踵を返して門をくぐった。




