表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/144

Episode:26 ティリア・ファレット

 僕の服を掴む拳に力を入れ、ティリアは歯を食いしばる。

 そして、彼女は話し始めた。

 それは彼女が……ティリア・ファレットが冒険者を選んだ理由だった。


 ――ティリア


 身長より高い本が立ち並ぶ。

 童話から、魔術書まで。

 異国の読めない文字すらを記した手記。

 その中に、ティーちゃんは座っていた。

 この刻の歳は、五つか、六つだと思おう。


 コンコンと高い音で木製の扉が叩かれる。

 扉をゆっくりと開けて入ってきたのは細身で白髪の男だった。

 彼は獣人ではなく、純血の人族だった。


「ティリアお嬢様、ご夕飯のご支度が整いましたので、食堂にお越しください」


 白髪の男はそう話して、深く頭を下げる。


「嫌!! ってお母様に言っといて欲しいニャ!」


 ティーちゃんがそう話すと、男は困ったような顔をしてため息を漏らす。


「お嬢様、またお母様とお父様に叱られますよ?」


 男はそう言いながら、唸った。

 そして、男は口を開く。


「では、こういうのはどうでしょうか?」


 男がゆっくり話した言葉に、ティーちゃんは本を閉じて、耳を傾けた。


「今から少しの間、目を瞑っておきます。準備ができたら、お嬢様の方からお声がけください。その後、ワタクシが追いかけますので、つかまらないように逃げてください」


「捕まったらどうなるニャ?」


 男の言葉に、ティーちゃんは首を傾げる。


「そうですね。今後ずっと、勉学に励み、舞踏の練習も欠かさず、派遣された講師たちにも丁寧に接し、ご両親を困らせない。はどうでしょうか?」


 男は優しく笑いながらそう話した。


「ティーちゃんは?」


「何でも構いません。欲しいもの、したいこと。この勝負に負けたら、ワタクシの方から、お母様とお父様に話をしましょう。最後まで、協力いたしますとも」


 男はそう言って頭を下げる。


「わかった。約束は守ってほしいニャ」


「はい」


 ティーちゃんはそう言って立ち上がり、準備運動をした。

 その光景を男はただ見つめる。


「つまりは、鬼ごっこ……だよね?」


「はい、自信はありますか?」


 ティーちゃんに、男は問う。

 準備運動が終わったティーちゃんは、腰に手を当てて、胸を張る。


「じゃ、ティーちゃんが部屋を出てから三十数えて! それから開始だニャ!」


 そう言って、ティーちゃんは書斎を飛び出す。

 広い屋敷。

 廊下の真ん中には赤い絨毯が長く引いてあり、壁の隅々まで金色の装飾や、名高い画家の絵画で埋め尽くされている。

 生活には困らなかったが、別に裕福だとは思わなかった。

 だが、その考えは一発でひっくり返る。


「もう三十たったかな……」


 ティーちゃんは絵画を見ながらつぶやいた。

 書斎と隣接している廊下からはかなり歩いたし、すぐには見つけられまい。

 

「経ちましたね」


 直後、耳に低い声が入った。

 ティーちゃんは驚いて、飛びのくと、目の前には書斎で数を数えていたはずの白髪の男が立っていた。


「……いつからいたニャ?」


「数え終わったばかりです」


 男はそう言いながらやさしく笑う。

 その言葉に、ティーちゃんは眉を歪めた。

 数えたばかりだとして、ここまでそれこそ十五ほどはかかるはず。

 ティーちゃんは耳がいい。

 鼻も利くが、一番自信があるのは耳だ。


 廊下を何本挟んでも、廊下の端から端でも、扉の開閉音は聞こえる。

 だが、今回はそれが聞こえなかった。


「さ、捕まえますよ?」


 ティーちゃんに考える隙を与えないかのように男は、ティーちゃんに手を伸ばす。

 体は動かなかった。

 逃げようとはした、走り出せば、この男を振り切れる自信があった。

 だが、走り出せなかった。

 本能が、勝てないと、悟ってしまったのだ。


「はい、捕まえました」


「むぅ……」


 男に肩を軽くたたかれ、ティーちゃんは唇を尖らす。


「勝てるとわかって、それでいて、提案したのかニャ?」


 ティーちゃんが問いかけると、男は困った顔で笑って見せた。


「まぁ、そうなりますね」


 男はそう話し、前を向いた。


「ずるいニャ」


「ですね。ですが、ティリアお嬢様は、ズルをしてはいけないとおっしゃっていません」


 確かにそうだ、

 大人が提示した制約で、まさか提案した側がズルをするとは思わなかったのだ。


「さ、夕飯が冷めてしまいます。行きましょう」


 男はティーちゃんにそう話しながら手を差し出す。

 ティーちゃんはその手を握り、食卓が並んでいるであろう広間を目指した。


「何かやっていたのかニャ?」


「ワタクシですか?」


 ティーちゃんの質問に、男は首を傾げ、ゆっくりと話し始めた。


「少し前まで、冒険者をしていました。斥候(せっこう)と言っても難しいでしょう。簡単に言えば、隠れるのが上手い人なんです。音を消したりとかが上手だったんですよ?」


 男はそういいながら 自身の頬を掻いていた。

 照れくさそうに笑い、優しかった。


「だから音がしなかったんだニャ」


 ティーちゃんは納得した。

 扉の音が聞こえなかったのは、この男が斥候と呼ばれる冒険者だったからだ。


「強かったのかニャ?」


「まさかそんなまだまだでしたよ。黒曜銅級という等級が最大です、そこで、心が折れてしまいました」


 男はそう言ったきり、何も話さなくなってしまった。

 悲しそうな顔を見せた男に気づき、ティーちゃんからも何かを言うことはなかった。


 やがて広間に着き、扉を開ける。

 香り豊かな匂いが漂い、心が温かくなる。

 それでもなお、ティーちゃんの横に立つ男は、表情を変えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ