Episode:22 大地の牙と雷鳴
火花が散る戦場で、バルドはニヤリと笑った。
彼は僕とディジーを見つめ、双斧を構える。
そして、土を掬い上げるように、斧を下から上えと土を抉りながら振り上げた。
直後に甲高い音が鳴り、地面がひび割れ、瓦礫が打ち上げられる。
これが、あの魔剣の力なのだろう。
――バシフィールの凍結の魔剣。
ディジーは冷気を纏った魔剣を振ると、地面から槍のように形成された氷が巻き上がる岩を貫いた。
「バシフィールの凍結の魔剣……か? 黒曜金級の魔物、バシフィールから作られた魔剣だろ? 見るのは初めてだが、いい魔剣だ。俄然殺したくなる」
バルドはそう話しながらニヤリと笑った。
「あの双斧、厄介だな」
ディジーがそう呟いた。
「なぜですか?」
「おそらく、どんなに硬いものでも破壊ができる。遮蔽の裏も意味がない……。ティリアのように一斬必殺とは行かないが、防ぎたい本能を逆手に取ったような魔剣だ」
そう話しながら、ディジーは腰を低くする。
何か策を探すように、視線を巡らせた。
「シェラは雑魚の相手、ティリアは斥候に行く手を阻まれ加勢は出来ない……アタシと、ルインで魔剣を相手? いや、不可能に近い……なら、シェラに騎士を送って、合流で行こう」
ディジーは脳内の策を言語化し、まるで自身に言い聞かせるように呟いた。
それは誰かに向けたものではなく、段取りを明確にし、覚悟を示すような扱い方だ。
「ルイン! 下がってな!」
ディジーのその言葉に、僕は数歩下がる。
直後、シェラと共に戦っていた銀騎士が霧散し、魔力の粒のみがディジーの元に帰ってきた。
揺れる双丘の中心に吸い込まれるように粒が消え、ディジーの髪がフワリと浮き上がる。
魔力の奔流。
まるで、世界に現存する魔力粒子が、ディジーに吸い込まれているようだ。
――ヴェルーデ。
空間は歪まない、その代わりに、金色の光が四方に散らばる。
「っち! めんどくせぇ!」
ディジーの詠唱を見たバルドは、舌打ちを漏らして小さな石を拾う。
その石を空高く投げ、斧の刃で叩いた。
フィィィィン
甲高い音が森全体に響いた直後、石が砕け、破片が豪速で皮膚を切り裂く。
「っ!」
僕は切られた頬を手で押さえるが、ディジーは一切動じてはいなかった。
黒曜級とは、窮地でも動じずに戦える冒険者だろうか。
「まだ、衝撃が来てねぇだろ!」
バルドがそう叫んだ直後、柔らかな風が一瞬木々を揺らし、突風が吹いた。
見えない圧が迫る中、僕は目を瞑り、防御の体制を取る。
だが、衝撃は抑えられない。
――ジータ・エルキス。
直後だった、雷のような轟音と共に、黄金の光が僕と、ディジーの前に出現する。
形がまだ完全に顕現していない状態で、それは直剣を振るった。
土を抉り、巻き上げ、破裂音を響かせる。
その何かと共に僕は後ろに弾け飛んだ。
背中を木に打ち付け、呼吸が止まる。
背中は痛いが、怪我と呼べる傷は存在しない。
「やったね……。相殺は出来ないけど、この子達なら戦える」
雷のような光が収まり、召喚された騎士は姿を見せる。
犬の様な顔つきに、竜のように捻れ伸びた二本の角。
地に着くほど長い細身の直剣。
光を反射し輝く金色の鎧。
細部までこだわった鎖と宝石の装飾。
極め付けは、二百近くある身長と大柄な体躯だった。
それも、七体ほど。
ディジーはフラッと体を揺らし、垂れた鼻血を拭う。
「全く、この子達は体を蝕むねぇ」
そう言いながら、赤くなった右の拳で黄金の鎧を叩いた。
「――期待、してるからね」
ディジーはそう話しながら呼吸を整え、口を開く。
「五体はシェラの加勢に行きな! 終わったら合流するだよ! アンタ達は、アタシと、ルインに一体ずつだ、武器は好きにしな、アイツの衝撃は厄介だよ」
ディジーの指示が終わると、雷のように木々の隙間を縫って五体が姿を消す。
そして、残った二体は、細い剣を光と化し新たな武器を形成する。
大剣が一本。
そして、槍が一本。
両者が大盾を持ち、バルドを睨んだ。
「準備はいいかい、ルイン」
「――はい」
ディジーの声にそう答えると、彼女は優しく笑った。
そして、腰を落とす。
「行くよ!」
ディジーが声を上げ、走り出すと同時に、彼らの姿も、光の槍となって大地を掛けだす。
僕もそれに続く様に、土を蹴った。




