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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

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Episode:21 冒険者の果て

 赤く染まる川に視線を移し、僕は舌打ちをする。


「ゴミカスがぁ……!」


 シェラの低い叫びが響き、略奪者(ハーラッシュ)の面々が僕達に気がついた。


「あ、冒険者? 同業か?」


 短髪で茶髪の男はニヤリと笑い牙を見せた。


「んなわけねぇよなぁ? 蜥蜴人(リザードマン)


「あぁ、ちげぇよ。ゴミ野郎」


 男の言葉に、シェラは牙を剥きながら答えた。

 瞳孔が開き、臨戦態勢になる。

 相手もそれを感じ取っているのか、次々と剣を抜いて行った。


「あーあぁ、見逃してはくんねぇよな?」


 男は背中から手斧を二本取る。

 体は大きく、筋肉もある。

 大型の武器を持てば、攻めも守りもできる剣士になるだろう。

 そうならなかったのはこだわりが……あの斧に仕掛けがあるのか。


「ぶっ殺す」


 シェラも背中から大曲剣を二本抜き、切っ先を地面につける。

 重い音と共に、土が少しだけ舞ったのが見えた。

 そして、シェラに続くように、ディジーは外套に手を入れ、ティリアも短剣を抜く。

 僕も、ゆっくりと身体を落とした。


 数では圧倒的に向こうが上。

 ザッと見ただけでも十人以上……等級が分からない以上、相手の出方を見るのが得策か……。


「バルドさん! 子供の積み込み終わりました。玩具としても、奴隷としても、バッチリです。女の方も、奴隷商に売れば良い感じに儲かりますよ」


 バルド。

 短髪で茶髪の男はそう呼ばれていた。

 バルドは無精髭を撫で、ニヤリと笑う。

 まるで、これから稼ぐ金をどう扱おうか悩んでいるようだ。


「蜥蜴人……鱗は高値で取引されるよな? 褐樹人(ダークエルフ)獣人(アニマ)は物好きの変態から金を稼げる。あのガキは内臓でも売りゃ、多少儲かるだろ」


 バルドは僕達を見ながら、何やらぶつぶつと話し、ニヤリと笑った。


「良い金儲けだ」


 バルドのその言葉を皮切りに、周囲の冒険者が走り出した。

 

「来るぞ!」


 シェラが走り出す。


 ――ヴェール・エルキス(銀騎士)


「行くニャ」


 僕の横を、数体の銀騎士とティリアが駆け抜けていく。


「ルイン、やるよ!」


 ディジーの言葉に、僕は頷く。

 剣戟が響く中、知らない声がゆったり耳に刺さった。


 ――ディア(炎よ)フルール(連鎖せよ)

 

 詠唱直後、はるか先で炎が高く上がる。

 大きく、太い。

 蛇のようで、鞭のような……連鎖的な炎が横薙ぎに振り払われた。

 積み上げられた首のない死体に直撃し、巻き上げる。

 炎上する死体が生々しい音を立て、地面を弾むが、魔術は止まらず、仲間ごと焼き払うかのように迫った。


「ディジーの持つ魔具より強力です!」


「注ぐ魔力量が違うんだよ! アイツ、おそらく黒曜銀……! ルイン、アンタが目指す地点はあそこだ!」


 攻撃型魔術師。

 僕の目標であり、再配置を止めるための最低基準とも言えるだろうか。


「魔術……! クソッ!」


 横薙ぎに迫る炎の魔術に気がついたシェラは舌打ちをして叫んだ。

 重い剣を振るいながらでは回避が間に合わない。


「ニャッ!」


 ティリアは魔剣で切りつけた何人かを踏み台に、高く跳躍する。

 彼女は速く、獣人特有の身体能力を活かした戦い方を行う。

 回避も容易で、焦りがない。


「アタシが止める!」


 ――バシフィールの凍結の魔剣。


 ディジーの詠唱に、広範囲に冷気が漂う。

 直後、一瞬にして炎上する死体と、鞭のような炎が凍りついた。


「――っな!」


 相手の魔術師は焦りを隠せない。

 仲間ごと焼き払う覚悟がある人間だ……この魔術にも、絶対的な自信があったのだろう。


 だが、相手も場数を踏んでいるのは容易に想像ができた。


「こいよっ!」


 魔術師が叫んだ直後、顔の見えない斥候(せっこう)が炎を凍らせた氷の上に飛び乗り、走り出す。

 滑らない足運び、それでいて速度は緩めない。

 黒曜にはなる斥候だろう。


 タンッ


 そう足音を鳴らし、跳躍する。

 狙いは、高く跳躍して無防備になったティリアだった。

 斥候は彼女に抱きつき、そのまま地面に落ちる。

 地面を転がりながらも、ティリアは斥候の腹部に蹴りを入れ、その衝撃を利用して華麗に起き上がる。


「邪魔ニャ」


「お前もな」


 ティリアと斥候は静かに睨み合っていた。

 

 そんな戦場に、重い足音が響く。

 

「おいおい、商売の邪魔はしねぇでくんねぇかな」


 バルドは戦場を遠目からゆっくり見渡すように大回りに歩いた。

 そして、炎を凍らせている氷に手を触れる。


「うぉ、こりゃすげぇな。根元まで、手のひらごと凍らせてるから、魔術師は次の攻撃が出来ない……か」


 バルドはそう話しながら、斧を握り直す。

 片手で二本を握れるほどの大きな手、一本を片手に移し、しっかりと握り込んだ。


「うらぁっ!」


 カツンッ


 バルドが振り下ろした斧は、小さく、気の抜けた音を響かせた。

 

「は、はは。そんなんで魔剣の氷が壊れるわけないだろう?」


 ディジーが鼻で笑った。

 だが、バルドはそれ以上に、勝利を確信したようにニヤリと笑った。


 フィィィィン


 どこからか甲高い音が響く。

 その直後、バルドの叩いた氷が一瞬にして砕け散り、その直下にあった地面さえも広範囲で砕いてみせた。


「――っな!」


 ディジーは歯を食いしばり、魔剣を握り直す。


「魔剣には魔剣……だろう?」


 バルドがそう言いながら、斧を重ね合わせ、ニヤリと笑う。


「――セル・ゴロンの強震の双斧(そうふ)


 そう呟いたバルドの瞳には、欲望の炎が強く滾っていた。

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