Episode:21 冒険者の果て
赤く染まる川に視線を移し、僕は舌打ちをする。
「ゴミカスがぁ……!」
シェラの低い叫びが響き、略奪者の面々が僕達に気がついた。
「あ、冒険者? 同業か?」
短髪で茶髪の男はニヤリと笑い牙を見せた。
「んなわけねぇよなぁ? 蜥蜴人」
「あぁ、ちげぇよ。ゴミ野郎」
男の言葉に、シェラは牙を剥きながら答えた。
瞳孔が開き、臨戦態勢になる。
相手もそれを感じ取っているのか、次々と剣を抜いて行った。
「あーあぁ、見逃してはくんねぇよな?」
男は背中から手斧を二本取る。
体は大きく、筋肉もある。
大型の武器を持てば、攻めも守りもできる剣士になるだろう。
そうならなかったのはこだわりが……あの斧に仕掛けがあるのか。
「ぶっ殺す」
シェラも背中から大曲剣を二本抜き、切っ先を地面につける。
重い音と共に、土が少しだけ舞ったのが見えた。
そして、シェラに続くように、ディジーは外套に手を入れ、ティリアも短剣を抜く。
僕も、ゆっくりと身体を落とした。
数では圧倒的に向こうが上。
ザッと見ただけでも十人以上……等級が分からない以上、相手の出方を見るのが得策か……。
「バルドさん! 子供の積み込み終わりました。玩具としても、奴隷としても、バッチリです。女の方も、奴隷商に売れば良い感じに儲かりますよ」
バルド。
短髪で茶髪の男はそう呼ばれていた。
バルドは無精髭を撫で、ニヤリと笑う。
まるで、これから稼ぐ金をどう扱おうか悩んでいるようだ。
「蜥蜴人……鱗は高値で取引されるよな? 褐樹人と獣人は物好きの変態から金を稼げる。あのガキは内臓でも売りゃ、多少儲かるだろ」
バルドは僕達を見ながら、何やらぶつぶつと話し、ニヤリと笑った。
「良い金儲けだ」
バルドのその言葉を皮切りに、周囲の冒険者が走り出した。
「来るぞ!」
シェラが走り出す。
――ヴェール・エルキス。
「行くニャ」
僕の横を、数体の銀騎士とティリアが駆け抜けていく。
「ルイン、やるよ!」
ディジーの言葉に、僕は頷く。
剣戟が響く中、知らない声がゆったり耳に刺さった。
――ディア・フルール。
詠唱直後、はるか先で炎が高く上がる。
大きく、太い。
蛇のようで、鞭のような……連鎖的な炎が横薙ぎに振り払われた。
積み上げられた首のない死体に直撃し、巻き上げる。
炎上する死体が生々しい音を立て、地面を弾むが、魔術は止まらず、仲間ごと焼き払うかのように迫った。
「ディジーの持つ魔具より強力です!」
「注ぐ魔力量が違うんだよ! アイツ、おそらく黒曜銀……! ルイン、アンタが目指す地点はあそこだ!」
攻撃型魔術師。
僕の目標であり、再配置を止めるための最低基準とも言えるだろうか。
「魔術……! クソッ!」
横薙ぎに迫る炎の魔術に気がついたシェラは舌打ちをして叫んだ。
重い剣を振るいながらでは回避が間に合わない。
「ニャッ!」
ティリアは魔剣で切りつけた何人かを踏み台に、高く跳躍する。
彼女は速く、獣人特有の身体能力を活かした戦い方を行う。
回避も容易で、焦りがない。
「アタシが止める!」
――バシフィールの凍結の魔剣。
ディジーの詠唱に、広範囲に冷気が漂う。
直後、一瞬にして炎上する死体と、鞭のような炎が凍りついた。
「――っな!」
相手の魔術師は焦りを隠せない。
仲間ごと焼き払う覚悟がある人間だ……この魔術にも、絶対的な自信があったのだろう。
だが、相手も場数を踏んでいるのは容易に想像ができた。
「こいよっ!」
魔術師が叫んだ直後、顔の見えない斥候が炎を凍らせた氷の上に飛び乗り、走り出す。
滑らない足運び、それでいて速度は緩めない。
黒曜にはなる斥候だろう。
タンッ
そう足音を鳴らし、跳躍する。
狙いは、高く跳躍して無防備になったティリアだった。
斥候は彼女に抱きつき、そのまま地面に落ちる。
地面を転がりながらも、ティリアは斥候の腹部に蹴りを入れ、その衝撃を利用して華麗に起き上がる。
「邪魔ニャ」
「お前もな」
ティリアと斥候は静かに睨み合っていた。
そんな戦場に、重い足音が響く。
「おいおい、商売の邪魔はしねぇでくんねぇかな」
バルドは戦場を遠目からゆっくり見渡すように大回りに歩いた。
そして、炎を凍らせている氷に手を触れる。
「うぉ、こりゃすげぇな。根元まで、手のひらごと凍らせてるから、魔術師は次の攻撃が出来ない……か」
バルドはそう話しながら、斧を握り直す。
片手で二本を握れるほどの大きな手、一本を片手に移し、しっかりと握り込んだ。
「うらぁっ!」
カツンッ
バルドが振り下ろした斧は、小さく、気の抜けた音を響かせた。
「は、はは。そんなんで魔剣の氷が壊れるわけないだろう?」
ディジーが鼻で笑った。
だが、バルドはそれ以上に、勝利を確信したようにニヤリと笑った。
フィィィィン
どこからか甲高い音が響く。
その直後、バルドの叩いた氷が一瞬にして砕け散り、その直下にあった地面さえも広範囲で砕いてみせた。
「――っな!」
ディジーは歯を食いしばり、魔剣を握り直す。
「魔剣には魔剣……だろう?」
バルドがそう言いながら、斧を重ね合わせ、ニヤリと笑う。
「――セル・ゴロンの強震の双斧」
そう呟いたバルドの瞳には、欲望の炎が強く滾っていた。




