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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

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Episode:20 許せない

 森の中をゆったりと歩いていく。


「あぁぁぁぁー」


 シェラは体を捻り、肩を回した。

 銀騎士との訓練で疲れた体をほぐす様に、声を上げながら関節やらを動かしていた。


「なんか、おじさんくさいニャ」


「黙ってろ、定命(じょうみょう)のオメェらにはわからねぇだろ」


 シェラはそう言いながら、ティリアを睨む。

 そのシェラの言葉で、ティリアは尻尾を揺らしながら人差し指を立てた。


「はっ! 長命種は頭が硬くて嫌になるニャ」


 ティリアがそう話すと、シェラはディジーを見つめる。

 ディジーは褐樹人(ダークエルフ)だ、長命種と言えば、名前が連なる種族だろう。


「だとよ」


「アタシは知識を求めるから、考えは柔軟な方さね、この場合は、シェラ……アンタだけだよ」


 ディジーがそう話すと、シェラは肩を落とした。


「はぁ、どいつもコイツも冷てぇなぁ」


 そう言いながら、シェラは僕を見つめた。


「僕は気にしませんよ」


「さすが、分かる奴はチゲェぜ」


 僕の言葉に、シェラはそう答えた。

 それからしばらく歩くと、川が見える。


「川……か」


 シェラはそう呟いて、僕たちを見つめる。


「どうしました?」


「いや、迂回しようぜ」


 シェラはそう話して、川の流れに目を向けた。


 蜥蜴人(リザードマン)のシェラは、川や水場なら自由に動けるが、僕たちは違う。

 特に、獣人(アニマ)であるティリアは、本能的に水を嫌う種族だ。

 だから、迂回を選んだのだろう。


「水だけでも補充して行きますか?」


 僕がそう話すと、シェラは水に触れ、一口舐めて見せた。


「まぁ、綺麗な川だし問題はないか」


 シェラはそう話した後、雑嚢から水袋を取り出して、川に沈めた。


「川を越えて、森を抜けるんだよな?」


「はい、街道は途中で切られていましたから、王都の敷地外は、全て森ですね」


 僕がそう答えると、シェラはため息を漏らす。


「森に囲まれた街道……。ほぼないに等しいよなぁ……。獣道と何ら変わんねぇ」


 シェラはそう話した後、水袋に入った水を頭にかけ、再度水袋を川に沈めた。


「あちぃ」


 そう話すシェラを見ながら、僕も水袋を川に沈める。

 水袋を持っていなかった僕に、ディジーが二つあるからと譲ってくれたものだ。


「迂回、上流と下流どっちにする?」


「蜥蜴人的にはどっちの方がいいんだい?」


 ディジーの言葉に、シェラは少し考えたが……。


「いや、あんま変わらんだろ。蜥蜴人なら、迂回せずに泳ぐ」


 シェラの答えに、ディジーとティリアはため息を漏らした。

 まぁ、予想できていた回答ではある。


「じゃあ、ティーちゃん的には、下流がいいニャ」


 ティリアはそう話して、下流の方角を指差した。


「浅そうニャし、膝下くらいまでなら浸かれるニャ、そこまで行けば、川を突き抜けられるニャ」


 ティリアはそういって尻尾を揺らす。


「なら、そうすっか」


 シェラはゆっくりと立ち上がり、先に歩き出す。

 その背中を見て、僕たちも歩き出した。


 直後のことだった。

 

「ニャんか、臭くニャい?」


 ティリアが鼻を鳴らしながらそう呟いた。


「臭いですか? 僕は何も感じませんが、どんな匂いですか?」


 僕の言葉に、ティリアは眉を顰める。


「鉄ニャ、鉄臭いニャ……」


 直後だった、ディジーの声が響く。


「アンタたち、川!」


 ディジーの声で僕達は川に視線を移す。

 川は桃色から赤に、赤から赤黒く変色していく。

 上流から下流に流れて来た水が、何かを含んでいる。


「これ、全部血か!?」


 シェラがそう叫んで上流に目を凝らした。


「……クソッ! もっと上だ、始まりまで登らねぇと!」


 シェラはそう話し、僕を見つめる。


「どうする!? 最終決定権はオメェだ、ルイン!」


 シェラは僕にそう叫ぶ。

 あと六日しかない。

 ここで立ち止まるわけにはいかない。

 だが、僕の思考をぶった斬るように、桃色の尻尾が視界の端で風を切った。


「ティリア!」


 僕の呼びかけでも、彼女の背中は小さくなっていく。

 僕より先に、ティリアは走り出していたのだ。


「……っち! シェラ、ディジー! 行きますよ!」


 僕達はティリアを追う。

 緩やかな傾斜といえど、全力で走ったら疲れるものだ、だが森から抜けた先の光景を見た直後、疲れなど感じなくなった。


「村だ!」


 シェラは森を抜け、急停止する。

 視界に広がったのは、火が上がる家と畑。

 中央には、薪でも焚べるかのように積み上げられた首のない死体だった。


「おい! 女と子供は残しとけ、騒ぐなら親父の身体を目の前でバラバラにしてやれば反抗すらもしねぇだろ」


 筋骨隆々で屈強な男が仲間に指示を出していた。

 身長は百八十くらいだろうか、武器は斧が二本。

 小さな手斧だが、あの体躯で振るわれた威力は容易に想像ができる。


「おい、あれ」


 シェラが川を指差す。

 僕はその指示通りに、川に視線を移した。


 そこには、首だけが並べられていた。

 積み上げられた死体の頭だろう。

 果物を川の水で冷やすかの様に、綺麗に並べられていた。


「アイツら……」


 ディジーが拳を握り、彼らを睨む。

 直後、低い声でティリアが呟いた。


略奪者(ハーラッシュ)


 その声は今までとは違う、何度繰り返しても聞けなかった、憎悪に満ちた声だった。

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