Episode:19 二日目の朝
ゆっくりと目を覚ます。
いつの間にか眠っていたのか……。
僕はゆっくりと体を起こし、木々の隙間から太陽が差し、森を少しだけ明るくしていた。
「……シェラ? ディジー? ティリア……?」
僕が名前を呼んでも返事はなかった。
立ち上がり、耳を澄ます。
寝ている間に襲撃があった?
それならシェラやディジーが叫んでいるはず……。
ティリアが一人ずつ殺した?
可能性としてはあり得るが、腐敗臭などは漂ってこない。
直後、肩を優しく叩かれる。
右肩を叩かれ、僕はすぐに振り返って飛び退いた。
そこにいたのは……。
「ヴェール・エルキス?」
どう見てもディジーが召喚したであろう銀騎士だった。
「えっと……」
何も言わない。
いや、何も言えない僕を見て、銀騎士は首を傾げる。
「いや、僕が首を傾げたいんだけど……」
僕がそう呟くと、銀騎士は森の奥を指差した。
「ん? 奥ですか?」
僕の言葉に、銀騎士は頷き、拳を作る。
そして、まるで何かと戦っているかの様に華麗に武術を披露した。
合間合間に戦闘では使用しないであろう動きが入っていたのは無視をしよう。
「あっちで……? あ、訓練?」
僕がそう話すと、銀騎士は親指を立てた。
あれなのだろうか、無機物と思っていたが、銀騎士は友好的で、感情があったりするのだろうか。
使用者の気持ちを代弁するのだとしたら、ディジーの素はこんな感じだったりするのだろうか……。
「ありがとうございます」
僕は一礼して銀騎士が指を差した方向に向かう。
もちろん、銀騎士も一緒についてきていた。
そして、少し歩くと剣戟と、怒声が響いた。
「違う! もっと腰落とすんだよ!」
ディジーの召喚した銀騎士数体を相手に、シェラが息をあげてた。
「うわ、すごい……」
僕がそう呟くと、耳に水音が入る。
「うっ……おぇぇぇぇ……あれは、あれは悪魔ニャ、あく……おぇぇぇぇ」
ビチャビチャと吐瀉物を吐き出しているティリアを見つめ、僕は顔が引き攣る。
僕は自身の水袋を取り出し、ティリアに伸ばす。
「の、飲みますか?」
「助かるニャ」
キュポンッ
と気持ちのいい音を立て栓を外し、ティリアは何度も喉を鳴らす。
何度かの嚥下の後、息を漏らしながら口を離した。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるかニャ? と言いたいところニャけど、大丈夫ニャ。ディジーは、ティーちゃんたちの限界を一発で見抜いて、それを超えないギリギリを攻めてくるニャ。だから、身体が壊れる事は無いニャ」
ティリアはそう言いながらシェラと銀騎士を睨む。
身体が壊れる事はない。
先程まで吐いていたティリアが言うには、説得力に欠けた言葉だった。
「ディジー!」
僕が彼女の名前を呼ぶと、シェラと銀騎士の動きがピタリと止まる。
「お、ルイン。起きたかい? 眠れた?」
そう言いながらディジーはこちらに歩み寄る。
ジリジリと近づいてくるディジーを見て、ティリアは僕の背後に隠れ、肩から顔を覗かせていた。
「そんなに怖がる事ないじゃないか」
ディジーはそう言いながらニヤリと笑う。
ディジーとティリアの間に何があったのかは気になるが、僕がさらに気になるのはディジーのはるか後方、シェラと数体の銀騎士だった。
何やら手を出し合い、鬼ごっこを開始したかと思えば、数体の銀騎士に捕まり、殴られて蹴られていた。
あれは一体なんの訓練なんだろうか……。
訓練ではなく、遊びに近い様な……。
「あれは、合ってます?」
僕がディジーの背後を指差しながら話すと、彼女は振り返り、ため息を漏らした。
「あの脳筋蜥蜴人は……。直線で逃げるから追いつかれるんだろう? 木を使いなさい、こんな沢山あるんだから!」
ディジーはそう言って僕に向き直る。
「鬼ごっこの指示は出してないのに。シェラと関わると、銀騎士まで脳筋になるのかね」
そう言いながら、ディジーは頭を抱えた。
「で、ルインもやるかい?」
ディジーはそう話した。
だが、本気では言っていない。すぐにわかる。
「あと六日間しかありません。行きましょう」
「だよね」
僕がそう話すと、ディジーは頷いて、シェラと銀騎士を見る。
「解除しないんですか?」
「するわよ……」
僕の言葉に、ディジーはそう答え、右手をゆっくりとあげる……ことはなかった。
「まぁいいか」
そう言って先に歩き出してしまったのだ。
「え?」
先を歩くディジーの背中を見ると、横からティリアが呟いた。
「悪魔」
そう話して、ティリアも歩き出した。
「おい! 待てコラ! クッソ、オメェら邪魔すぎんだろ! 解除しろ、コイツらを消してくれ!」
シェラの叫び声と共に、一日が始まる。
これが、二日目の始まりだった。




