Episode:18 新たな旅
ティリアの手を掴み、彼女を立たせる。
立った彼女は僕より少し大きかった。
「……おミャえ、意外とちんまいニャ」
「小さくてすいませんでしたね」
ティリアが眉を歪めながら放った言葉に、僕はため息を漏らしならそう答えた。
まだ夜は長い。
「ルイン、野営の準備だ」
シェラはそう話しながら、乾いた枝を集める。
定期的にティリアに視線を送っているのは、まだ警戒しているからだろう。
それに関しては、ディジーも同じだった。
炎を囲み、地面に座る。
シェラは干し肉を噛みながらため息を漏らした。
「で、こっからどうすんだ。東の果てを目指すにしても、一日目が終わる。あと六日で、どこまで行けるのかわかんねぇぞ」
「東の果ての洞窟にさえ到達出来ない可能性だって考慮しなきゃいけないんじゃないのかい?」
シェラの言葉に、ディジーが答える。
確かにそうだ。
アーガスが残した情報ではあるが、洞窟がそもそもどこにあるかも不明。
それ以前に、東の果て……とやらにたどり着けるかも曖昧なものだった。
直後、桃色の尻尾が僕の肩を叩く。
隣に座っていたティリアが呼んだのだろう。
「どうしましたか、ティリア」
「東の果てには、ニャにがあるのかニャ」
僕はその言葉に少し考え、口を開いた。
「東の果てには山があり、その山には洞窟がある。その洞窟の中に、再配置の原因となった魔物がいると情報があるんです」
僕がそう答えると、ティリアは首を傾げた。
「誰の情報かニャ」
ティリアはそう話した。
当たり前だ、冒険者は情報の正確性を気にする。
黒曜銀級にまで上り詰めたティリアも、それに当てはまるだろう。
僕はシェラを見る。
見られていることに気がついたシェラは、ため息を漏らして、ティリアを見つめる。
「アーガスの情報だ」
「誰ニャ?」
シェラが出した名前に、ティリアは首を傾げる。
「シェラの親友であり、僕より先に再配置を経験している方です」
僕の言葉に、ティリアは目を輝かせる。
「ニャら、そいつも一緒に来てもらうニャ! 早く済むはず!」
「死んだよ」
ティリアの提案を冷たく切り捨てるように、シェラはそう呟いた。
シェラの瞳には光がなく、声は冷たかった。
「……ニャ……」
ティリアの耳が折れ曲がり、尻尾が地面に垂れ下がる。
分かりやすい。
彼女は俯いたまま何も言わず、静寂に包まれた。
「……とりあえず、情報はここで終わりになっています。逆に、分かりやすい位置にあるから記載しなかった……場合もあるかなと」
「あり得ない話じゃないが、過去から未来まで全部日記に記して頭に叩き込もうとするような男だぜぇ? 可能性は薄い気がするな」
僕の言葉に、シェラはそう答えた。
確かに、几帳面な部分もアーガスにはあったのかもしれない。
記せない理由があったのだろうか。
「記せない理由でもあったんでしょ」
ディジーがそう呟く。
その言葉に、シェラがため息を漏らした。
「例えば、なんだよ?」
「さぁね、知らないわよ。毎回場所が変わるとか、時間が変わるとか、何かあったんじゃないかい?」
ディジーが呟いたその言葉を、シェラは鼻で笑って小さく首を振った。
「はっ! 結局はわかんねぇじゃねぇか」
シェラがそう話すと、ディジーは不機嫌そうに唇を尖らせた。
直後、ティリアが口を開く。
「月には、特別な魔力があるって聞いたことがあるニャ。月の魔力が、魔物を隠すのかも」
ティリアの言葉で静寂が流れる。
「誰もわかんねぇよ。んなこと、寝るぞ、考えても意味がねぇ」
シェラはそう話して土の上で横になる。
地面につけた手のひらは、常に動けるようにか。
「東の果ての洞窟。アーガスは九十日以上あって、それでもしくじってる……」
「九十日……」
ティリアがその膨大な期間に目を見開く。
「ルインは、七日だ」
シェラは寝転がりながらそう呟く。
ディジーはため息を漏らし、ティリアは目を瞬かせた。
「休め、まだ長いだろ」
誰かが、何かを話す前に、シェラは会話を切り上げた。
まるで、思考を止めさせるように。
考えれば考えるほど鮮明になる絶望から目を背けるように、シェラは目を瞑る。
僕はシェラを見つめながら、静かに、だが強く喉を鳴らした。




