Episode:17 どうしますか?
ティリアは僕を睨む。
「何もんなんだニャ」
ティリアはそう話しながら、僕の体を見つめた。
足先から頭まで、そして頭から足先まで、隠すでもなく、分かりやすく観察していた。
「なんで戦えるニャ」
「あなたには何回も殺されましたから」
ティリアの言葉に、僕はそう答えた。
足から離した手を握り直し、力を抜く。
その光景を見ながら、ティリアは足首を撫でていた。
「そんな記憶はニャい」
「記憶以前に、死んでいたらここにいないって言いますよ、普通は」
僕のその言葉に、ティリアは視線を逸らす。
照れているのだろうか?
獣人は全身に毛が生えている。
顔が赤くなっても、毛皮のせいでよくわからなかった。
「で、どうしますか?」
僕がそう話すと、ティリアは首を傾げた。
いまだ瞳に残る警戒心、それでも話を聞く気になったのは大きな一歩と言えるだろう。
「仲間になるか、どうか。です」
僕の言葉に、ティリアは僕の背後に視線を向けた。
僕もそれに釣られるように振り向くと、不機嫌そうに頭を掻くシェラと、腕を組みながら銀髪を触っているディジーが視界に入った。
「アイツらには確認しなくていいのかニャ?」
ティリアは確かにそう話した。
出会い頭に短剣を振るう冒険者だったが、仲間の意見を聞く冷静さは持ち合わせているらしい、ますます冒険者狩りをしている理由が気になった。
「大丈夫です。あとで頭を下げます。再配置を止めるために集まってる」
僕の言葉に、ティリアは首を傾げた。
「再配置って、ニャに?」
僕はその言葉に、少し考える。
脳内で情報を整理し、工夫して話した方が伝わりやすいと思ったからだ。
「世界は同じ七日間を繰り返していると言ったら、信じますか?」
僕の言葉に、ティリアはさらに首を傾げた。
すでに直角に近い角度だ、尻尾がユラユラと揺れ、頭を使っていることがわかる。
「ティーちゃんは、繰り返してる?」
「あなただけじゃなく、世界丸ごと、すべてです」
僕がそう話すと、ティリアの眉が分かりやすく歪んだ。
「少し難しい、ですかね」
ティリアは刻を読めない。
一般教養がおそらくないのだろう、よく冒険者になれたな。
「――原因はニャにか分かっているのかニャ」
ティリアは思考を放棄していた。
理解が追いつかない事象に関しては、理解できない部分は無かったことにしてしまう性格らしい。
確かに、何度周回を重ねても、ティリアの切っ先にブレも迷いも無かった。
決断がブレることはあっても、決断に行き着くまでの過程は、ティリアにとっては迷う要素にはならないのだろう。
「まだ分かりません」
僕がそう話すと、シェラの声が背後から響く。
「東の果てに洞窟があるらしい。そこにいけば、何かわかるかもしれねぇ」
「それも推測に過ぎない……。確定要素とはまた違うでしょ」
シェラの言葉に、ディジーがため息を漏らしながら呟いた。
ディジーの返答に、シェラは少し眉間に皺を寄せる。
「あのなぁ」
「事実でしょ。取り敢えずついては来てみたけど、ルインが嘘をついているようには見えないってだけで、話した情報そのものを全て信じているわけじゃないの」
ディジーのもっともな返答に、場は静まり返る。
「まぁ、でも……昼間の嵐鳥の時の指示は適切で的確。さっきのティ……リア? との戦いだって圧倒してた。冒険者でもない子供が、土壇場で黒曜級を圧倒するなんて、そんな楽な世界じゃないのは理解しているつもりよ」
ディジーはそう話しながらため息を漏らし、近くの樹木に背を預ける。
シェラはそんなディジーを見つめて頭を掻いた。
「素直じゃねぇな。論理的に話して、理論的に語ったとしても、眼前の異常は変わらねぇぞ」
そう話したシェラを、ディジーは睨んだ。
「雰囲気は悪いけど、悪い人たちじゃありません」
僕がティリアに向き直ってそう話すと、ティリアは目を細めた。
「そうは見えないニャ」
ティリアの言葉に、僕は肩をすくめる。
そして、僕は立ち上がった。
「で、どうしますか?」
僕がそう話すと、ティリアはシェラとディジーを見つめる。
「見ればわかる。強い……強いニャ。あんな冒険者を、どうやって仲間に?」
僕に向かって、ティリアはそう投げかけた。
その問いに、僕は正直に答えた。
「蜥蜴人のシェラは親友のため」
僕がそう話すとシェラは右手をヒラヒラと翻した。
「褐樹人のディジーは知識のため」
僕の言葉に、ディジは目を背ける。
ティリアはそれを聞いて、僕を見つめた。
「僕は、大切な人のために」
その言葉を聞いて、ティリアは目を見開いた。
桃色の瞳が潤み、僕を見つめる。
「大切な……人?」
「はい。母親と、もう一人……どうしても守りたい人がいるんです」
そう話すと、ティリアは喉を鳴らした。
「か…………く」
「はい?」
「家族……の為でも、見返りが家族でも、ティーちゃんはそこに入って問題ニャい?」
目を潤ませながらそう話すティリアに、僕は頷いた。
「はい。何があったかは後日聞きます。話したくないのであれば話さなくて構いません」
鼻を啜る音と共に、ティリアは僕を見つめる。
「役に立つニャ。必ず」
「待ってました」
ティリアの決断に僕はそう言って右手を差し出す。
ティリアは、差し出された手をしっかりと掴んだ。




