表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/147

Episode:14 遺される者たち

 ――シェラ


 ルインは、血溜まりの中でただ立ち尽くしていた。


「ルイン……大丈夫か?」


 俺の声に、ルインは視線を俺に向ける。

 表情があまりない、アーガスにもこんな刻があったのだろうか。


「――おい」


 俺がそう呟いた瞬間、ルインの足が動き出した。

 ルインはバシャッと血を踏み、獣人(アニマ)を通り過ぎ、切断された尻尾に手を伸ばす。


 彼はゆっくりと短剣を拾い上げ、獣人を見て眉を歪めた。


「シェラ」


「な、なんだ」


 初戦闘で血溜まりの中にいるのに、異様にハッキリとした声に、俺は少しばかり喉を鳴らした。

 俺の言葉に、ルインは血溜まりに膝をつき、獣人の雑嚢を漁る。

 そして取り出したのは、黒曜銀級の等級章だった。


「これ、彼女のでしょうか?」


 ルインの質問に、俺は歩き出す。


「裏になんか書いてねぇか? 身分証の役割も果たしてる、薄く名前が刻まれてるはずだ」


 俺がそう話すと、ルインは等級章を裏返して指で擦る。


「どうだ?」


「削れていてよくわかりません。ティリ……ト?」


 ルインはそう話した後、等級章を近くの地面に置き、さらに雑嚢を漁った。


「確か……あ、あった」


 そう言いながらルインが取り出したのは、金色の懐中時計だった。


「これになら、何か書いてあるかもしれません。前回、獣人の彼女が大事そうに持っていました」


 ルインはそう話して、懐中時計を開く。

 そして、眉を歪めた。

 怒りにも近い、後悔だろうか。


「どうした」


「いや……。見たくないものを見たなと思いまして」


 俺の言葉に、ルインは懐中時計をこちらに投げる。

 俺はそれを受け取り、蓋を開いた。

 見た目は普通の懐中時計だ。蓋の方に写真があること以外は、普通だった。


「家族……か?」


 俺はそう話しながら、針が揺れる時計を見る。


「……針が固定されてねぇ。壊れてんじゃねぇか」


 そう話すと、ルインはさらに顔を歪め、ため息を漏らす。

 

「前々回、彼女は懐中時計を見て、刻が読めないと言っていました。まさか、壊れていたなんて」


「大事な人からの贈り物だったんだろう」


 ルインの言葉に、ディジーがそう答えた。

 大切な人……。

 冒険者にだって家族はいる。

 ルインにも、ディジーにも、もちろん俺にも。

 

「ティリア・ファレット……」


 俺は懐中時計の円盤に刻まれた小さく、不恰好な文字を読む。

 おそらく、既製品の円盤に家族の誰かが刻んだのだろう。

 下手くそで、刻まれた文字は震えている。

 蛇のように蛇行しながら、力加減さえもできない素人が刻んだものだと、一目でわかった。


「この人は、悪い人だったんでしょうか?」


 懐中時計に目を落とす俺の耳に、ルインのそんな声が入る。

 俺は視線を上げ、ルインを見た。


「何が言いたい?」


 俺は低く呟く。

 疑うのは正しい。

 だが、今のルインは、敵に情を抱いている。

 今後それが続くとしたら、危険な綱渡りになるのは明白だった。


 俺の言葉に、ルインは血溜まりの中に置いたティリアの等級章を持つ。


 チャリッ


 そんな音が鳴り、ゆらゆらと揺れる黒曜銀級の等級章からは、血が滴っていた。


「黒曜銀級の等級章です」


「……そうだな」


 ルインの話した言葉に、俺は小さく絞り出した。


「いつか忘れましたが、シェラが言いました。冒険者は依頼者からの信頼が必要。等級を上げるのは楽じゃないし、等級が高いのは、信頼が厚い証拠でもあると……。つまり、この人は、それだけ冒険者として人望があった人ですよね?」


「何が……言いたい?」


 ルインの言葉に、俺は彼を睨む。

 身体は小さく、経験も浅い。

 だが、覚悟だけは人一倍ある青年を、俺は睨んでいた。


「そんな人が、冒険者狩りなんてしますかね」


 ルインはそう話しながら、ゆっくりと立ち上がる。

 左手にはあの魔剣が握られていた。


「確かめて、価値があるのか。やっと掴み取った勝利だろ? オメェにとって、それだけの価値があんのかよ」


「ルイン、その魔剣を置くんだ。言いたいことは分かる。でもね、死んだ奴の事情を考慮してやるほど、今のアタシたちに、アンタに、余裕はないんだよ」


 俺が話した言葉に続けるように、ディジーが諭すように話す。

 それでも、ルインの左手は徐々に上がっていく。


「……遺された俺たちはどうするんだ! オメェを信じてここまで来た、見捨てるつもりか? 用済みってか? ふざけんなクソが!」


「ルイン……やめるんだ。まだやり直せる! どうせ今回じゃ無理なのだろう!? アンタの話を聞いていれば分かる、何回も繰り返したんだろ!? 今回で全て終わるなんて、アンタ自身も考えてないはずだ! なら、七日後まで……」


 俺とディジーがそう話すと、ルインはゆっくりこちらに体を向ける。

 魔剣はすでに首筋に当てられていた。


 アーガスは死んだ。

 自決だ、自殺だ。

 また、俺は……。


「間違ってるんです。きっと、これは違う。例えここで死んでも、これは違う」


 ルインは深呼吸をしながら、俺たちを睨む。

 そして、ニヤリと笑った。


「手を伸ばせば届くものは、助けます……」


 ルインがそう呟いた後、鮮血が舞った。


「クソが! ルイン!」


「全く!」


 俺とディジーは走り出していた。

 倒れる青年の身体を受け止めるため、走り出していた。


「クソ、クソ……クソクソクソ!」


 ルインの体を抱き抱え、傷口に手を当てる。


「血が、血が止まんねぇ!」


「シェラ、血に触るんじゃないよ! 毒と腐敗が体に回るかもしれない!」


 場は混沌とする。

 焦る俺と、焦りながらも生きてる者の安全を確保しようとするディジー……。


「逝かせねぇ……逝かせねぇぞ!」


 細かく痙攣するルインの体は、次第に動かなくなる。

 ディジーはそれを確認して、俺の肩に手を置いた。


「もう、手遅れだ。ほんと……覚悟の決まった子供だよ……。再配置があるからって、首切るかい? 普通」


 ディジーはそう言いながら地面に腰を下ろす。


「は……はは……」


 ディジーは額に右手を置き、髪をかきあげながら力無く乾いた笑いを見せる。

 そして……。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ディジーは狂ったように叫んだ。

 助けられなかった後悔か、最善を尽くせなかった自身に対しての自責か。

 それはわからない。


 俺は、腐っていくルインの身体を見下ろしながら舌打ちをする。

 その音は、闇の中に消えた。


 彼の家は知らない。

 王都に行けば分かるだろう。

 だが、崩れている身体を持ち帰るのか?

 無理だ、現実的じゃない。


「――クソッ」


 俺はそう呟いて、ディジーの腕を掴む。


「――っな! シェラ!?」


「帰るぞ……王都。俺様達は、俺様達の過ごし方をするんだ」


 俺はそう話し、ディジーを引きずるように歩き出した。


 そして七日後……。

 星空は白く染まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ