Episode:12 求めるもの
ベッドの上で目を覚ます。
体を起こし、首を撫でた。
自決、自殺。
初めてだった、自身の首を切り、自身を殺すことになるとは思わなかった。
僕は震える体をゆっくりと抱き、深呼吸をする。
短剣の刃の温度が、まだ首に残っている気がした。
怖かった。
死に対する恐怖と、想像出来てしまう痛み。
短剣を動かす勇気。
自殺は想像していたより遥かに恐怖を生み、死ぬことは想像していたより遥かに簡単だった。
「ルイン! 起きなさい!」
母親の声が階下から響き、僕はベッドから降りて制服の袖に腕を通す。
着替えが終わった後、階下に行きリビングにいる母親に声をかけた。
「行ってきます」
「朝ごはんは?」
僕の言葉に、母親が首を傾げながら話した。
その母親の問いに、僕は小さく首を振る。
「大丈夫。それとさ、少し帰らなくなる。王都の祭り前には帰ってくるから、必ず」
僕がそう話すと、母親は傾げた首を更に傾げ、骨がなる。
「大事なこと?」
「うん、まぁね」
母親の問いに僕がそう答えると、母親は細かく頷きながら僕から視線を逸らし、背中を向ける。
「いいけど、気をつけなさいよ」
何もないように、まるで気にしていないように、母親は軽く言って見せた。
だが、その声は少し震えている、そのことに母親自身が気がついているかは定かではない。
「行ってきます」
僕はそう言ってリビングを出た。
背中に母親の声はない。
それでも、歩むことを決めたのだ。
玄関で靴を履き、扉を開ける。
差し込む日差しに目を細め、広がる草原に目を向けた。
「おはよう、エヴァ」
「遅いよ、ルイン」
自宅の前には、幼馴染のエヴァが立っていた。
僕が出てくるのを待っていたのだろう、額には少しの汗が滲み、頬が少しだけ赤いような気がする。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!」
エヴァはそう言って苦笑いをした。
前回は、前々回の再配置ではわからなかった。
慣れと共に、視野が広がっているのか。
「そっか、じゃあ行こ。今日は暑いし、早く学校行きたい」
僕はそう話し、先に歩き出す。
今日は暑い……か、僕からしたら、今日も暑い。なんだが、世界が繰り返しているなど言えるはずがない。
本当に、笑える。
エヴァと共に歩き出し、王都に着く、知っている日常を送り、そして、あの場所に足を下ろした。
空には星、横には蜥蜴人と、褐樹人がいる。
「ルイン、本当にここで合ってるのかい?」
「はい、間違いありません。僕たちは、ここで死んだ」
僕が話すと、ディジーは口を噤む。
どんよりと重苦しい空気が場に流れ、静まり返った。
「相手が使う獲物は魔剣。ディスピルの毒と腐敗の魔剣です。当たれば死ぬ、一斬必殺の刃を保有しています」
僕のその言葉に、シェラはニヤリと笑った。
爬虫類特有の鋭い瞳孔、色彩豊かな眼球が動き、周りを見渡す。
「獣人で、略奪者ねぇ?」
シェラがそう話す。
その表情からは闘争心が容易に読み取れた。
「いいですか? 今回の作戦は説明した通りです。ディジーの魔剣を補助、本命はシェラの怪力を使った剣。魔剣を隠す目的として、銀騎士は派手に囮にします」
「あぁ、わかった」
僕が話した段取りに、シェラは楽しそうに笑って見せた。
「黒曜金の召喚魔術と、魔剣が囮なんて、贅沢な使い方だね」
「戦闘が長引けば、一斬必殺の向こうが有利になります。なるべく早く、殺すのが最善です」
そう話すと、ディジーはため息を漏らしながらも、僕の提案した段取りを小さく呟く。
パキッ
夜の闇の中から、枝を折る音が響く。
「マジで枝が折れる音がしたな」
「半信半疑だったけど……これは……」
シェラとディジーは、あらかじめ伝えられていた敵の合図を聞き、顔が引き攣る。
知らない現象を目の当たりにしているんだ、無理もない。
「来ますよ」
僕がそう呟いた直後、視界の真ん中で闇が揺れた。




