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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

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Episode:9 略奪者

 横になっているディジーを見つめ、僕はため息を漏らす。


「こいつ、すげぇな」


 そんな彼女を見たシェラは、そう呟いた。


「どうしてですか?」


「多少の程度はあるだろうが、冒険者ってのは疑い深い。初対面の人間を目の前に、無防備な姿になってること自体が珍しい。座って寝るとかならまだわかるがな」


 シェラはそう話した。

 その言葉を聞いて、僕はディジーのことを思い出す。

 前回、前々回と、死ぬ間際は僕を助けようとしていた。

 戦いも放棄せず、逃げなかった。

 警戒はあるが、根は優しいのだろう。


「シェラも休んでください」


 僕がそう話すと、シェラは小さく首を振り、ため息混じりに僕を見た。


「オメェの方が休んだほうがいい、子供に旅は疲れるだろ」


「もう十五です。成人してますよ」


 シェラの言葉に僕がそう答えると、彼はため息を漏らした。


「それに、寝れる気がしません」


 そう答えた僕を、シェラは見つめる。

 悲しそうな瞳、それに加え、申し訳ない気持ちも感じ取れた。


「そうか、じゃあ俺は休むわ」


 シェラはそう話し、炎から離れた木の下に座り込む。

 そしてすぐに、目を閉じた。


 直後だった、衣擦れの音が聞こえ、視線を向けると、ディジーが身体を起こしていた。

 目を擦り、僕を見つめる。

 警戒心に溢れていた数刻前とは比べ物にならないほど、優しい顔をしていた。


「眠れないのかい?」


「見張りです」


 僕はそう言ってゆっくり歩き出す。

 その背中に、ディジーは言葉を投げてきた。


「待ちな」


 短いその言葉に、僕は振り返る。


「なんですか?」


「こっち来な」


 ディジーの言葉に僕は少し考え、ため息を漏らしながらゆっくりとディジーの元へ歩く。

 ディジーは立ち上がり、服についた土を叩きながら僕を見ていた。

 そして、距離が近くなった直後、少しの甘い匂いと、微かな汗の匂い。

 それと、温もりに身が包まれた。


「――ディジー?」


 僕は喉から振り絞る。

 状況の把握ができない。いや出来ている、抱きしめられたのだ。


「あの……」


「いいから」


 僕の言葉を遮るように、ディジーは話す。

 そして、髪を撫でた。


「何があったかは分からない。もちろん、アタシもまだアンタを信用したわけじゃない。でもさ……あの殺気だった目を見たら、何を見てきたかの想像はつく、アタシだってこの等級になるまでに色々見てきた、耐えたものも、耐えられなかったものもある……。アンタは、子供なのにそれを見てる、そんな気がするんだ」


 ディジーは小さくそう呟いた。

 その言葉に、唇が震える。

 視界にあったはずの銀髪が、潤んだ視界で曖昧になる。


「ディジー……。僕……」


「大丈夫、アンタ達が、子供が、一般の人間が泣かないように、アタシ達冒険者がいるんだよ。たった一人と子供の笑顔を守れなくて、冒険者を語れない」


 ディジーはそう言って、僕を抱きしめる力を強めた。


 パキッ


 優しさが溢れる夜の世界に、枝の割れる音が小さく響いた。

 ディジーはゆっくりと身体を離し、警戒心を強める。

 闇を見つめながら、歩き、眠っているシェラの身体を足先で突いて声をかけていた。


 僕は闇を見つめる。

 来たのだ、あいつが。


 ディジーに起こされたシェラが、ゆっくりと立ち上がり首の骨を鳴らす。


「来たか?」


 シェラの低い呟きに、僕は頷いた。

 

 直後、木々が溢れる闇の中から、高い声が響いた。


「おかしいニャ。なんで冒険者じゃないおミャえから、一番警戒心が溢れてるニャ? なんで殺気が溢れてるニャ?」


 炎で弾ける枝の音と共に、漆黒の人影が現れる。

 赤黒い短剣の切っ先を僕に向け、ニヤリと牙を見せた。


「ティーちゃんの存在に、初めから気づいていたみたいに、視線をグルグルグルグルと……。おかげで少し疲れたニャ」


 軽い口調。

 シェラとディジーは、略奪者(ハーラッシュ)と僕を見つめ、開始の合図を待っているようだった。


「えぇ、初めから分かっていました。僕はあなたに恨みがある、警戒もします」


 僕はそう呟き、彼女を睨む。


「お願いです。ここで大人しく……僕たちに殺されてください」


 僕がそう話すと、彼女は少し驚いた様子を漂わせたが、すぐに腰を落とす。

 そして、ニヤリと笑い、牙を見せた。


「――悪いけど……。そのお願いはちょっと、聞いてあげられなそうニャ!」


 そう叫んで、軽い足音からは連想できないほどの土煙を巻き上げ、駆け抜けた。

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