Episode:9 略奪者
横になっているディジーを見つめ、僕はため息を漏らす。
「こいつ、すげぇな」
そんな彼女を見たシェラは、そう呟いた。
「どうしてですか?」
「多少の程度はあるだろうが、冒険者ってのは疑い深い。初対面の人間を目の前に、無防備な姿になってること自体が珍しい。座って寝るとかならまだわかるがな」
シェラはそう話した。
その言葉を聞いて、僕はディジーのことを思い出す。
前回、前々回と、死ぬ間際は僕を助けようとしていた。
戦いも放棄せず、逃げなかった。
警戒はあるが、根は優しいのだろう。
「シェラも休んでください」
僕がそう話すと、シェラは小さく首を振り、ため息混じりに僕を見た。
「オメェの方が休んだほうがいい、子供に旅は疲れるだろ」
「もう十五です。成人してますよ」
シェラの言葉に僕がそう答えると、彼はため息を漏らした。
「それに、寝れる気がしません」
そう答えた僕を、シェラは見つめる。
悲しそうな瞳、それに加え、申し訳ない気持ちも感じ取れた。
「そうか、じゃあ俺は休むわ」
シェラはそう話し、炎から離れた木の下に座り込む。
そしてすぐに、目を閉じた。
直後だった、衣擦れの音が聞こえ、視線を向けると、ディジーが身体を起こしていた。
目を擦り、僕を見つめる。
警戒心に溢れていた数刻前とは比べ物にならないほど、優しい顔をしていた。
「眠れないのかい?」
「見張りです」
僕はそう言ってゆっくり歩き出す。
その背中に、ディジーは言葉を投げてきた。
「待ちな」
短いその言葉に、僕は振り返る。
「なんですか?」
「こっち来な」
ディジーの言葉に僕は少し考え、ため息を漏らしながらゆっくりとディジーの元へ歩く。
ディジーは立ち上がり、服についた土を叩きながら僕を見ていた。
そして、距離が近くなった直後、少しの甘い匂いと、微かな汗の匂い。
それと、温もりに身が包まれた。
「――ディジー?」
僕は喉から振り絞る。
状況の把握ができない。いや出来ている、抱きしめられたのだ。
「あの……」
「いいから」
僕の言葉を遮るように、ディジーは話す。
そして、髪を撫でた。
「何があったかは分からない。もちろん、アタシもまだアンタを信用したわけじゃない。でもさ……あの殺気だった目を見たら、何を見てきたかの想像はつく、アタシだってこの等級になるまでに色々見てきた、耐えたものも、耐えられなかったものもある……。アンタは、子供なのにそれを見てる、そんな気がするんだ」
ディジーは小さくそう呟いた。
その言葉に、唇が震える。
視界にあったはずの銀髪が、潤んだ視界で曖昧になる。
「ディジー……。僕……」
「大丈夫、アンタ達が、子供が、一般の人間が泣かないように、アタシ達冒険者がいるんだよ。たった一人と子供の笑顔を守れなくて、冒険者を語れない」
ディジーはそう言って、僕を抱きしめる力を強めた。
パキッ
優しさが溢れる夜の世界に、枝の割れる音が小さく響いた。
ディジーはゆっくりと身体を離し、警戒心を強める。
闇を見つめながら、歩き、眠っているシェラの身体を足先で突いて声をかけていた。
僕は闇を見つめる。
来たのだ、あいつが。
ディジーに起こされたシェラが、ゆっくりと立ち上がり首の骨を鳴らす。
「来たか?」
シェラの低い呟きに、僕は頷いた。
直後、木々が溢れる闇の中から、高い声が響いた。
「おかしいニャ。なんで冒険者じゃないおミャえから、一番警戒心が溢れてるニャ? なんで殺気が溢れてるニャ?」
炎で弾ける枝の音と共に、漆黒の人影が現れる。
赤黒い短剣の切っ先を僕に向け、ニヤリと牙を見せた。
「ティーちゃんの存在に、初めから気づいていたみたいに、視線をグルグルグルグルと……。おかげで少し疲れたニャ」
軽い口調。
シェラとディジーは、略奪者と僕を見つめ、開始の合図を待っているようだった。
「えぇ、初めから分かっていました。僕はあなたに恨みがある、警戒もします」
僕はそう呟き、彼女を睨む。
「お願いです。ここで大人しく……僕たちに殺されてください」
僕がそう話すと、彼女は少し驚いた様子を漂わせたが、すぐに腰を落とす。
そして、ニヤリと笑い、牙を見せた。
「――悪いけど……。そのお願いはちょっと、聞いてあげられなそうニャ!」
そう叫んで、軽い足音からは連想できないほどの土煙を巻き上げ、駆け抜けた。




