Episode:8 合言葉
王都の外、僕たちは街道を歩く。
嵐鳥の群れを退け、ただ歩いていた。
「数やばかったな」
シェラがそう話す。
頭から水を被り、脳を冷やしているようだ。
「にしても、ルイン。アンタ、どこまで知ってるんだい?」
そう話しながら、ディジーは僕を見つめた。
「さっきのバリス、確かに数は多かった。でも、戦いやすいと言うか……」
「指示が的確だった。魔術の発動する間も完璧だった。やるじゃねぇか」
ディジーの言葉の続きを話すように、シェラが呟いた。
その顔はすごく満足げで、優しく笑う。
「ありがとうございます。まぁ、一度やっていますので」
僕がそう話すと、シェラは腕を組み唸る。
「たった一回であそこまで出来るなら、上等じゃねぇか」
シェラはそう話した。
「シェラ、ディジー、尾行などはありませんか?」
僕の言葉に、シェラとディジーは視線を巡らせる。
そして、ため息を漏らした。
「なぁ、ルイン。オメェに言われた通り、しっかり警戒してるが、誰もついてきちゃいねぇ。もういいんじゃねぇか?」
「ダメです、前回の略奪者は、全く気が付かなかったんです。警戒して、何もないなら、それが一番いい」
僕が発した至極当然な意見に、シェラは居心地が悪そうに口を歪めた。
空は徐々に暗くなり、シェラが口を開く。
「野営するか。薪は、俺が集めるわ」
「僕も行きます」
「アタシは先に休ませてもらうよ」
シェラの言葉に、僕は頷き彼に近寄る。
ディジーは前回同様、先に地面に座っていた。
ディジーの姿が常に視界に入り、さほど遠くもない場所で、僕とシェラは乾いた枝を集める、
静かな夜、空にはすでに星が輝いていた。
「シェラ、そろそろ戻りませんか?」
僕がそう言うと、シェラは動きを止めて周りを見る。
「だぁ……そうだな。戻るか」
シェラはそう話し、身体を起こす。
そしてゆっくりと歩き出した。
僕は彼の大きい歩幅に合わせるように、足早に歩き、横に並んだ。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「あぁ?」
僕の言葉に、シェラは眉を上げて面倒くさそうに返事をする。
その態度に思うところはあるが、まぁいいか。と話を続ける。
「エリクト……あれはどんな意味なんですか?」
「あぁ? あぁ、意味なんかねぇよ。ただの合言葉だ」
シェラはそう答えた。
その言葉に、僕は首を傾げる。
「前回のシェラは、エリクトと俺様に言えと、そう言っていました。だから、あなたに声をかけた」
僕がそう話すと、シェラはゆっくりと口を開く。
「あれは、いわゆる俺様だけの言葉だ。俺様作り出した意味を持たない言葉、でも、俺様しか知らない言葉を、誰かが言えたら、ソイツはきっと繰り返してる」
シェラはそう話した。
確かに、納得のできる話だった。
完全なる造語、自身しか知らない言葉を合言葉のすることで、誰かが話した際に再配置を疑える。
再配置で親友を失ったシェラが考え抜いたのは、自身の後悔と、助けたいと言う願いが生んだ、短い言葉だった。
「さ、早くしようぜ」
シェラはそう言って、薪を地面に置く。
「よし、後は火をつけるだけ……」
僕は右手を薪に近づけ、魔術の詠唱を行う。
小さな火が放たれ、音を鳴らしながら薪を燃やす。
枝が割れ、弾ける音が響き、僕は深呼吸をした。
次は……。
僕は、あたりに広がる森を、鋭く睨んだ。




