Episode:7 開示
ニヤリと、狂気的な笑みを浮かべたシェラを見て、僕は少しだけ考える。
言おうか迷ったが、言うことにした。
「盛り上がってるとこ悪いですが、正直、僕とシェラは、あの獣人と相性が悪いです」
その言葉に、シェラは眉を歪める。
「あ? なんでだよ」
「まず速度。僕は反応できませんでした……。シェラの持つ大曲剣は、大振りかつ遅い。一撃一撃は強いですが、軌道が読みやすく、回避がしやすい。もちろん、あの獣人の技量ですが」
そう話すと、シェラは唸る。
反論できない。
シェラは僕が再配置の経験者と理解している、僕が話していることが嘘ではないと仮定した場合、情報の正当性は僕が一段上だ。
「だが、受けながらでも叩き切れる」
「問題はそこです」
僕の言葉に、シェラに続いてディジーも眉を歪める。
「なぜだい?」
ディジーの声に、僕は耳を傾け、視線を彼女に向けた。
「略奪者は、魔剣を保有しています。一斬必殺。一撃当たれば傷の深さに関係なく死亡する魔剣です」
そう話した僕の言葉に、場の空気が少しだけ冷えた。
冒険者ならわかるはずだ。
普通は、動きを見て最適解を導く、駆け引きの中で突破口を見出し、生き残る未来に向けて最善を尽くす。
だが、駆け引きさえも出来ずに殺されるかもしれない未来があるとしたら、怖気付くのも仕方がない。
「参考までに、魔剣がなんなのか教えてくれるかい?」
ディジーはそう言いながら腕を組む。
完全に信用したわけではなさそうだが、一先ず話は聞く。この姿勢は守っているようだ。
「ディスピルの毒と腐敗の魔剣」
僕がそう話すと、シェラとディジーの顔があからさまに歪んだ。
「ディスピル……アイツの素材から作られた魔剣か……」
シェラは少し困ったように唸る。
「ディスピルとは、どんな魔物なんですか?」
僕のその問いに答えたのは、ディジーだった。
「蠍型の魔物で、毒針に毒と、物質を腐らせる特別な液を保有してる。最低でも黒曜銀級じゃないと、依頼を受ける許可すら下りない。一人で討伐しに行くなんて、もっとありえない……それに……」
ディジーは少し考えるように目を伏せ、一瞬だけシェラを見た。
シェラもその視線に気がつき、腕を組む。
そして、口を開いた。
「近接職は役に立たない」
シェラはゆっくりと、そう呟いた。
僕はその言葉に首を傾げる。
「ディスピルはまだ謎が多くてな。纏う甲殻全体に毒を保有し、腐敗液は尻尾の毒針にのみ存在するって言われてんだ。その証拠に、甲殻を砕くと、毒が霧状になって散らばる。それを吸えば死んじまうから、近接職は役に立たないんだ」
シェラはそう話した。
剣士としての意地も、圧倒的な力の前では感じることすら許されないのか。
「勝ち目はなし……か。他に情報があればいいんだけどね?」
ディジーは腕を組み、頬をかきながらそう話す。
その言葉に、僕は小さく呟いた。
「そういえば、召喚魔術師は相性が悪いって言ってました」
その言葉を聞いて、シェラとディジーは目を合わせる。
そして、一つの結論を導き出した。
「魔剣は、製造の過程で元より弱体化する。おそらく、無機物には腐敗が効かないんだ」
ディジーはそう言った。
「なら、鍵はアタシの召喚魔術だね」
そう話したディジーに、シェラは静かに呟く。
「魔剣を叩き折るのは?」
シェラの提案に、ディジーは首を振る。
ディジーのその反応に、眉を歪めた。
「ディスピルの甲殻の件がある以上、事前情報なしに叩き割るのは良い策とは言えないね。範囲が狭くても、毒が散布される可能性を捨てきれない」
ディジーはそう話した。
場が静まり返る。
最善策がない、あったとしても賭けになる。
「アタシの召喚魔術を基盤に、無傷で相手をねじ伏せる。そんな策を考えなくちゃ」
簡単に言ってみせたディジーだが、その表情は暗く、全員がそれを読み取っていた。
「取り敢えず、歩くよ」
「強力してくれるんですか?」
誰よりも先に校内の階段を降り始めるディジーの背中を見て、僕はそう問う。
そんな問いに、ディジーは振り返ることなく、左手を翻しながら口を開いた。
「嘘をついているようには見えないし、冒険者でもないアンタが、ディスピルの名前を知ってるとは思えない。魔法は学校で習うが、魔物の知識は、教育にはないだろう?」
ディジーはそう言いながら階段を降っていく。
そんな後ろ姿を見た後、僕とシェラは見つめ合い、やがて小さな笑みを浮かべた。
そして、彼女に続くように歩き出す。




