Episode:5 意思
校舎についた僕は、校内を歩き、目的の人物を探す。
それは褐樹人のディジーだった。
遭遇する場所は、シェラもディジーも同じ。
刻が少しだけ違くて、ディジーのほうが少しだけ早い。
だから、僕は壁に寄りかかりながら、目的の人物が来るのを待った。
「――はぁ、まだかな」
刻的には問題ない、だから、焦っているのだろう。
僕自身が持つ焦りが、感覚的な刻を歪めている。
感じとっている感覚が、今までと少しばかり違う。
そして、軽やかな足音と共に、長い銀髪と漆黒の外套が視界の端に映った。
僕はその背中を追いかけ、声をかける。
「すいません」
僕の言葉に、ディジーは振り返り、僕の顔を見てから目を細めた。
切れ長の紫色の瞳が僕を睨む。
警戒の色は溢れ、口角が少しばかり上がっていた。
「なんだい? しょうね……ん」
僕の顔をしっかりとみたディジーの顔は、目を見開き、警戒から恐怖にも似た表情を浮かべた。
「――アタシら知り合いかい? 子供に恨まれるような事をした覚えはないんだけど」
ディジーは少し顔を引き攣らせ、そう呟いた。
僕がどんな表情をしていたのかは分からないが、黒曜金級の顔を歪ませるほど異常だったのは、想像に難くない。
「興奮してんのかい? 深呼吸しな、死が間近にある以外で、そんなに瞳孔が開いてる人間を見るのは初めてだよ」
そう言いながら、ディジーは外套の中から水袋を取り出し、僕に手渡す。
僕は静かに受け取って、水袋の栓を抜いて一口飲み込んだ。
「……っはぁ。すいません、少し落ち着きました。場所を変えて、話しませんか?」
「あ、あぁ」
僕は水袋をディジーに返しながら話す。
以前の彼女なら、いや。
前回の彼女なら、警戒してついてこなかっただろう。
あっさりついてきた所を見ると、僕の中の何かが見えてるのか……。
「ここでいいです」
「ここって……ほんの少ししか歩いてないじゃないかい。階も変わらないし、廊下の真ん中付近から、端に移動しただけじゃないかい」
僕の言葉に、ディジーはそう答えた。
確かに間違っていない。
だが、シェラが問題を起こした……いや、問題を解決した階でもある、ここから移動するほうが効率は悪い。
それに、初めてディジーと出会った時も、この階だ。
「構いません。もう一人、蜥蜴人を待っているんで。単刀直入に言います、仲間になってください」
僕がそう話すと、ディジーは目を見開く。
そして、鼻で笑うように話した。
「――っは。出会って一言二言しか話してないじゃないか、アンタに……ましてや子供なんかにアタシの何がわかるってんだい、アタシが冒険者かどうかもわかってないだろうに」
ディジーは手をあげ、呆れたように首を振りながらそう話した。
その顔を、僕はしっかりと見つめる。
僕の表情をみたディジーは喉を鳴らし、ゆっくりと手を下ろした。
「ディジー・ミリアム」
僕がそう呟くと、ディジーは目を見開く。
「な、なんでアタシの名前を……」
「黒曜金級の冒険者で、得意魔術は召喚。数多の魔具を外套の中に隠し、魔剣さえ保有している。魔剣の名前は確か……バシフィールの凍結の魔剣」
僕がそう話すと、ディジーは一歩引き、外套に手を入れる。
そして、歯を鳴らした。
「なんで、そんなことまで知っているんだい?
アンタは……敵なのかい」
「言ったじゃないですか、僕の……仲間になってくださいと――」
僕が答えると、ディジーはさらに目を見開いた。
話していたことが本当の確証がない、これだけの情報を知っているなら急襲もできた、なのに行わず、仲間になる打診をしている僕の言葉を、やっと理解したのだろう。
直後、彼女の背後にもう一人の目的が現れるわ、
騒々しくなった背後に、ディジーは振り返り、状況を把握しようと視線を巡らせる。
「やっときた」
僕がそう呟くて、ディジーは一度僕をみて、再度騒がしい人混みに視線を向けて呟いた。
「――蜥蜴人」
ディジーはそう呟いた。
僕は驚いた様子のディジーを見て、ゆっくりと口を開いた。
「シェラ!」
僕がそう叫んだ直後のことだ。
人混みから、真っ直ぐに僕の元に歩いてくる。
僕はシェラから一切目を逸らさず、彼の姿を視界に収め、重い足音をただ聞いていた。
「俺様を呼んだのはオメェか? あんちゃん」
「はい僕です」
シェラはディジーを一瞥し、横を通り過ぎて僕の前に立つ。
小さな僕を見下ろし、ニヤリと笑って牙を見せる。
「なんか用か? 子供に呼ばれるこたぁしてねぇ」
「エリクト」
シェラが呟いた直後に、脈絡なく合言葉を話したが、彼の耳にはしっかり届いていたらしい。
僕を見下ろし、威圧に満ちた表情が困惑に変わり、次第に落ち着きを取り戻す。
直後、シェラは深呼吸をして、僕を見つめた。
そして……。
「オメェ、名前は? それと……今何回目だ?」
シェラは僕にそう話した。
「僕はルイン……。今は、何回目かはわかりません。まだ十回は多分ないかと」
「わかった」
僕が答えると、シェラは頷く。
前回、死ぬ前にシェラが話していたエリクトこれには、どんな意味があるのだろう。
「あ、アンタらなんの話をしてんだい!」
ディジーが焦ったように話す。
その声色には、怯えに似た感情が含まれていた。
そんなディジーを、僕とシェラは見つめる。
そして一言、僕は呟いた。
「今から話します」
僕のその声に、ディジーは喉を強く鳴らした。




