第七話-4 結局のところ、笑って死ねるのなら。-極彩地獄胸塞ラヴェンツァ
ハム(私)……この物語の主人公。生まれと頭と性格が悪く、顔は良い。恩人を刺した人でなし。
レオンハルト……ユウシャ。自己犠牲的に、心に闇を抱えたハーレムの女たちに尽くす。
クラリティ…..マ王種と呼ばれる人類の天敵。レオンに及ばない程度の強大な力を持つが、人心に疎く追放された。
ケイオス……人間とアバッズレ(サキュバス)の混血で、真面目な性格。社会的に支配下にある相手を実際に洗脳できる。
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世の中には救われるべきではない人間がいる___
少なくとも私はそこに該当する。
なのに、あなたは私に手を差し伸べてしまった。何が悪いかも正しいかも分からなくて、救われる準備すらできていない私を。
もう、十分なものをもらいました。あなたにもらったものを、ほんの一部だけでも返させてください。
そして私は、地獄へ落ちてゆきますから。
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透明な鎖に引かれるような道のりだった。憎しみ?恨み?そういうものが私を彼女らの元へと辿り着かせてくれた。
魔王名代クラリティ。その従者にして、私を洗脳した半魔ケイオス。彼らとレオンが向かい合っている。
クラリティは柔らかな体のラインから察するに、近接戦闘が不得手に見えた。だからレオンは必死に接近する機会を探っているが、『黒点』のような超高熱のレーザに牽制され近づけないでいる。私のそばにあった鉄線が余波で焼かれ、無機物のくせに腐って溶けていく。見ているだけで目を、脳を焼かれてしまいそうな『英雄たち』の争い。私も、そうあれたらよかったのに。
膠着状態に見えるが、レオンの動きは明らかに精彩を欠き、クラリティは余裕を持って構えている。原因は明らかだ。私がレオンに突き立てた刃。彼が激しく動くたび、胸から出血している。加えて庇った際のものなのか、髪があるべき部位が黒く焼けついている。
本来、すぐに治療にかかるべき致命傷なだ。それを引きずってまで、魔王の名代と対決している。
レオンを何とか逃そう……と思った。それができなくても、一瞬の隙を作るくらいのことはやりたい、と。
私は罪人だ。愚鈍で脳が足りないだけではなく、償いようのない罪まで背負ってしまった。プリムが、罪のない人々が死んだのは私の責任だ。洗脳なんて言い訳はしない。私の心の醜さが招いたこと。
見計らって、ざっと、一歩を踏み出した。こういうときの立ち振る舞いなんて全くわからないので、テンプレな悪人っぽくナイフとか舐めてみる。
巻き添えに殺されたらどうなることかと思ったけれど、両者は一時動きを止めてくれた。
「レオン。殺しに来たよ。」
フラフラとした足取りで近づく。血濡れた髪がへばりつき、まるで幽鬼のように見えたろう。レオンの隣に立って、ダガーを右に構える。
彼は目を合わせてくれた、それで顎と腕の震えが収まる。それで意思疎通したつもり。地獄への選別としては十分すぎる。
十数メートル先、魔術師の射程にあるところでクラリティが哄笑していた。狙いを定め、ふらついたふりをして左手足を地面につける。
「なんだ。暗殺に使った娘か。一山いくらの情婦にこの期に及んで狙われるとは、どこまでも愚か___!?」
(____カリ・シラット!!!)
瞬きよりも、嘆きよりも鋭く。ナイフが魔術師の喉元に向かって伸びる。初見殺しの一撃でなければ、容易に対処されただろう。驚愕に瞳が見開かれる。でも、今更詠唱は間に合わない!
(殺せるなら直好!死ね_____!)
喉笛から頸動脈にかけて、切り裂く瞬間を無双した。
___しかし。傍らの従者に動きは読まれていた
「うっかりなんですから。」
ケイオスの徒手空拳で、あっさりと私は無力に宙を舞う。
「……私に恥をかかせたな。死ね。」
クラリティの手のひらに魔力が充填されていく。まだ魔法は放たれていないのに、焦げるような熱を感じる。ああ、ようやく死ぬんだなあ、と再確認。
くそ、一瞬でも行けると思わせやがって。ちょっと、笑いが溢れる。でも目的___手数は割かせた。レオン、この隙に逃げてくれるかな。そうはならなくても、少しでも戦局を有利にできたなら。
そう思って、眼下の彼を見____
え?
逃げるはずの彼は、猛速度で私を庇うように飛び出していた。裂帛の叫びとともに、聖剣を振りかざす。
『全魔力解放___聖剣よ、我らを守り賜え!』
花弁が重なるようにして、私たちを守るシェルターを形成していく。音すら遮断され、二人の間に安寧が訪れる。
クラリティの魔術は弾かれるが、焦った様子はない。私だって知っている。これは____
「生命力と魔力を引き換えにする代わりに、三分間の絶対防御を構築する。……でも、ここから動けんことは変わらんから、詰みだな。死んだわ、俺」
「_____なんて?」
本当に、意味がわからなかった。
彼は鼻が折れていた。胸以外にも、無数の裂傷が刻まれていた。それでも蒼顔をニヒルに歪ませて。
「そりゃ……一度愛した女を不幸にするわけにはいかないだろ?」
私は買いかぶっていた。聖人か何かだと思っていた。
救いようのない女好き。………どこまでも、それがレオンハルトという男だった。
やっと五万文字くらいかけました。本0.5冊ぶんくらい。見てくれている方、ありがとうございます。
しかし、コンスタントにこれだけ書いている作家さんというのはすごいですね。




