或る婦人の談話
あなたのことが好きでした。
身なりは汚く、人に金をせびってばかりで、くさいシミのあるアパートに住んでいるあなた。誰からも見下されているのに世捨ての賢人だと思い込んでいるあなた。「凡俗穢多脳が足りぬ冷血漢気狂い蛮人」と手当たり次第に毒を吐き続けるあなた。
友人がいないのも納得がいきました。けれど私は、自分の世界というものを堅く持っていらっしゃる方だと感じていました。
親や友人に進められるままに真面目に勉強をし、そして楽しくもない仕事をしている私。社会に馴染もうとしながらも、心の内ではその全てを見下していた私。
あなたの攻撃性はそのまま私の後悔を代弁してくれているかのような気がしていました。
数十年を友人として過ごしたつもりですが、驚くほどに言うべきことがありませんね。それもそのはず、あなたは相変わらずくっさいくっさいアパートに住んで、意味のわからぬ空想にふけっていたからです。進歩がなかったのです。
私が会社に務め、おべっかを覚え、若者を教育している間に。その思慮の足りなさが羨ましかったです。
時折それを宥める人がいても、無愛想に突き放していましたね。だから私だけは学生時代のように700円のラーメンを奢ってあげたり、心ばかりの差し入れをしたりもしました。
私たちの関係に変化が生じたのは、あなたの小説が何かの佳作を得た時でしょうか。あなたは急にひげを剃り、スーツのためのお金を無心しました。礼と嘘を覚えはじめました。急に別人になったかのような心地がしました。
誰かと愛想よく会話しているあなたがひどく不快でした。
あなたも、誰かに認められずにはいられない凡俗なのですね。
末路は見えています。せめてド派手に死んでください。




