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第7話:変化と帰還、イムの想い


 ―――探索者ギルド。

 ギルドでは相変わらず、併設された酒場からの喧騒と酒の匂いに包まれていた。夕闇の深まるこの時間は、酒場では帰還した探索者たちであふれかえっていた。


「マリナさん! 今日もこれよろしく!」


「承知いたしました」


 ゴブリンソードマンに辛くも勝利を収めたが、今のままではだめだと悟りゴブリンを倒しつつもイムはギルドまで帰還していた。そして魔石を渡してからいつもと同じように一分ほど待つと、数枚の硬貨と革袋を差し出してくる受付嬢のマリナ。


「……銀貨が五枚と銅貨が四枚になります」


「おう! ありがとな!」


 報酬を受け取りつつイムは懐にそれらをしまっていると、ふと視線を感じて顔を上げる。マリナがその整った顔立ちをイムの方に向け、何かを言いたそうにじっとこちらを見つめていた。


「ん? 俺の顔になんかついてる?」


 自身の顔に何かついてるのかと片手で顔を擦るイムに、マリナはしばらく眉をひそめて黙っていたが、意を決して、といった風な形で口を開く。


「……ゴブリンソードマンを、倒されたんですか」


「あぁ、今日は試しでな! 一匹だけ倒してきた!」


 一匹が限界だった、ではなくあたかも最初から一匹だけ倒すのが目的だったと言わんばかりのイムに、マリナは更に言葉を吐きだす。


「……ゴブリンソードマンは」


「ん?」


「ゴブリンソードマンは、駆け出しの冒険者が一番怪我や死亡をする要因になっている魔物です……油断せず、気を付けてください」


「え? お、おう! 任せとけ!」


 まさか、目線やしぐさから嫌われていると思っていたマリナから、そんな直接的な心配の言葉が出るとは全く思っていなかったイムは、動揺しながらも何とか言葉を返す。そして、離れるタイミングを見失ったイムと、柄にもないことを言ったと自覚しているマリナの間に数秒の沈黙が降りる。


「……以上です、お気をつけてお帰り下さい」


「分かった、ありがとな、マリナさん!」


 沈黙に耐え切れなくなったマリナが、ふいっと明後日の方向へ視線を逸らしながらそっけなくそう告げると、イムも笑顔になりつつ礼をマリナに伝え、その場を去った。




「あ! 兄ちゃん!」

「おかえりー!」


 孤児院に戻るといつものように弟妹が迎えに来てくれ、それを嬉しく感じながら二人の頭をなでる。


「ただいま! ほら、二人とも今日もクレラやシスターの言うこと聞いていい子にしてたか?」


「してた!」

「してたよ~!」


 二人の後ろではそんな様子を見守りつつ苦笑いしながらうなずくクレラとすでに湯を沸かして着替えも持ってきているシスターディアの姿があった、それをありがたく感じながらイムは体を流しに行くと言い浴場へ向かう。


 その時、浴場の前まで一緒についてきていたシスターから言葉を掛けられるイム。


「イム……あなた、怪我はしていない?」


「ん? 特にしてないぞ?」


「ここ、服が切れているわ」


 そう言ってシスターが指を差したのはイムの服の一部、ゴブリンソードマンの攻撃をぎりぎりで避けた時に斬り裂かれてしまった箇所だった。


「あ~、今日剣を持った相手と戦った時にちょっとドジっちゃって……。でも怪我とかはないぜ!」


 そのまま上の服を脱ぎ、その場で一回転しながら無傷なことをアピールするイムだったが、シスターの顔は晴れない。


「……イム、あなたが頑張ってくれているのはよく知っています。でも、お願いだから無理しないで頂戴」


 そんな、今にも泣きそうな震えた声でイムのことを抱きしめるシスター。イムも、それを受け止めつつも譲れないものがあると返す。


「シスター、俺なら大丈夫。絶対に生きて帰るし、何よりみんなが不自由しない暮らしにしたいんだ」


「イム……」


「外でさ、冷ややかな目で見られたりするのは、俺だけで十分。クレラやジル、チルアが大人になって外に出る時に、そんな偏見の目で見られない様に、毎日風呂に入れて健康的な食事ができる。綺麗な服着て出かけられる。そんな日常を絶対作り出して見せるから、信じててよ、シスター」


 自分たちが「親のない身寄りのない子」として、貧しい子供だと街の人々からどれほど蔑みや憐みの視線を向けられてきたか。イムはその痛みを誰よりも知っていた。だからこそ、幼い弟妹たちには決してそんな思いをさせたくなかった。


 語り掛けるイムに、シスターは無力感に苛まれつつもどこか誇らしい気持ちも湧き出てきていた。孤児院の長男とも言うべきイムが、家族のことをここまで考えて行動してくれている。その事実が親代わりとも言うべきシスターにとっては、何よりも嬉しかったのだ。


「分かりました、絶対に、絶対に毎日無事に帰ってきてね」


「おう! 任せとけよシスター! じゃあ俺体流してくるな!」


「ええ、いってらっしゃい。ご飯の用意しときますから、出たら食べますよ」


「お! 楽しみにしとく!」


 浴場に入るイムを見送るシスターの顔に、もう涙は流れていなかった。




(さてと、ゴブリンソードマンな……ゴブリンと比べても厄介すぎる)


 お湯を浴びながら一人考えるイム。それは今日苦戦させられたゴブリンソードマンについてだった。


(炎弾やゴブリンの幻影は単発じゃ通用しなかった。一番有効だったのは目隠し、か。)


 脳内で今日の戦闘の光景を再度思い浮かべる。炎弾は剣で斬り払われ、幻影は一瞬で見破られた。しかし、土壁を生み出して視界を完全に遮断し、そこから石つぶてを叩き込んだ瞬間だけは、明確に相手の主導権を奪うことができたのだ。頭を洗い、体をこすりながらも頭の中はそれでいっぱいであった。


(目隠し……例えばそうだな、混乱する状況を連続でぶつけて、こっちのペースに持って行く、か?)


 ゴブリンソードマンの攻略法を考えながら、体も洗い終わり、タオルで全身を拭いて浴場から出ていく。


(よし、明日またリベンジに行こう。これで一方的に倒せるようになればより強くもなれるし、何よりももっと稼げる。やってやる)


 髪を乾かしながら脱衣所のドアを開けると、香ばしいスープと焼き立てのパンの匂いが鼻腔をくすぐった。明日の行動も決め、ゴブリンソードマンにどうやって勝つかを考えつつも、イムはみんなが待っているリビングに歩みを進めていった。


 

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― 新着の感想 ―
ソードマンの石は、五個貯めてからの方がいいと思うのですが……そこまで余裕がないのかな? おまけをもらえる方が、お得だと思うけど。
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