第6話:新たな挑戦
ダンジョン攻略を始めて数日が経過した。ゴブリンを倒すのに慣れが出始めた頃、いつもと同じように銅級ダンジョンに来ていた。
「よっ、と」
イムは二階層で丁度ゴブリンを倒し終えたところだった。倒したゴブリンが魔石のみを残し粒子となって消えていく。
「大分ゴブリンを倒すのにも慣れてきたな、でも……」
本日手に入れた魔石を数えるイム。現時点で手に入れている魔石三十個ほどであった。これは納品すると銀貨約六枚。家族五人で暮らしていくには、一日の食費だけで消えてしまう程度だ。
「もう少し、稼がなきゃな……」
現状のままでは焼け石に水だと悟ったイムはそうぼやきつつ、その日は帰路に着く。
ギルドに到着し、納品するために今日も受付の元へ向かうイム。
いつも通り受付嬢のマリナに対し、笑いかけながらお願いする。
「マリナさん! 今日も納品よろしく頼むな!」
懐から革袋を取り出し、中に入れたゴブリンの魔石をカウンターに置く。
「……承知いたしました、少々お待ちください」
そして一分ほど待つと、マリナは革袋と銀貨をイムに差し出す。
「こちら革袋と、銀貨6枚になります……本日も銀貨でよろしかったですか?」
「おう! ありがとな!」
「……」
イムは差し出された銀貨を、そのまま革袋に入れて回収し、笑顔でマリナに礼を言った。マリナはそんなイムを見て、何とも言えない表情をしながらも、静かに礼を返すにとどめた。
「とりあえず今日の分は稼げたけど……明日以降は、ゴブリンソードマン、こいつに挑戦してみるか」
初日と比べても、今日は安定してゴブリンを倒せた自信がイムにはあった。銅級ダンジョンの三階から出現するゴブリンソードマン、こいつなら今までと同じやり方でも倒せると踏んでイムはクエストボードを確認する。
『ゴブリンソードマンの魔石納品:一個当たり銅貨四枚、五個纏めて納品するたび追加一枚』
ゴブリンと比べてもその魔石の値段は倍。十五体倒すだけで今日の分を超える額稼ぐことができる。
それを確認してから、日が落ちる街並みの中、イムは孤児院へと帰っていった。
翌日、朝から町を出ていつものように門番のダレルと二言三言交わした後、銅級ダンジョンへと潜っていた。
「この先が、三階層か。やるぞ」
決意を新たに階段を下りていくイム。三階層もそれまでと特に景色に変わりない、がここから新たな敵、ゴブリンソードマンが出現するようになる。
そして、数分ほど歩くと、目当てのモンスターが目の前に現れた。
「グギャァァァ!」
ゴブリンソードマン、通常のゴブリンと比べて一回りほど大きくなり、身体能力も上昇し、何よりその手に持つ物が、こん棒から錆びた鉄製の剣になっているモンスターだ。
相手は一人、冷静に周りを確認したイムは、今までも使ってきた必勝の手を使う。
「炎弾! ッシ!」
奇術で生み出した炎弾をぶつけ、その隙に攻撃しようとする、が。
「ギャッ!」
「ッ!?」
炎弾を冷静に斬り払い、返す刃でイムのことを攻撃するゴブリンソードマン。
間一髪攻撃する前に止まることのできたイムは、避けることはできたものの服が一部斬り裂かれる。
「くっ、ゴブリン召喚!」
「グギャァ? ギャッ!」
ゴブリンの幻影を召喚し、惑わそうとするも、それらも一瞬で斬り裂かれ無に帰す。
「これも効かないのか……なら、土壁! フッ!」
「ギャ!?」
イムは今までの必勝法が通じないとみるや否や、別の戦法に切り替える。
イムとゴブリンソードマンの間に自身を覆い隠すほどの土の壁を生み出し、互いの姿を見えない様にした直後。間髪入れずにこぶし大の石を思いっきり投げつける。
それにぶつかりうめき声をあげたゴブリンソードマンに対し、土壁を消し更に畳みかける。
「炎弾! おらぁ!」
「ギャッ!?」
石つぶてで怯んだゴブリンソードマンは、今度は炎弾を斬り払うことができずに炎の幻影に包まれる。そんな混乱の最中にいるゴブリンソードマンの首元にイムの短剣が突き刺さる。
「グギャアァアァ!」
「おっと、あぶねぇな」
ズブリと手応えが手に伝わる。だが、死に瀕したモンスターの生命力は凄まじかった。首元から黒い血を撒き散らしながら、激痛に呻くゴブリンソードマンは、がむしゃらに鉄剣をぶんぶんと振り回し始めた。
イムは深追いせず、突き刺した短剣を引き抜くと同時に素早く後ろへ跳び退き、十分な距離を取って様子を窺う。乱暴に振り回される鉄剣が、洞窟の壁を削り、火花を散らす。
十秒ほど経過しただろうか。やがて剣の動きが鈍くなり、ゴブリンソードマンは激しく咳き込むように血を吐くと、膝から地面に崩れ落ちた。びくびくと何度か全身を痙攣させた後、その巨体は急速に粒子へと変わっていき、小さな魔石へと姿を変えた。
あとに残されたのは、静寂と、荒い息を吐くイム一人だけだった。
「何とか倒せたか……でも、一戦でこれ、しかも相手は一体、か」
戦闘に勝利したはずのイムは、その表情に影が差していた。ゴブリンの時は最大三体まで相手に出来ていたイムだったが、ゴブリンソードマンが相手では二体でも危ういと自分でも感じていたからだ。
「……ダメだ。一旦、今日はゴブリン狩りに戻ろう」
イムは重い溜息をつき、拾い上げたいつもより気持ち大きめの魔石を革袋にしまうと、来た道を静かに引き返した。
三階層の冷たい空気を背に受けながら二階層へと戻り、いつもの見慣れた、けれど今のイムにはどこか恐ろしくも思えるゴブリンたちを相手に短剣を振るい、慎重に一日を終えるのだった。




